脱炭素への取り組みは、各業界がそれぞれの手法で最適なアクションを取っていく必要があります。店舗で食品や生活用品の小売業を展開する青森県民生活協同組合では、自店舗で使用する電力をFIT電気に切り替えるところからスタートし、太陽光発電の設置による自家消費の拡大へ、さらには組合員の再エネ切り替えを促進するなど、脱炭素化に向けた取り組みを段階的に進めています。同組合顧問の平野了三さんに、こうした取り組みの経緯や成果、課題などについて聞きました。
- 平野 了三(ひらの りょうぞう)
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青森県民生活協同組合 顧問。1953年生まれ。2013年6月青森県民生活協同組合理事長就任。2021年6月理事長を退任し現職に就任。
地域新電力と連携 電力の地産地消を推進
青森市内に11店舗、上北郡おいらせ町に1店舗を構える青森県民生活協同組合(青森県民生協)では、2017年に市内11店舗においてFIT電気(太陽光や風力などの再生可能エネルギー電源を用いて発電され、固定価格買取制度(FIT)によって電気事業者に買い取られた電気)の利用を始めました。一般的に宅配サービスを主軸とする生活協同組合(生協)では、トラック輸送による CO2 排出量削減などが脱炭素化に向けた主な施策となります。一方、青森県民生協では宅配サービスを行っておらず、その販売形態から、事業活動におけるCO2排出量の大半は照明や冷蔵庫、空調で使用される電力によるものであるため、「電力の脱炭素化」に重点を定めた取り組みを実施しています。
まずは、県内で生産されるFIT電気を地元で消費(地産地消)することでCO2削減に貢献しようと、2017年1月に青森県民エナジーを設立。同分野に問題意識を持ち活動していた市民風力発電事業者らと出資する形で、同県で初となる県内民間資本100%の地域新電力を誕生させました。その後、県内の風力発電所(10MW)で発電した電気を「あおもり県民でんき」とパッケージ化し、市内の11店舗に供給。同時に、組合員である生活者にも切り替えを促し始めました。
2019年には「再エネ100宣言RE Action」にも参加し、2050年までに自店舗の使用電力を100%再エネに転換することを宣言。2030年に30%再エネ化を目標に掲げ、方向性を明確に。 FIT電気から太陽光発電の設置による自家消費の拡大へと舵を切り始めました。
オンサイトPPAを皮切りに自家消費導入拡大へ
翌年3月には、その第一歩としておいらせ店にオンサイトPPA(第三者所有モデル)を導入。青森県民エナジーが、同店の屋根に自家消費型太陽光発電システムを無償で設置・運用し、発電した電気を青森県民生協が購入する仕組みです。設置容量は249.5kWで、最終的には自家消費率30%前後を目標としています。
今後はこうしたPPAモデルの導入拡大を検討していますが、一方で立地条件による難しさもあります。太平洋側に位置するおいらせ店は日照時間も長く、積雪も少ない。かたや、積雪量が多い市内の11店舗では屋根上設置は困難であるため、オフサイトPPA(敷地外に太陽光発電システムを導入し、発電した電気は送配電ネットワークを経由して需要施設に送るシステム)の検討を進めています。
自社店舗で使用する電力の再エネ化に加えて課題となるのが、組合員をこの活動にどう巻き込んでいくか。経済性を訴求するだけでなく、キャンペーンや近隣学校での講座などを通じて脱炭素化の重要性を伝えていく予定です。牛乳パックなどリサイクル品の回収などにより、生活者の環境意識の醸成を行ってきた生協だからこそできるアプローチがあるのかもしれません。