福島県は、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故からの復興理念として、「原子力に依存しない安全・安心で持続可能な社会づくり」を掲げ、「再生可能エネルギー先駆けの地の実現」を目指しています。2040年度までに、電気や化石燃料などを含めた県内エネルギー需要の100%相当量を再生可能エネルギーで生み出すのが目標です。その一環として、福島県内の再生可能エネルギー発電所でつくられた電力を県内の事業所や工場などで使う「地産地消」の取り組みを進めています。
電力の産地を「見える化」
再生可能エネルギーの「地産地消」は、福島県と連携協定を結んでいる株式会社まち未来製作所(本社・横浜市)が県内の再生可能エネルギーで発電された電力を買い取り、小売電力事業者を通じて県内の事業所や工場などに届ける仕組みです。発電者を特定した再エネ電気を需要家に供給する制度「特定卸供給契約」を活用し、電力の産地を「見える化」します。
3つのメリット 3つの安心
この事業で、県内の再生可能エネルギーでつくられた電力を使用する事業者にとって「3つのメリット」があります。
①入札制度で適正な電気価格
県内の再生可能エネルギーによる電気を供給する小売電気事業者を入札方式で決定します。よりリーズナブルでの提供を目指します。
②福島の再エネ電気が使える!
福島県内の再エネ発電所で発電された電気を利用できます。本事業で供給する県産再エネには「非化石証書」を付与します。
③地域活性化に貢献!CSRに活用!
電気代の一部を地域活性化資金として発電所のある自治体に還元し、地域活性化に貢献します。結果をCSRレポートなどに活用できます。
契約手続きに関しては「3つのあんしん」もあります。
①お手続きは簡単
特設ホームページの申込フォームに沿って情報を入力し、直近12カ月分の電気料金明細を添付するだけです。
②お申し込みは無料
福島県との共同事業で、申し込みにかかる費用はかかりません。
③契約は任意
入札結果に満足いただけない場合は契約を見送ることもできます。
一次募集は3月31日まで
福島県は2022年3月31日まで、県産再生可能エネルギーの活用を希望する事業者を募集しています。株式会社まち未来製作所のホームページの申込フォームから申し込むことができます。今後、追加募集も予定しています。
お問い合わせは、こちらのトップページより問い合わせページにお進みください。
https://www.e-fukushima.com/外部リンク
福島県の担当者に聞く
福島県企画調整部エネルギー課の寺島政智さんと泉田大輔さんに、再生可能エネルギーの普及を推進している福島県の取り組みを教えてもらいました。
―福島県での再生可能エネルギーの導入推進の背景を教えてください。
寺島さん
福島県では東日本大震災からの復興に向けた「福島県復興ビジョン」を2011年8月に策定し、その中で「原子力に依存しない、安全・安心で持続的に発展可能な社会づくり」を基本理念に掲げています。その主要施策の一つに「再生可能エネルギーの飛躍的な推進」があります。これをどのように進めていくかをまとめた計画として「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン」を2012年3月に策定しました。その中で、2040年ごろを目途に県内で使われるエネルギー全てを再生可能エネルギーで生み出すとの目標を掲げました。再生可能エネルギーの導入は着実に進み、2020年度末時点で、県内エネルギー需要の43.4%になっています。
世界的な脱炭素化の機運の高まりを受け、福島県では2021年2月に福島県2050年カーボンニュートラル宣言を出しました。県内においても脱炭素化に向けて、地域でつくられた再生可能エネルギーが地域で使われる形、すなわち「地産地消」が重要になります。
―再生可能エネルギーの「地産地消」の取り組みについて教えてください。
寺島さん
地域の再生可能エネルギー発電所と、県内の需要家を結びつける取り組みを推進しようと始めました。具体的には「特定卸供給制度」を活用します。通常、流れている電気はどこでつくられた電気なのかは特定されていません。つまり、化石燃料の使用や原発でつくられた電気が混ざっています。この特定卸供給制度では「ここの再生可能エネルギー発電所でつくられた電気を、ここで使っています」と特定した形で使えるようになります。それによって、電気は目に見えませんが、「地産地消」できるようになります。福島県がそれを後押ししようと進めています。
