昨今、低炭素社会の実現に向けて、さらなる省エネを促進するために、LED照明に対してますます関心が高まっています。その流れはオフィスビルにも及んでいますが、賃貸のオフィスや店舗等が入居するビルでは、ビルオーナーとテナントの考え方の相違などによりLED化がなかなか進まないことがあります。
そんな中、ビルオーナーとテナント双方がメリットを見出し、LED照明の導入を中心としたCO2削減対策を推進しているテナントビルの事例をご紹介します。
今回ご紹介する3つのビルは、ビルオーナーが、環境省の環境負荷を低減する取り組みについて、オーナーとテナントの協働を契約や覚書等で取決めを結び(グリーンリース契約等)省CO2を図る事業を支援する「平成28年度業務用ビル等における省CO2促進事業(テナントの省CO2促進事業)(国土交通省連携事業)※1」を活用して補助金を申請し、採択されています。
※1 事業の概要
補助対象者 :建築物所有者
補助対象経費:調査費用
省CO2改修費用(設備費等)
補助率 :1/2以内
これまでは、ビルオーナーが省エネなどの設備改修を行った場合、その設備改修による経済的効果はテナント側が享受することが一般的でした。そのため、ビルオーナーにとっては、設備投資をしたとしても直接的な経済的利益(光熱費削減など)を得られないため、LED照明等のより環境性能が高い機器の導入であっても躊躇する傾向がありました。
上記補助事業もそうですが、その解決策のひとつとして、いま注目されているのが「グリーンリース契約」です。この契約形式では、LED化等の環境負荷を低減する取り組みについて、ビルオーナーとテナント双方が光熱費削減等の恩恵を受けるものです。例えば、LED照明を導入する際、工事費用はビルオーナーが負担するので、テナントには初期投資の負担がかからず、かつ光熱費削減等の効果を享受できます。一方、ビルオーナーにはグリーンリース料が入り、工事費用を回収できるという仕組みです。
国土交通省のウェブページに「グリーンリース・ガイド」を公開しているので、「グリーンリース契約」の手順、契約の実例などを紹介しているので、ご参照ください。
◆グリーンリース・ガイドはこちら
この「グリーンリース契約」を活用することで、建物に省エネ効果の高いLED照明などを新たに導入しやすくなり、オーナーとテナントが協働でCO2削減に貢献できます。
三重県の南東、志摩半島に位置する鳥羽市は、美しい自然と恵まれた海産物で知られ、多くの観光客が訪れます。鳥羽一番街は、この鳥羽市にある観光商業施設で東日本大震災後、30店舗のテナントも積極的に節電に取り組んでいたそうですが、商業施設であるがゆえ、雰囲気や採光、照度などが優先されて節電には限界があったそうです。
このビルには、特産品である真珠の販売店が8店舗ありますが、従来のLED照明では陳列された真珠の輝きを引き出すのが難しく、施設のLED化の計画はなかなか進みませんでした。
しかし、ここ数年でLED照明の性能の向上や採光の改良がなされ、真珠販売店が納得するLED照明が登場してきました。
実際、全館の照明の消費電力のうち、8店の真珠販売店が50%以上を占めており、各テナントの照明をLED化すれば大きな省エネになることはオーナー側も分かっていました。
そこでオーナーは、全テナントを集めて省エネや経費削減につながるLED化およびグリーンリース契約の説明を行う会合を開きました。すると、もともと鳥羽市はその全域が伊勢志摩国立公園に位置し、豊かな自然景観に恵まれていることもあり、環境保全に対する意識が高い土地柄であったため、説明後は施設全体で取り組むことに賛同してくれたそうです。
その後、全テナントと個別に打ち合わせを行った際、飲食店からは「料理がより美味しく見えるようになるのか?」や真珠販売店からは「真珠の輝きが今と同等か、むしろそれ以上になるのか?」などの質問が寄せられました。
そのような専門的な照明の知見を得るため、インテリアデザイナーからのアドバイスも受けたそうです。
昨年(2016年)11月~今年3月上旬、夜間や休館日を利用して、30店舗の中から消費電力の多い店舗から順番に工事を行い、テナントが売り場を構えるフロアの天井、各飲食店、通路などの共有スペース、事務所など合わせて約2800台のLED照明を導入しました。
このLED化で、真珠販売店では今後大幅な電気代の節約が期待できること、また、飲食店でもあたたかみがある照明になったため、より料理が美味しく見えることなど、各テナント側からの評判も上々です。
鳥羽一番街では、補助金制度を利用しLED化以外にも空調設備(冷温水器、エアコン)もリニューアルし、年間の消費電力量は61.9%削減する見込みです。また、年間のCO2削減量は323.9トン、削減率は64.3%になる見込みです。
