生活習慣から脱炭素を始めませんか?
私たちの暮らしは日々の生活習慣の積み重ねです。それがもっと環境にやさしいものになったら、脱炭素社会の実現も近づくはず。脱炭素につながるより良い生活習慣とはどのようなものなのでしょうか?
今回は、歯磨きなどオーラルケアのリーディングカンパニーであり、「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」 の官民連携協議会に参画するライオンのサステナブル推進部 部長、小和田みどりさんに話を聞きました。
小和田 みどり(こわだ みどり)
ライオン株式会社サステナビリティ推進部 部長。
同社は「事業を通じて社会のお役に立つ」という1891年の創業から変わらぬ精神を受け継ぎ、日用品などの製品やサービスの提供を通じて地球環境や社会の課題に取り組んでいる。ライオンの前身、小林富次郎商店は、製品を購入すると慈善団体に少額の寄付ができるという仕組みをつくって歯磨き粉を販売していた。その社会貢献の文化は同社の伝統として根付いている。
――ライオンは、サステナビリティの考え方として「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する」という企業理念を掲げています。どのように取り組んでいるのでしょうか?
当社グループは 2030年に向けた経営ビジョン「次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーへ」の実現に向けて、「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する」という企業理念を起点とした取り組みをより一層強化しています。
これは、創業時から受け継いできた社会貢献の意識に加えて、人々の生活の中に入り込んでいる当社グループらしく、習慣づくりを通じて人々の健康や地球環境を守る取り組みを進めるというものです。
さらに、習慣づくりによって社会課題の解決と事業拡大の両立も目指していて、これまでは社会貢献と事業成長の双方を実現することは難しいと考えられてきましたが、当社グループにはこの2つを両立させた実例があります。
具体的には、1日2回以上歯を磨くという習慣づくりによって、小学生のむし歯比率が50年前の約4分の1に減少し、ハミガキ市場の規模を約4倍に拡大したのです(図1)。
図1 ライオンの生活習慣づくり:歯磨き2回以上比率、むし歯比率などの推移(同社調べ)
このような習慣づくりを通して、生活者の行動変容を促し、一人一人のQOL(生活の質)を上げるとともに、当社では脱炭素社会・資源循環社会への貢献を目指しています。
――脱炭素社会に向けては、日用品メーカーとしてどのような取り組みをしていますか?
当社グループの製品は、洗面所やキッチン、お風呂など暮らしの水回りで多く利用されていることから、節水によるCO2削減効果に着目しています。節水というと水資源の環境保全のために行うものと捉えられることが多いのですが、CO2排出の削減にも役立ちます。
というのも、当社製品の原材料調達から廃棄までのライフサイクル全体におけるCO2排出量の約6割~7割が生活者によるものであり(図2左)、そのうちの多くが水の使用によるものだとわかったためです(図2右/編集注:上水、下水は、それぞれ浄水場や下水処理場でポンプで水を汲み上げる際などに電気を使用し、その電力の発電においてCO2が発生します)。
このことから、自社だけでなく生活者とともに排出削減に取り組まなければ、脱炭素社会の実現は難しいのではないかと考えました。
図2 自社の製品ライフサイクルにおけるCO2排出割合と、生活者による使用の内訳(同社調べ)
そこで、当社は日用品メーカーとして、環境フレンドリー製品の提供を通じて、生活者が自然に節水、脱炭素できる環境を作る「エコの習慣化」を提案しています。
例えば、泡切れの良い洗濯洗剤を開発し、洗濯の「すすぎ一回」を習慣づけることで、従来の洗剤で2回すすいでいたときと比べて1回23リットルの水を節約することもできます(同社調べ)。
このように、生活者の行動変容を促しながら環境負荷の少ない製品を開発していくことが日用品メーカーの果たすべき役割ではないかと考えています。
――脱炭素につながる生活習慣づくりのために、どのようなことに取り組んでいきたいですか?
家庭でできるエコ習慣づくりを進めるために、生活者一人一人にあった快適でエコなライフスタイルの提案を強化したいと考えています。CO2排出は家庭のあらゆる場面で発生しているので、家族の一人だけが努力しても家庭全体の排出がなかなか減らないといった課題があります。
そこで当社は、家庭のどこでCO2が排出されているかを見える化する「CO2排出マップ」の検討や、家全体のCO2排出状況を総合的に見られる「モニタリングツール」の開発などを進めています。
国や自治体、研究機関などとも連携しながらこうしたツールをブラッシュアップすることで、生活者の行動そのものをより良く変えていけると期待しています。行動変容につながるという意味では、まさに新しい国民運動の目指すところと同じです。
――資源循環型社会の実現に向けては、どのような取り組みをしていますか?また、将来の展望も教えてください。
資源循環型社会に向けては、循環し続けるプラスチック利用という基本的な考え方に立ち、リデュース・リユース・リサイクルの「3R」に「Renewable(再生可能)」を加えた「3R+Renewable」の徹底に取り組んでいます(図3)。
図3 3R + Renewableの取り組み
また、当社グループはオーラルケアのリーディングカンパニーとして使用済み歯ブラシのリサイクルにも取り組んでいます。
毎月8日を「歯ブラシ交換DAY」として、新しい歯ブラシに交換して健康な歯を目指すことを促すとともに、捨ててしまえばごみとなる使用済みハブラシを回収・リサイクルし、植木鉢などの新しいプラスチック製品に生まれ変わらせる「ハブラシリサイクル」の拠点を整備したり、自治体と連携してリサイクルに取り組んでいます。
ほかにも、日用品メーカーと協働して、洗剤などのボトル容器に詰め替えを行うための「パウチ(袋)」の水平リサイクル(資源として同じ製品に生まれ変わらせる)にも取り組んでおり、2023年の実用化を目指しています。使用したプラスチックはすべて回収・再生する取り組みを通じ、脱炭素社会と資源循環型社会の実現に貢献したいと考えています。
毎日の暮らしの中で、無理なく脱炭素を実現するには生活習慣づくりが重要です。身近な日用品の使用を通してエコを習慣化できれば、地球にやさしいライフスタイルを長く続けることができるでしょう。
一つ一つは小さな生活習慣でも、多くの人が取り組むことで大きな流れに成長します。「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」の第一歩をスタートしてみましょう。