みんなの「再エネ」取組み

再エネを導入された個人、自治体、企業の方に
取材を行い
具体的な導入事例などを
ご紹介させていただきます。

再エネで電力の「地産地消」を推進-新潟市の取り組み

2050年度までに、二酸化炭素(CO2)の排出量を実質ゼロにする「ゼロカーボンシティ」を目指す新潟市。同市では地域内で再生可能エネルギーをつくり、地域内で活用する地域循環型の取り組みを官民協働で進めています。市環境政策課の担当者は「エネルギーの地産地消を通して地域の脱炭素化と経済活性化を図りたい」と話しています。

地域新電力「新潟スワンエナジー」

新潟市では2019年7月、ごみ焼却施設「新田清掃センター」(新潟市西区)の運営を担う「JFEエンジニアリング」(東京、JFEE)と新潟市、第四北越フィナンシャルグループが共同出資して県内初の地域新電力会社「新潟スワンエナジー株式会社」が設立されました=スキーム図=。

スキーム図 新潟スワンエナジー株式会社の事業スキーム スキーム図 新潟スワンエナジー株式会社の事業スキーム
グラフ 新潟スワンエナジーの電源構成(2020年) グラフ 新潟スワンエナジーの電源構成(2020年)

新田清掃センターでは、ごみ焼却熱を利用して作られる電力のうち、多くが余剰電力となっています。スワンエナジーはこの余剰電力を中心に地域の再エネを調達、地域内に電力を供給します。収益は市に還元され、太陽光発電設備など地域の脱炭素化に向けた投資に充てられます。市環境政策課は「再エネの自給自足モデルを構築し、再エネの主力電源化を図りたい」と強調します。

19年11月から市有施設への送電を開始。22年2月末時点では新田清掃センターのほか、市内と近郊の太陽光、風力、水力発電所の計34施設から再エネを調達し、区役所や公民館など公共298施設と民間の10施設に電力を供給するまでになりました。2020年時点で供給する施設合計での「CO2ゼロ電源比率」は87%=グラフ=。公共施設では合計で年間約3千万円の電気料金削減と約1万トンのCO2削減が見込まれます。

写真① 満願寺浄水場に置かれた太陽光発電設備 写真① 満願寺浄水場に置かれた太陽光発電設備

スワンエナジーは20年12月から地域の再エネ電源を活用し「実質再エネ100%」を実現する新しい電気プランも用意。新潟市美術館など3施設では地域の再エネで電力を賄うカーボンフリーの電力が通年で供給されています。市内6区役所と新潟市中央卸売市場の計7施設でもSDGsのゴール7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」にちなんで毎月「7日」の使用電力を再エネ100%にするプランが導入されています。

新たな再エネ活用の仕組みも取り入れています。

東北電力ネットワークの送電網を活用して、亀田清掃センターの廃棄物発電の余剰電力を浄水場など20の市のインフラ施設に供給する「自己託送」を始めました。

民間の資金を活用し、新しい再エネ電源を作り出す市有施設も。新潟市の中央卸売市場と満願寺浄水場ではスワンエナジーが太陽光発電設備を無償で設置*写真①。運用やメンテナンスも担う代わりに、設備の設置先である市は自家消費分の電気料金を支払う「太陽光PPA事業」が始まりました。

スワンエナジーはこのほかにも、再エネの産地証明システムの開発や、ごみ焼却施設の冷却水を活用する小水力発電にも取り組んでいます。市環境政策課は「市がスワンエナジーと連携し、市有施設で率先して再エネの活用を図ることで市民・民間への再エネの普及促進につなげたい」と説明します。

県内事業者が新たなビジネス展開

スワンエナジーの設立だけでなく、地域の事業者が脱炭素社会の推進に向けて新たなビジネスをつくっていくための場づくりも始まっています。

2020年7月には地元企業や団体、金融機関、行政など多様な主体が参加して「新潟地域脱炭素社会推進パートナーシップ会議」が設立されました=イメージ図=。官民が連携・協働し、脱炭素に関する情報共有を図り、新たなビジネス展開につなげることが目的。新潟での脱炭素の取り組みと地域経済の活性化を目指します。

イメージ図 新潟地域脱炭素社会パートナーシップ会議の組織イメージ イメージ図 新潟地域脱炭素社会パートナーシップ会議の組織イメージ

初年度は他県の脱炭素に向けた先進的な取り組みやソーラーシェアリングについての勉強会、より具体的な事業検討を行う部会などを開催。2年目となる21年度も地中熱などさまざまなテーマで学ぶ機会を設けました。

参加団体は今年1月時点で電力会社やガス事業所、金融機関などを含め、県内46団体に上ります。市環境政策課の担当者は「参加団体は増えている」と説明。「脱炭素といってもどうしたらいいか分からないが新しいビジネスの機会を学びたい、という事業者もおり、意識も変わってきている」と手応えを語ります。

実際に新しいビジネス連携も生まれています。

その一つが会議メンバーである市内の5事業者が、太陽光発電の普及を目指して取り組む「0円ソーラー」の共同広報。建物所有者は初期投資なく発電設備を設置でき、維持管理も事業者が担います。事業者が初期費用を回収した10~20年後は所有者に無償譲渡される仕組みで、カーボンフリーの電気を使えるだけでなく、災害時の非常用電源として活用したり、電気代も節約したりできる点を、連携して幅広いユーザーに広報しています。

また、市内とその近郊の市町を対象に、太陽光発電設備の共同購入を促すキャンペーンも始めました。

新潟市も「再エネ100宣言RE Action」のアンバサダーとして、中小企業が再エネ100%に向けた取り組みに向けて専門家から助言を受ける費用を支援したり、温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指す事業者や団体を認定する制度を設けたりして後押ししています。

再エネ導入に向けて市民と対話も

再エネの推進には市民に理解を深めてもらうことも大切です。

新潟市では太陽光発電と陸上風力発電について、自然環境などを踏まえて市内を「保全」、「調整」、「配慮」、「導入促進」の4区分にエリア分けし、マップに落とし込む「ゾーニング」を進めています。

その過程で、市民に地球温暖化の現状や再エネの必要性について理解を深めてもらおうと、21年11月から22年1月にかけて広く住民を対象とした「みんなで考える再生可能エネルギーワークショップ」(3回)を開催。市民団体メンバーや農業関係者、学生らが集まり、再エネ導入に向けた留意事項や導入時の合意形成の在り方について意見交換しました。

写真② みんなで考える再生可能エネルギーワークショップの様子 写真② みんなで考える再生可能エネルギーワークショップの様子

市民からは再エネ導入の留意事項として「田園地域の景観は大切だから配慮してほしい」「雇用の確保や地域経済への還元も大切」「メリットもデメリットも周知しつつ、地域の合意を得て進めてほしい」といった意見が出されました。こうした市民の意見は市が作成するゾーニングに関する報告書の中にも盛り込まれる予定です。

またワークショップでは、参加者に「再エネ導入に積極的な人」「環境保全に関心がある人」「無関心な人」などの役割を与え、その立場から再エネ導入に対する意見を言ってもらうロールプレイングを実施し、合意形成のプロセスをイメージしてもらいました*写真②。

新潟市では、市内の再エネとしてポテンシャルが高いのは太陽光発電であるとみています。担当者は「家庭の脱炭素化を進める上でも、防災面でも太陽光発電の普及は重要」とした上で、「市民それぞれが再エネの必要性を感じてもらい、上手に活用してもらうことが必要。情報を正しく伝え、再エネの積極的な活用が進む仕組みづくりをしていきたい」と話しています。