みんなの「再エネ」取組み

再エネを導入された個人、自治体、企業の方に
取材を行い
具体的な導入事例などを
ご紹介させていただきます。

持続可能な街づくりへ次々施策

相模湾に面し、降り注ぐ明るい日差しが印象的な小田原市が、再生可能エネルギーの利用促進に向け、活発な動きを続けています。民間の力と組み合わせながら次々と施策を繰り出す市環境部エネルギー政策推進課の倉科昭宏主査と高橋未紗主事に聞きました。

SDGs未来都市に選定

小田原市の人口18万8千人(2022年1月1日現在)は、全国800近い市の中で120位ぐらいに相当します。決して大都市ではありませんが、19年度に国連が定めた持続可能な開発目標(SDGs)未来都市に選ばれました。

50年を目標にするカーボンニュートラルに関しても、国よりも早く19年末に表明しました。東日本大震災翌年の12年に政策を進めるエネルギー政策進課を新設し、14年4月には「再生可能エネルギーの利用等の促進に関する条例」を施行。再エネをうまく使って持続可能な街づくりをしていくメッセージを早くから打ち出していました。

30年に向けた市の総合計画の中でも、環境エネルギーは特に注力する領域と位置付けられ、中でも、風力や水力ではなく、太陽光発電を軸に進んでいます。

太陽光発電シミュレーションでの啓発

そんな太陽光発電設備に市民が興味を持ってもらうため、市は住宅に導入した場合のシミュレーションを始めました。

太陽光発電設備導入支援サイト「Suncle(サンクル)」と連携したシステムで、市のホームページから入ることができます。トップページに住所を入力し、当該エリアを映す画面の地図にある屋根を指定すると、平均電気代、発電性能、節約できる電気代(節電+売電)などを瞬時に計算します。

これを見れば、どれぐらいメリットがあるかだけではなく、売電の余剰分まで分かります。どれぐらいで採算が取れるか可視化し、その結果、実際に工事に進める場合に合わせて、神奈川県のページとリンクして、登録事業者を紹介できるようになっています。

倉科主査は「いろんな形で背中を押さないといけないので、プラスになることはどんどんやっていくのが重要です」とほかにも施策を展開しています。

サンクルによる太陽光発電のシミュレーション結果画面 サンクルによる太陽光発電のシミュレーション結果画面

電気自動車のカーシェアリング事業

20年に運用を始めた電気自動車(EV)のカーシェアリング事業「eemo(イーモ)」は脱炭素型の新たな交通システム構築を目指しています。

市と民間2社でEVを県西部各地のカーシェアリングステーションに配備し、利用者はインターネットで申し込んで利用します。EVの充電は再生可能エネルギーを使用、待機中のEVのバッテリーを遠隔操作して電力需要を見ながら充放電を行うエネルギーマネジメントも実施しています。

最初に市役所や観光拠点など5カ所にステーションを設置してEV13台を配備。22年3月1日時点では26カ所のステーションでEV47台が稼働するなど、段階的に拡大しています。

EVのカーシェアリングステーション EVのカーシェアリングステーション

EVを活用した事業として市は、日産グループ4社と災害時にEVを避難所の電源などに利用する災害連携協定も結びました。災害が発生し、市の要請があった場合、同グループがEVを貸し出すほか、市内の販売店にある急速充電機を開放します。さらにeemoのEVも活用します。

災害だけではなく、観光地でリモートワークを行うワーケーションへの活用も始めました。市内のオートキャンプ場にeemoを利用するなどしてEVで来場すれば、バッテリーからの電力供給でパソコン、テレビなども使用でき、キャンプをしながらリモートワークができます。

環境価値をクーポンで還元

さらに全国でも珍しい取り組みとして、太陽光発電設備を設置した家庭を対象に市内の飲食店などで利用できるクーポン券を発行する社会実験を始めました。

市は地元の湘南電力とエネルギー関連事業を展開する東京都内の2社と協定を締結。初期費用無料で住宅の屋根のソーラーパネルを設置できる湘南電力の「0円ソーラー」を契約した世帯に、太陽光発電で自家消費した電力100キロワット時ごとに、市内の飲食店で割り引きやドリンクサービスのクーポン券を月1回発行します。サービスを受けられるのは湘南電力と再エネ使用契約を結んだ市内8店舗です。

一般家庭で発電した電力のうち、自家消費分を除いた余剰電力は電力会社に売って資金化できましたが、自家消費電力にもCO2削減に貢献した「環境価値」を認め、契約世帯や店舗に利益を還元する画期的な仕組みです。

再エネに関する技術やシステム、制度がどんどん新しくなり、先例がない中、自治体の役割は大きくなります。倉科主査はさまざまな施策について「メッセージとして打ち出すことがすごく重要。市民に向けて発信したり、考えを示し、小さな行動変容を起こしていけるようにしたい」と担う役割について話します。

小田原駅には鉄道5社が乗り入れ、新幹線を利用すると東京まで35分。観光地・箱根を控え、海や山もあり自然も豊かで、ウィズコロナの時代、注目を集めています。倉科主査は「選ばれる自治体になるために、その価値を高めたいですね」と再エネ利用を取り入れた持続可能な街づくりを進めます。