東伊豆町のあかり実験(※)は、同町の熱川・稲取両地区の一部で、今年(2016年)の夏からはじまりました。
今回、実験を主催した熱川温泉観光協会 協会長の坂本幸雄さんをはじめ、東伊豆町観光商工課 課長補佐兼観光商工係長の森田七徳さん、あかりの設置に協力した飲食業を営む梅原光広さん、電気工事業を営む後藤厚雄さんという4名の方に集まっていただき、あかり記者hirocoがお話を伺いました。
(※)東伊豆町のあかり実験は、同町のライトアップイベント『夢あかり2016』の一環として、工学院大学 西森研究室、東京都市大学 小林研究室、ぼんぼり光環境計画の協力のもとで行われました。
―――坂本協会長、今回のあかり実験が行われて、東伊豆町の熱川・稲取両地区でどんな変化がありましたか?
坂本さん(以下敬称略)この実験が始まる少し前からパンフレットなどを配って告知していたこともあるでしょうけれど、今年は以前に比べて地元の皆さんも観光客も町をよく歩くようになりましたね。町全体にも活気が出てきたなと思います。
実験場所である駅前では街路灯を点けても、どうしても路地などに薄暗い部分ができていました。それが街路灯の代わりに空間や間隔に応じて電球形LEDランプなどの小さな照明器具を設置したら、暗い部分が解消されていました。既存の街路灯より消費電力が少ないにも関わらず、防犯性や防災性が向上したと思います。
また、町のシンボル「温泉やぐら」もライトアップしたことで存在感が増し、観光客にも評判が良いだけでなく、災害時には避難路の道標にもなります。
――あかり実験が行われた伊豆熱川駅前で飲食業を営む梅原さんは、いかがですか?
梅原 実は私、今まで「明るいことイコール賑わっている」というイメージを持っていたんです。でも実験で駅前に小さなあかりが点在しているのを見て、こういうあかりの設置のしかたも情緒があり、その上歩きやすくもなるので、防犯や防災にもつながると思うようになりました。省エネ効果やコストダウン効果も大きいので一石何鳥にもなりますね。
また何より感じたのは、「町の規模に適したあかりにすることが大事」ということです。都会と違って、熱川は昔ながらの小さな温泉町です。ウチの町なりのあかりがあるんだな、と思うようになってきました。
―――既存の街路灯・防犯灯から、情緒を感じるほのかなあかりで道筋を照らすLED照明に交換したあかり実験。地元の皆さんや観光客からはどのような声がありましたか?
坂本 地元の皆さんは既存の街路灯などに慣れていますから、実験前には夜間照明としては「ちょっと暗いんじゃないか」と心配する人もいました。しかし実施してみると、小さなあかりだけど低い位置に設置され、道筋をしっかり照らしているので歩きやすくなったという声も多く、全体としてはたいへん好評でした。観光客からも実験で設置したレトロな雰囲気の電球形LEDランプなどについて、「ぼんやりとしたあかりの色が温かい」、「昔ながらの雰囲気が素敵」などと好意的な評価をいただいています。
―――電気工事業を営む後藤さん、LED照明の導入についてはいかがしょう?
後藤 熱川地区は地域ごとに5班に分かれていて、街路灯・防犯灯にかかる費用を、それぞれの班の住民が負担しているんですね。この負担が毎年増えているので、どうしたものかと話し合っていました。
そのような事情もあり、省エネ効果が高く電気料金の低減にもつながるLED照明を採用した実験には、みんな期待を寄せました。既存の照明自体が相当古くなっていたせいもあり、交換するには良いタイミングだと思いますね。
坂本 それにね、もともと町のあかりを統一したい、っていう考えもあったんですよ。この実験でコストダウンに効果があると実証されれば、全面LED化に向けて話がグンと進むと思います。
―――この取り組みが、東伊豆町のブランド力を上げる絶好のチャンスにもなっているなと感じました。
森田 熱川温泉は、昔ドラマの舞台になったこともあったので、中高年の方々には知られているのですが、若い世代へ調査したところ、かなり認知度が低く危機感を持っていたんです。
森田 熱川を「あたがわ」じゃなく「ねつかわ」なんて読む若い人もいましたから(笑)。
そういうこともあり、外部のアイディアや意見を取り入れようと、大学の研究室や照明の専門家に協力を依頼しました。すると高台への避難を導く誘導灯と風情を醸し出すあかりは両立できるかもしれないということで、この実験がはじまったんです。
――以前は、〝あかりによるまちづくり“というコンセプトはなかったのですか?