具体的な事務は、連携協定を締結している株式会社まち未来製作所が担います。県内の再生可能エネルギー発電所、電気を実際に取り扱う小売事業者、実際に使いたい需要家の募集は2月から開始しています。
申し込みには費用はかかりません。契約内容に満足いただけない場合は見送ることもできます。この制度を使うことで、発電所が立地する自治体に還元する、地域貢献の仕組みも検討しています。再生可能エネルギーがあることで地域にメリットがあると分かりやすく示せるように考えています。
―地産地消の推進でさらに再生可能エネルギー導入の機運が高まりますね。
寺島さん
まさにそこを考えています。「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン」は2021年12月に改定しました。以前は「再生可能エネルギー導入拡大」と「産業集積」の2つの柱で進めていましたが、今後、再生可能エネルギーを継続的に導入を進めるには地域での利用や、地域の利益が重要になると考えています。そこで、新たな柱として「持続可能なエネルギー社会」を据え、その一つに位置づけられる取り組みとして、今回の「地産地消」の取り組みがあります。
―福島県は今後、県内での再生可能エネルギーを普及させるためにどんな取り組みが大切になりますか
寺島さん
持続可能なエネルギー社会を考えると、地域主体になった取り組みが必要だと考えています。現在、再生可能エネルギーの導入割合を大きく引き上げる要因に首都圏の大企業が中心になった取り組みがあります。一方で、いろんな人が参入できるようになると、売電だけでなく、自家消費が進んだり、それが地域の防災力の強化にもつながったりします。これからは地域が主になった取り組みで「持続可能なエネルギー社会」になり、継続的に再生可能エネルギー導入を進めていけるような環境になっていくと考えています。大規模なものはもちろん必要ですが、持続可能とするためには小規模なものや、地域で利用できるものをこれから進めていくのがいいなと思っています。
―改定した福島県再生可能エネルギー推進ビジョンには「水素社会」も柱の一つに掲げましたね。
泉田さん
水素は再生可能エネルギー導入を支える柱になると考えています。現在、再生可能エネルギーの導入が進んでいますが、今後は発電量が需要量を上回ってしまう「出力抑制」という事象の発生が見込まれています。電気が余っても発電を止めるのではなく、水素に変換してエネルギーを無駄なく活用したいと考えています。再生可能エネルギーと両輪で水素の利活用も進めていきます。着実にカーボンニュートラルに向けた取り組みを進めていきます。
寺島さん
電気をためる蓄電では、充放電するときにロスが発生します。仮に100を充電しても、100は使えません。さらに放電は続くため、そのまま置いてくことはできませんが、水素は長期間ためておけるのがメリットです。輸送もできます。県内の再生可能エネルギーの導入量は2020年度時点で県内の電力消費量の83.6%に上り、2025年度には100%を目指しています。電力だけを見ると、再生可能エネルギーで発電した電力が余ってしまう未来が来てしまいます。再生可能エネルギーの導入をやっても意味がないとならないよう、水素による下支えが重要な要素になると考えています。
泉田さん
水素は2021年夏の東京五輪・パラリンピックの聖火リレーで、聖火をともすトーチの燃料としても使われました。浪江町の福島水素エネルギー研究フィールドでつくられた水素も一部使用され、県民にとっても少しずつ身近なものになりつつあります。
県内ではいわき市と郡山市に定置式水素ステーションが1カ所ずつあります。2022年度中には福島市と浪江町に、新たに定置式水素ステーションが開所する予定になっています。水素を燃料にして走る燃料電池自動車の県内の登録台数は2月末時点で338台で東北で最も普及しています。東北6県で456台なので、7割以上を占めています。今後も水素の導入を進めていきます。