千葉市は、近年激甚化する台風や大雨といった自然災害に備えて、民間企業と連携して避難所に太陽光発電設備と蓄電池を整備して停電時でも電力供給を可能とする事業を進めています。二酸化炭素を削減できるため、気候変動対策としても位置づけています。
市は、2019年、TNクロス(NTTと東京電力ホールディングスが設立)、NTT及びNTT東日本千葉事業部と協定を締結し、災害時における被災者の生活の早期安定化及び平常時の住民サービスの向上を目的とした、新たなエネルギーインフラ活用等の共同検討を始めました。
その後、2019年秋の台風15号や19号、10月25日大雨で、甚大な被害を市広域で受けました。停電が最大約10万軒で発生し、復旧まで最長20日間かかりました。停電により携帯電話の電波が途絶え、電動の水道ポンプの停止により断水が発生しました。
未曽有の被害を教訓に、市は災害に強いまちづくりを推進するため、「千葉市災害に強いまちづくり政策パッケージ」(2020年1月23日)を策定しました。この政策パッケージにおける電力強靭化施策の具体的な取り組みとして、2020年より3カ年で、災害時の避難所となる公民館や市立学校の計182カ所に太陽光発電設備と蓄電池を導入する予定です。平時の日中は太陽光発電、夜間は蓄電池から放電して再生可能エネルギー利用の拡大を図っています。非常時には避難所の電力供給を継続することができます。なお、導入に当たっては、市の追加負担はなく、設備設置費用・維持管理費などはすべて事業者負担となっています。
太陽電池モジュールや蓄電池の設置にあたっては、設置場所の学校や公民館の構造を入念に調べて標準モデル化することで、建物ごとにカスタムするコストの削減を実現するとともに、避難所で共通するニーズを満たすようにしました。また、標準モデル化により設備調達も一括でできるようになり、その結果、設備費は個別に調達する場合に比べて大幅に削減されました。また、環境省の「地域の防災・減災と低炭素化を同時実現する自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業」も活用しました。さらに20年間の長期契約を結んだことで投資を回収できる見込みが立ったと事業者から聞いています。
ただ、設置にはクリアすべき課題が山積していました。「避難所への再生可能エネルギー等導入事業」の担当課は市環境保全課。学校の施設管理は市教育委員会。防災対策は市危機管理課。公民館もそれぞれ担当部署があります。各施設にも責任者がおり、工事には調整が必要でした。さらに市内には都市部、農村部、工業地帯、住宅地などがあり、災害時のニーズがそれぞれ異なっています。環境保全課のリードにより行政の縦割り組織に横串が通り、全庁を挙げての取り組みが実現しました。
太陽光発電設備の設置場所は建物の屋上などスペースが限られているため、災害等による停電時に使える電力量は平時より少なめです。それでも携帯電話の充電、空調機器、照明などが利用可能となり、設置前に比べて格段に利便性を高めることができました。
この事業で太陽光発電設備と蓄電池を設置している場所は、学校と公民館です。市環境保全課は「この事業モデルは全国の自治体で展開できる」と説明します。近年、災害は全国各地で発生しています。気候変動により将来的にはさらに災害の頻度が高くなると予測されています。電気は現代の生活に欠かせない重要な役割を果たしており、非常時の電源確保は全自治体の急務です。同課は「環境省が脱炭素ロードマップに掲げる「脱炭素ドミノ」の一例として、千葉市の小さな取り組みが大きなうねりとなって他自治体にも波及していけば、全国的な電力の強靱化、二酸化炭素削減が期待できる」と話します。
千葉市では昨年度44カ所に太陽光発電設備と蓄電池を設置しました。施設のすべての電力を再生可能エネルギーで賄うことはできませんが、TNクロスは「発電力を高める努力をしたい」と改善する意向です。
また、学校への設置は、環境意識を高める教育にも貢献しています。設備の設置場所には施策の銘板を付けて再生可能エネルギーの活用と災害時の電力確保を説明しています。さらにモニター等での発電量の可視化を検討しており、将来を担う子どもたちが気候変動対策としての再生可能エネルギーの重要性を身近で体験できるようにしたいと考えています。
市は今後も災害対策と併せて脱炭素の取り組みを推進する方針です。同課は「市の取り組みを輪のように広げていければ」と話しています。