森田 今まで私ども行政への要望というと、「暗いところを明るくしてほしい」というものが大半で、そこにはデザイン的な照明で演出するという発想や意見は皆無だったんです。
しかし、実際に実験をはじめてみたら、「照明ひとつで町の雰囲気を変えられる」ということがわかったので、地域ブランド力のアップにもなるかもしれないと期待しています。
―――電気料金の削減も重要な要素ですね。
坂本 電気料金が安くなったら、その浮いた分を観光PRの費用として使っていきたいと考えています。そういったことも含めて、この実験の効果を地元の皆さんに周知していきたいです。
梅原 資金力に乏しい町なので、なるべく早くLED照明に統一してあかりによって地元を盛り上げていきたいですね。そうすれば、消費電力を大幅にカットできて電気料金が安くなります。また、CO₂の排出も削減できて、地球温暖化対策にもなりますから。〝環境に優しいまちづくり”にもつながりますね。
坂本 今回の実験では、商店街だけでなく伊豆急行にもご協力いただいて、駅舎や駅前の街灯を既存のものからLED照明に交換しました。「町をあげて!」という感じがしてうれしいですね。まずは東伊豆町の内側から盛り上げて変えていきたいです。
後藤 多くの人が夜間照明は「明るいほど安全」という考えを持っていると思います。でも既存の街路灯の強い光だと、道路上は明るいのですが、周りに薄暗い部分が出来てしまいます。そうではなく、光源の小さいLED照明を適切に配置することで、より歩きやすい・暮らしやすい夜間照明にしていくことは可能だと思います。これから町ぐるみで挑戦していくなかで、街路灯・防犯灯に対するイメージを変えていきたいですね。私もCO₂削減効果が高い省エネのあかりが地域ブランドになることに微力ながら協力を続けていきます。
梅原 そうですね。行政ではない私のような商店主の立場で賛同者を増やしていくことが、自分の中での課題です。
森田 もともと東伊豆町を活性化したいという思いはありましたので、この絶好のチャンスに地域全体が潤うように取り組みを広めていきたいです。
最後に、熱川地区で飲食業を営む千葉節子さんにもお話を伺いました。
――千葉さんは、今回のあかり実験にどんな感想を持ちましたか?
千葉 お客様の評判がとてもいいんですよ。今は駅前だけの点灯なので、できればウチの店の前にある「お湯かけ弁財天」までお客様を案内できるように、町全体にレトロな電球形LEDランプを取り付けてほしいですね。
その方が、情緒あるでしょ!湯けむりと相まって、しっとりとした大人向けの温泉街になると思いますね。
――お店を経営されている立場だと、明るい照明の方がお客さんを呼べると思いませんか?
千葉 歴史のある温泉街なので、あかりが煌々としていないところが良いんですよ!お客様に喜んでもらえて、なおかつ省エネで電気料金が安くなるなら、すぐにでも変えてほしいと思いますね。
今回、〝あかりによるまちづくり“に対して、熱い思いを聞かせてくれた東伊豆町のみなさん、どうもありがとうございました。
お話を伺って強く感じたのは、安全安心に暮らせて、なおかつ省エネのあかりで町を盛り上げようとしているということ。
地元の皆さんの間では、当初、実験に疑問を持つ声もあったようですが、災害時の避難路へのスムーズな誘導ができ、伊豆熱川駅前での実験では既存の水銀灯と比べ電気料金が約1/8となり、CO₂の削減効果があることなどが周知されていくうちに、次第に受け入れられていったことがわかりました。
また、既存の照明をLED化することで、温泉郷のイメージアップにもつながることがわかり、町全体のあかりを変えていくことへの期待感も高まっているようです。
街路灯・防犯灯は、夜間に長時間点灯するという特徴から、従来の水銀灯や蛍光灯からCO₂の排出量を大幅に削減できるLED照明へ置き換えることによるCO₂削減効果が非常に大きいと考えられます。
地球温暖化対策としても効果的な防犯灯・街路灯のLED化について、あなたが住む地域の取組みについても、一度、確認されてはいかがでしょうか。