東京美術倶楽部ビルディングは、美術品の展覧、売買、貸会場、不動産賃貸業を営む株式会社 東京美術倶楽部の本社ビルです。5~12階に2社のテナントが入居しています。
LED導入のきかっけは、ビルの建設から約25年となったため、ビルの価値の向上をめざし大規模な改修を考えていたとき、環境省の「平成28年度テナントの省CO2促進事業」を知ったことでした。
また現在2社のテナントが入居していますが、今後、新たにテナント募集をするときに全面LED照明であれば、経費削減や環境対策でのアピールポイントになることも考慮したそうです。
テナント2社とのLED化とグリーンリース契約の交渉は、管理会社を通して行われ、コスト削減額やCO2削減量の見込みなどの資料を提示しました。見込み数値とはいえ、コストの削減額が大きいということで2社ともに快諾され、グリーンリース契約も結ぶことができたということでした。
工事は昨年(2016年)10月~11月半ば、テナントが休みの土日に行われました。5~12階のテナントフロアと共有スペースにソケットレスのLED照明器具やLEDダウンライトなどを設置。テナントフロアで約3000台、共有スペース含めると約3200台という大規模なものでした。
LEDは長寿命ということで、しばらく照明器具の交換の必要がありません。そのため替えの電球の在庫を抱える必要もなくなったそうです。
テナントからの反応も上々で、「以前の蛍光灯では光のバラつきがあったのが、LED照明ではそれがない。快適なあかり空間の中、以前より働きやすくなり仕事がはかどる」などの声もあり、省エネとともに働きやすいオフィス空間が実現され、生産性の向上にもつながっているようです。
東京美術倶楽部ビルディングでは、今回のLED化で年間の消費電力量は62.5%削減する見込みで、年間のCO2削減量は213.8トン、削減率は62.4%になると見込んでいます。
大阪市西区のオフィス街に建つ日建ビルは、鋼管を製造する日建産業株式会社の本社ビルです。
日建ビルの工事が行われたのは昨年(2016年)12月。今回、LED照明を導入したのは、テナント8社が賃貸契約を結んでいる各階のオフィスフロアをはじめ、廊下・階段などの共有スペース、さらに地下階や塔屋にある喫煙室にまでにおよび、約1000台のLED照明器具が設置されました。
オフィスフロア、廊下、階段などの蛍光灯を直管形LEDライトに交換し、階段の非常灯としてはLEDダウンライトが導入されています。
LED化のきっかけは、ビル全体の直管形蛍光灯が古くなったためで、ビルの担当者がインターネットで補助金制度を調査し、環境省の「平成28年度テナントの省CO2促進事業」に申し込んだそうです。
テナントオフィスの電気代はテナント側の負担ですが、オーナー負担である廊下や階段など共有スペースの電気代も大幅に削減され、テナントからも今回の改修は大変に喜ばれたそうです。
各テナントとの打ち合わせでは、テナントの1社から一部の照明の向きを少し変えてほしいと要望があったぐらいで、それ以外はとてもスムーズに進み、各テナントとグリーンリース契約を結んでいるそうです。
LED導入後、各テナントからは「照明が明るくなり、電気代が下がった!」「省エネ対応ができて、申し分のない改善」などという声が寄せられました。
ビルオーナーである日建産業も「LED照明に交換することで7~8年は交換する必要がないので、運用面においてもメリットを感じる。さらにビルの付加価値もあがり、大変満足」という意見でした。
実際にLED照明の導入前の昨年12月と導入後の今年1月のテナントの電気代を比べると、A社では約82,500円が約46,500円に。B社では約26,000円が約12,000円と大幅に削減されています。
ビルの年間の消費電力量は約73%削減する見込みで、年間のCO2削減量は72.2トン、削減率は75%になると見込んでいます。
今回は、LED照明を導入することで、ビルオーナーとテナント双方にメリットが生まれ省エネやCO2削減を実現した事例を紹介しました。
テナントビルにおいて、LED化によるCO2削減など環境対策への貢献や光熱費の削減は、建物そのものの資産価値の向上にも多くの効果があることが今回の取材でわかりました。
LED照明は、消費電力が少ない分、排出されるCO2も少なくなります。地球温暖化対策のためにも、オーナーとテナント双方にメリットのあるオフィスビルのLED化がこれからも期待されます。
※環境省における補助事業については平成29年度も「業務用施設等における省CO2促進事業」として実施予定です。
(お問い合わせ:環境省 地球環境局 地球温暖化対策課 地球温暖化対策事業室(03-5521-8355))