我々のグループでは暑熱対策技術の一つとして、屋外に涼しい空間を簡単に提供できる「ミスト・ベンチ付き可搬式樹木」を開発しました。これは樹木を入れる大型ポッドに移動用キャスタとベンチが一体となったもので、公園や駐車場などにも簡単に樹木とベンチが設置できるシステムです。これを複数台設置することで、夏季屋外に良質の木陰とミストの涼しい空間を提供することができることから、この技術のコンセプトを「動かせる森」としています。
開発では、東京ビッグサイトやお台場で5年間にわたって効果を検証し、黒球温度と呼ばれる温度(体感温度に近い温度)が、日向に比べて10℃程度低化できることなどを確認しました。ポッドやベンチには多摩産材を使い、温暖化係数が高い揮発性有機物質が出ないようにVOCフリー塗料を使うなどの工夫もしています。
夏季屋外で快適な空間を提供するためには、しっかりとした科学的データに基づいて、効果を立証する必要があります。この開発では、すでに5年間にわたって都内での夏季実証試験を行いました。
試験では、樹木の無い日向の場所、木陰の場所、木陰にミストを加えた場所の3か所を作り、それぞれの場所で気温や湿度、風向風速、日射量、黒球温度、黒球湿球温度(WBGT:熱中症リスクの指標)などを長期にわたり測定して比較を行いました(各年の夏季約1.5ヵ月)。これらの結果、エアコン等が設置できない屋外でも、木陰にミストを加えた場所が、日向に比べて、大幅に体感温度が低減できることが確認できるなど、信頼性の高いデータが得られたと思っています。
この度、優秀賞を戴くことができましたこと大変光栄に感じております。この研究開発には、多くの企業様や行政様、教育機関様にご支援を頂きました。また、車椅子を使われている多くの皆様にもご協力を頂きました。ご支援協力を頂きましたすべての皆様に感謝申し上げたいと思います。これから都市部の夏季熱環境はますます厳しいものになることが予想されます。本研究がその対策に少しでも役立てばと思います。また、本研究では、森や里山の資源が都市部で利用され、都市部の資金が森や里山の保護に活用されるような資源・資金循環モデルの構築もコンセプトとしております。このような研究が地球温暖化対策の一助になれば幸いです。