温室効果ガス「実質ゼロ」の原動力と期待されるグリーンファイナンス

産経デジタル編集チーム
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地球温暖化対策の新しい国際ルール「パリ協定」は、「今世紀後半に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」ことを掲げており、世界の温暖化対策は大きな転換点を迎えている。低炭素社会から脱炭素社会への進歩を実現するために欠かせないのが、経済の血液とも呼ばれる「金融」の役割だ。気候変動抑制や気候変動適応を可能にする大がかりなインフラなどの構造転換のためには、莫大な資金が必要であり、民間資金の活用が不可欠だからだ。世界の金融機関がグリーンファイナンスへの取り組みを進める中で、日本の政府や経済界も、気候変動の分野に対するファイナンスへの重要性を指摘する声が高まり始めた。

グリーンファイナンスとは、グリーンボンド(グリーン債)や再生可能エネルギー事業への投資、環境プロジェクトへの融資など環境に資する資金提供など幅広い概念を意味する金融用語だ。環境省が2016年秋に都内で開いたシンポジウム「パリ協定から拡がる金融フロンティア」でも、グリーンファイナンスの重要性を指摘する声が相次いだ。OECDの玉木林太郎事務次長は「今世紀後半に人為的な温室効果ガスの排出をネット・ゼロにするというパリ協定が意味するのは、化石燃料(石炭・石油・ガス)依存からの脱却であり、これまでの社会・経済システムの転換に伴うリスクと機会に着目する必要がある」と指摘した。

環境省が2016年秋に開いたシンポジウム「パリ協定から拡がる金融フロンティア」

気候変動問題や生物多様性の喪失などの問題への対処を研究している大和総研の河口真理子主席研究員は「グローバルでは低炭素ではなく、脱炭素社会の実現に動き出している」と話す。ノルウェーの政府系年金など欧米の機関投資家の間では、石炭関連企業の投資を引き上げるダイベストメントが盛ん。その動きは他の証券にも広がっている。企業や地方自治体などが再生可能エネルギー事業などのグリーンプロジェクトに要する資金を調達するグリーンボンドも注目されている。米アップルが、グローバルで進めるクリーンエネルギー・プロジェクトの展開を加速させるため、15億米ドルのグリーンボンドを発行するなど、世界の大手企業、金融機関、政府などが取り組みを始めている。

大和総研の河口真理子主席研究員は、脱炭素へ向けた取り組みの重要性を指摘する

ひと昔前までは、グリーンファイナンスと言えば、環境に優しい取り組みに対する倫理的な投資というとらえ方が支配的だった。しかし、河口主席研究員は「気候変動問題は経済問題そのものであるという認識をもって、企業は対応するべきだ」と強調する。企業の気候変動に関する対策を公表している国際的なNPOであるCDPは、気候変動情報やESG情報は重要な投資判断情報であるとし、主要国の時価総額上位企業に対して質問状を送付しており、企業からの回答率も高まっている。ただ、CDP気候変動レポート2016によると、日本企業の回答率は53%にとどまり、グローバル500社の76%、米国S&P500の65%を下回っている。

一方、投資の対義語であるダイベストメント(投資撤退)という言葉も注目を集めている。ここ数年、海外では化石燃料ダイベストメント、という活動が活発化している。2016年12月には、フランスの公的積立年金基金FRR(フランス年金準備基金)が、同基金が運用するポートフォリオから、たばこ関連企業と、売上の20%以上が石炭採掘または石炭火力発電事業の企業の株式および債券を除外する方針を明らかにしたほか、ドイツ銀行グループは、内部規定を改訂し、未開発鉱区での新規石炭採掘と石炭火力発電の双方に対する投融資を停止するダイベストメントを2016年12月から始めた。パリ会議以降、直接金融を扱うファンドやアセットマネージャー、間接金融を扱う銀行とともに、欧米では金融機関全体で気候変動問題に対する関心が高まっている。中国でも同様に石炭産業に対して金融機関のアセスメントを強めるよう行政指令が出ている。

グリーンボンドの発行市場規模は、年々拡大している。2012年以前は、発行体は世界銀行などの開発金融機関に限定されるなど、比較的ニッチな商品だったため、年間発行額も30億ドル前後で推移していた。しかし、2013年に民間企業による発行が始まってから急成長している。とりわけ、2013年から2014年にかけては、115億ドルから370億ドルと3倍以上増加した。発行体別では、米国のバンクオブアメリカなどの民間金融機関や、フランス電力(EDF)などの民間企業のほか、ロンドン市やパリ市などの欧州の自治体や、コネチカット州やサンフランシスコ市などの米国の自治体が発行している。

最近では、環境分野への資金供給を促進させようと、各国政府が積極的なバックアップに乗り出している。特に環境問題が深刻化している中国では、中国人民銀行と国連環境計画が共同で、中国のグリーンな金融システム構築のための提言を行うほか、中国が議長国を務めた2016年のG20で、グリーンファイナンスのスタディグループを組成するなど積極的に取り組んでいる。

環境投資への出遅れが指摘されていた日本でも、環境省が、ESG(環境、社会、ガバナンス)投資やグリーンボンドの普及などを通じてグリーンファイナンスの推進に力を入れている。こうした流れを受け、2014年の日本政策投資銀行、2015年の三井住友銀行に続き、2016年には複数の企業がグリーンボンドを発行した。資金の使途を太陽光発電などの環境に配慮したプロジェクトに対するファイナンスに限定しているのが特徴だ。成長が期待される環境関連事業に振り向ける資金を、環境問題に関心の高い投資家から調達する狙い。さらに、自治体でも同様の動きが広がる見込みで、東京都はグリーンボンド発行に向けたトライアル施策として「東京環境サポーター債」を売り出している。

一方、日本国内の投資家は、グリーンボンド市場の初期段階から有力な買い手としても知られている。日本では、ESG投資への関心が高まっていることが背景にある。2015年には年金積立金管理運用独立行政法人が責任投資原則(PRI)へ署名するなど、投資先選定にあたりESGに配慮した意思決定を行おうとする投資家の裾野は拡大している。

日本では、エコカーやスマートシティなど低炭素化への取り組みは注目されているが、地球温暖化への対策だけでは力不足との指摘もある。大和総研の河口主席研究員は「気候変動問題はもはや地球規模の経済リスクとなっており、異常気象をもたらす気候変動が国際社会にとっての大きな脅威となっているという認識を共有し、脱炭素化への取り組みを加速させ、異常気象への適応を急ぐ必要がある」と警告している。

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