鉄道に乗ってエコに移動しよう! 「電車de脱炭素スタンプラリー」とは?
通勤や通学、買い物や旅行など、移動は私たちの暮らしに欠かせません。日々の移動をエコにする新しいライフスタイル「スマートムーブ」。その取り組みの一つが、CO2排出量が少ない移動手段である鉄道などの公共交通機関を利用することです。
政府が2022年10月から始めた「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」でも、公共交通機関の利用を推奨しています。
環境にやさしい鉄道をもっと多くの人に使ってもらうため、JR西日本では「電車de脱炭素スタンプラリー」という取り組みを行いました。鉄道の利用によるスマートムーブを促進しているJR西日本の大槻幸士さんに詳しくお話を聞きました。
大槻 幸士(おおつき こうじ)
西日本旅客鉄道株式会社 経営戦略本部 経営戦略部。
JR西日本グループでは、2050年にグループ全体のCO2排出量を「実質ゼロ」にすることを目指している。
――スマートムーブとは何ですか? どのような効果やメリットがありますか?
スマートムーブとは、毎日の移動をエコにする新しいライフスタイルのことです。例えば、マイカーではなく鉄道など公共交通機関を利用することがあげられます。鉄道を利用するメリットは、大きく分けて3つです。
1つ目は、環境にやさしいことです。私たちが移動するときに発生するCO2は、移動手段によって異なります。一人が1km移動するとき、マイカーでは131g、航空機では133g、バスでは109gのCO2が発生しますが、鉄道は一度にたくさんのお客様を運ぶことができ、エネルギー効率が高いため、28gと少なく、エコな移動手段なのです(図1)。
日々の生活の中で、状況に合わせて鉄道などの公共交通機関を選び移動手段を見直すことで、CO2の削減に貢献することができます。
図1 鉄道は、少ないCO2排出量で一度に多くの人を運ぶことができる
2つ目が、健康にもよいこと。マイカーを使わずに駅まで歩いたり自転車に乗ったりすれば運動になり、健康にもプラスです。
そして3つ目が、快適・便利だということです。時間に正確な公共交通機関なら、目的地に時間ぴったりに到着することができるでしょう。
――鉄道の利用にはいくつもの効果やメリットがあるのですね。「電車de脱炭素スタンプラリー」とは、どういった取り組みですか?
「電車de脱炭素スタンプラリー」とは、鉄道を利用することで当社の交通系ICカード「ICOCA(イコカ)」のポイントがもらえるデジタルスタンプラリーです。
環境にやさしい鉄道についての動画を視聴したり、当社の電車に乗っていただくと、公式アプリ「WESTER(ウェスター)」上でスタンプを獲得でき、スタンプを貯めてアンケートに答えるとICOCAポイントがもらえます。大阪府の「おおさか脱炭素ポイント+」という事業と連携し、2022年11月11日から2023年1月31日まで行いました。
参加者に実施したアンケートでは「スタンプラリーを通じて、鉄道が環境にやさしい移動手段だと知ることができた。環境のためにも、今まで以上に鉄道を利用したい」「ポイントによるインセンティブだけでなく、環境に貢献できること自体がスタンプラリーへの参加動機になった」といった声がありました。
このスタンプラリーは終了しましたが、これからも脱炭素社会の実現に向けて、より一層鉄道を利用していただけるような働きかけを続けていきたいと思います。
移動手段に鉄道を選ぶことは脱炭素につながるアクションの一つとして、無理なく暮らしに取り入れられそうです。ほかにはどのような取り組みを行っていますか?
鉄道はエコな移動手段ですが、脱炭素を実現するためには、鉄道会社の立場でも、さまざまな対策が必要です。
まず、当社では、電力を多く使う旧型車両を、省エネルギーで運行できる新型車両に置き換えることを進めています。新型車両は、旧型車両と比べておよそ30~40%少ないエネルギーで運転でき、2020年度時点の新型車両の導入比率は89.5%となっています(図2)。
図2 旧型車両と比べておよそ30~40%少ないエネルギーで運転できる新型車両への置き換えを進めている(横軸=年度)
また、列車がブレーキをかけるときに発生する電気エネルギー(※回生電力)を、別の列車の走行や、駅舎の照明やエスカレーターなどのための電力として利用するなど、エネルギーの効率的な利用にも取り組んでいます(図3)。
(※編集注:減速時の運動エネルギーを電気エネルギーに変換する「回生電力」の仕組みは、電気自動車などでも利用されています)
図3 列車のブレーキによる回生電力を駅舎で有効利用
駅自体を省エネ化する取り組みも進めており、JR神戸線の摩耶駅の例では、回生電力の利用のほかに、太陽光発電設備などの導入によって、従来の同規模駅と比べて電力使用量を約50%削減することができました(図4)。
図4 駅舎の省エネ化で電力使用量を約50%削減
ほかには、軽油を燃料とするディーゼルエンジンで動く車両に対し、藻類や植物からできた燃料を導入するための実証実験に取り組んでいます(図5)。藻類や植物からできた燃料は「次世代バイオディーゼル燃料」と呼ばれ、原料となる植物などの成長過程で光合成により吸収したCO2と燃焼時に排出するCO2が相殺されるため、CO2排出量が「実質ゼロ」とみなされます。
図5 ディーゼルエンジンで動く車両(左)に、次世代バイオディーゼル燃料(右)を導入する実証実験
また、鉄道そのものではありませんが、地域の公共交通機関をより便利で持続可能なものにするために、日本初となる連節バス(大量輸送のために車体が2連以上につながっているバス)の自動運転化および自動運転バス車両の隊列走行の実用化を目指した技術開発にも取り組んでおり、現在は、滋賀県の専用テストコースで実証実験を行っています。
こうした技術開発を進めていくことと併せて、EV車や燃料電池車といった脱炭素型の車両が普及すれば、環境にやさしく持続可能な地域交通の選択肢もひろがり、社会の脱炭素化にも役立てるのではないかと考えています。
このように、新しい技術の活用や地域との連携などを通じて、これからも脱炭素社会の実現につながる取り組みを進めていきます。
マイカーなどの代わりに鉄道などの公共交通機関を使うことは、脱炭素につながるアクションの一つです。日々の移動をエコで健康なものにするため、鉄道などの公共交通機関を利用するスマートムーブを始めてみませんか。
画像・図提供:JR西日本
次世代バイオディーゼル燃料画像提供:(左から)株式会社ユーグレナ、三井物産株式会社、伊藤忠商事株式会社