気象予報士に教わる、
これからの天気と私たちにできること<第8回>

COOL CHOICE編集部
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第8回:NPO法人 気象キャスターネットワーク
気象予報士 菅井貴子さん

NPO法人気象キャスターネットワーク会員の、気象予報士の皆さんにご登場いただくインタビュー連載企画。第8回は、北海道文化放送「みんなのテレビ」で毎日のお天気をお伝えしている菅井貴子さんです。北海道の青い空と人に惚れ込んで移住された菅井さん。いまだに感動が絶えないという北海道の気候の魅力と、気になる変化について伺いました。

「本州の常識とは異なる北海道の気候に、はじめは驚きました」

―関東ご出身とのことですが、北海道へ移られて、独特の気候に驚いたことなどはありましたか?

出身は横浜ですが北海道へ来てもう13年になりました。当時、気象予報士仲間からは「外国へ行くと思いなさい」と言われたんです。確かにスギ花粉が飛ばないので花粉情報が必要なく、夏の梅雨入りのニュースもなく、本州では当たり前だったニュースがないのでちょっと驚きましたね。
それに北海道ならではだな、と思ったのは流氷の観測情報です。出漁の可否に直結しますし、海外からの観光客も多いので観光業の方々にも注目されています。ただ最近は地球温暖化の影響で流氷が訪れず、観光産業が悲鳴をあげることが多くなりました。
そんな流氷の状況や初冠雪など北海道でお伝えしている情報が、全国の気象ニュースのなかでは冬の訪れを示すモノサシになっていることを実感しますし、同時に、日本の地球温暖化の最前線でもあると感じています。北の地域ほど地球温暖化による気温上昇率は高くなると言われているのですが、実際にさまざまな現象が現れているんです。

―例えばどんなところで、地球温暖化の影響を感じていらっしゃいますか?

わかりやすいところでは桜の開花時期ですね。従来、北海道の花見はゴールデンウィークにバーベキューやジンギスカンをしながら盛大に楽しむのですが、近年は桜祭りを準備しても葉桜になっている状況です。
他にも、道内では毎月のように何かしら「観測史上一番」を塗り替えています。6月は大雨、7月は暑さ、8月は涼しさというように。特に今年の夏は北海道らしいカラッとした気候が7月の前半までで、その後は蒸し暑く「梅雨“のような”天気」とお伝えしていました。地元の方が「昔に比べて蒸し暑くなった、エゾ梅雨だ」とおっしゃるのでデータを調べてみると、実際に7月の降水量が増えているんですよね。昔は扇風機なしで生活できたのに、去年、一昨年は扇風機が売り切れとなったほどなんですよ。いままでかけずに済んでいた電力をかける生活になってきました。北海道でのクーラー普及率も3年前ですでに25.7%(※1)まで高まったそうです。

※1:平成26年度全国消費実態調査(総務省)

「台風災害に直面して、北海道でも危機意識が高まっています」

―北海道は日本の食糧庫と言われていますが、農産物への影響もあるのでしょうか?

特産の農作物の栽培にも影響が出てきていますね。地球温暖化になると太平洋側で雪が多くなると言われているのですが、十勝地方では積雪の時期が早まっています。早くから雪の布団をかぶってしまうと、例えばジャガイモは土中の不要な野良芋(芋の根)が越冬してしまい春の収穫に影響が出るので、除雪作業などの余計な手間が増えているそうです。
一方で最近は、お米やお酒、果物など従来のイメージと異なる北海道産の農産物が美味しいと言われるようになってきましたよね。北海道の人たちは、そうした環境変化には気づいても地球温暖化と結びつけて考えることは少なかったんです。ところがそんな状況のなかで、にわかに地球温暖化を身近に意識しはじめたのが、去年の台風でした。

―台風に慣れていない北海道のみなさんは、驚かれたのではないでしょうか

去年は8月~9月と台風が多く、収穫期の農産物に大きな被害が出ました。北海道は雪には強いのに雨風には弱いんです。もともと雨や風の少ないエリアなので、一般家庭には雨戸も付いていませんし、ちょっと風に吹かれると被害が大きくなりやすいんです。北海道大学の並木で有名なポプラも根っこが短いので、以前の台風でだいぶ倒されてしまいました。
雨に対しても、札幌の排水処理機能は1時間に35ミリを目指して増強している、という状況です。最近は容易に許容量を超えてしまってマンホールから雨水が溢れ出します。 札幌は地下街が発達しているので心配ですね。いままさに市でも防災対策を講じていますが、昨年の台風を経験した住民の方々も、北海道にこんなに台風が来るのは地球温暖化の影響なのではと、身にしみて危機意識を持たれたようです。
今年もさまざまな災害が多かったのですが、だからこそ今が地球温暖化について知ってもらうチャンスでもあるように感じています。目に見えにくく分かりづらい地球温暖化も、お天気を通して説明すると納得してもらいやすいですし、気象キャスターって「地球の言葉」を代弁できる仕事なのだなと実感しています。最近よくお伝えしている「観測史上一番」という言葉も、本当は「地球の悲鳴」なのだと意識しながら、みなさんにお伝えしていきたいと思っています。

「まずは知ることで、何を選ぶかが変わってくると思います」

―地球温暖化コミュニケーターとして、アドバイスをいただけますか

地球温暖化防止のためだからと「我慢」をするのではなく、我慢せずにできること、たとえば食べ物も遠い海外からわざわざ運んだものよりも、地元の旬のものを選んで地産地消を実践するとか。どっちか悩んだらこっちを選ぼうという意識をみんなで共有できたらいいなと思います。知ることで変わってくると思うので、言われたからやるのではなく自分から「こうしたい」と選べるように、子供たちにもいろいろと知ってもらいたいですね。
私は地球温暖化防止コミュニケーターとして親子イベントなどにも参加していますが、今の子供たちって地球温暖化についてよく知っているんですよね。意識の高さにびっくりしました。それに素朴な質問で私たちが気づかなかったことを提起してくれる。「温暖化だと、ひまわりの画像で見える雲も変わりますか?」という質問がありましたが、私は答えられませんでしたね。いつも新たな発見があって興味深いです。
今年も11月に札幌で開催する親子イベントに参加します。地球温暖化について親子で楽しみながら学んでいただけると思います。今回もまた、お子さんたちからハッとするような質問が寄せられるかもしれないなと、いまから楽しみにしています。

親子イベントへのお申込みはこちら
(NPO法人気象キャスターネットワークホームページ http://www.weathercaster.jp/event2017moe/

お話を伺って

大好きな北海道の自然を守りたいという気持ちから、地球温暖化についても、日々のお天気を通じてわかりやすくお伝えしようと取り組まれている菅井さん。「気象キャスターは地球の言葉を代弁できる仕事」なのだという自負から、親子イベントなどにも積極的に参加されています。普段は聞こえづらい地球からのメッセージを受け取りに、地球温暖化防止コミュニケーターの言葉に耳を傾けてみませんか?

菅井貴子さん

NPO法人 気象キャスターネットワーク会員。全国各地の放送局で気象キャスターを務めた後、念願叶えて北海道へ移住。現在は北海道文化放送「みんなのテレビ」で平日夕方の気象ニュースを担当。また地球温暖化防止コミュニケーターとして講演や親子イベントなどに参加するほか、冬の雪を夏の冷房や農業に生かす雪氷熱エネルギーの活用を広めるNPOなどで活動。番組でも環境やエネルギーに関するさまざまな話題を提供中。

NPO法人 気象キャスターネットワーク
http://www.weathercaster.jp/

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