みんなの「再エネ」取組み

再エネを導入された個人、自治体、企業の方に
取材を行い
具体的な導入事例などを
ご紹介させていただきます。

電気を使って育つ「地元愛」

神奈川県西部で「電力の地産地消」をコンセプトに契約者を広げている電力会社があります。その会社の名前は小田原市に本社がある「湘南電力」。熱いサポーターを増やしている同社の大脇紀業務部統括部長と山崎剛一営業企画部部長に聞きました。

湘南電力株式会社
湘南電力株式会社

左:業務部 統括部長 大脇 紀(おおわき おさむ)
右:営業企画部 部長 山崎 剛一(やまざき ごういち)

そもそもは大震災

湘南全体がパートナーコミュニティサークル 湘南全体がパートナーコミュニティサークル

Jリーグのクラブが初めて電力事業に乗り出したことで注目を集めた湘南電力は、湘南ベルマーレと電力調達支援会社のエナリス(本社・東京都)が共同出資して2014年に設立されました。電気の「地産地消」と地域のサッカークラブの強化を両立させる新しいビジネスモデルの発想が現在にもつながっています。

その2年前、湘南地域の企業38社が出資して太陽光発電を行う「ほうとくエネルギー」が設立されました。東日本大震災発生直後、湘南でも計画停電が実施され、身近に電源がない不安を経験したことが教訓になり、太陽光を中心とした発電事業を始めました。

そして作った電力を地元に着実に届けていくため、ほうとくの中心企業が17年に湘南電力を買収。本社を小田原に移し、発電と小売りをセットにした会社としてリスタートしました。

再生可能エネルギーを普及させることをコンセプトに、当初は調達する電気の半分が再エネでした。そして20年に神奈川県の事業として「0円ソーラー」がスタートするとすぐに手を挙げました。

0円ソーラーで加速

初期費用ゼロで太陽光発電設備を設置できる「0円ソーラー」は、国も脱炭素のまちを作るための有力手段の一つとしています。湘南電力は「湘南の0円ソーラー設置サービス」として事業を始めました。

住民が10年の使用契約を結び、湘南電力が住宅の屋根に太陽光パネルを無料で設置します。自宅で発電した電気を使うことなどから電気代は割安に設定され、契約期間が終わると設備を無償譲渡されます。

かつて太陽光発電の契約を巡った消費者トラブルが各地で報告され、普及のネックになっていましたが、神奈川県が県のロゴが入った配布物などで大々的にプロモーションしたおかげで不安が解消されました。

しかも県のチラシの裏面に載る登録事業者リストの一番上には湘南電力が載りました。掲載は届出順。大脇部長が「真っ先に書類を持って行きました」と話す通りの意気込みが実り、事業開始から半年で問い合わせは約500件、そこから90軒近くの成約につながりました。

地元還元でさまざまなメニュー

湘南電力の契約者に喜ばれているのが、電気料金の1%が地域課題の解決に還元される「応援メニュー」の数々です。電力会社のこうした取り組みは全国で初めてだといいます。

現在9種類ある応援メニューのうち、最も加入者が多い「地域活性化応援プラン」は地場産業の活性化や地域資源の有効活用、祭りや伝統行事など地域振興に使われます。

次に加入者が多いのが、湘南ベルマーレの強化資金をバックアップするプランと小田原市内の子ども食堂3カ所の運営資金を支援するプランです。子ども食堂を支援先に加えたところ、一般家庭や商店からの契約数が増え、年間500件を超える新規契約につながりました。

地域活性化応援プランを選ぶ利用者の電気料金一部から応援。野生のメダカを守る「みんなで稲刈り大作戦(小田原市)」の模様 地域活性化応援プランを選ぶ利用者の電気料金一部から応援。野生のメダカを守る「みんなで稲刈り大作戦(小田原市)」の模様

あとはママさんバレーボールや障害がある人の創作活動の支援、乳がん検診の啓発活動など、幅広い応援プランがあります。

支援活動をするために新たな持ち出しをする必要はなく、「普通に電気を使ってその一部が活動支援に回るのは受け入れやすいようで、お客様は自分の応援したいところに入ってもらっています」と大脇部長は手応えを語ります。

応援メニューが評価されて湘南電力に乗り換える利用客も増えています。

自分たちの電力会社

湘南電力の供給エリアは県内全域ですが、やはり茅ケ崎市、平塚市から西のエリアに契約者が多く、湘南ベルマーレのホームタウン9市11町にほぼ重なります。その人口は計200万人を超え、都道府県別では長野県に匹敵します。

電力自由化となった16年から小売り事業を始めて5年で加入者は地道に増えていますが、まだまだ可能性を秘めています。

地域密着の取り組みを続けてきて、山崎部長は「お客様からすれば『自分たちで電気会社を持ってるぜ』と言えるような距離の近さはあると思います」と結びつきの強さを感じています。一般的な感覚からすると、巨大な電力会社と利用者がそんな間柄になるのは考えにくいものです。

加入者への理解を得るのは代理店の力が大きく、その代理店網は三浦半島まで広がり、延長141㌔の相模湾をカバーするまでになりました。

大脇部長は「われわれの特徴はまさに応援プラン。地元の会社で発電した電気が自分たちの身近に巡り巡ってくると情報発信してそれに対して共感してもらう。それしか大手さんとの差別化は図れません。キーワード的には地元愛。応援プランはこれからもっともっと充実させていきます」と前を向きます。

会社が掲げるキャッチコピー「毎日を、ちょっと明るく」の通り、若い地域の電力会社は地元で力強く成長を続けています。