おいしく食べて脱炭素!CO2排出量の少ない食品を選ぼう
私たちの食卓には、日本中、世界中から運ばれてきた食品が並びます。
一方で、食品の生産や加工、輸送や廃棄などの過程では、地球温暖化の原因であるCO2が排出されています。これらのCO2排出量は、平均的な日本人の食事の場合、一人あたり年間1.4トンにのぼると試算されています(※1)。こうしたCO2を減らすためにはどのようなことができるでしょうか。
生活協同組合のパルシステムでは、生産者・消費者・事業者が協力してCO2排出量削減や環境の保全に取り組んできました。政府が2022年10月から始めた「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」にも賛同しています。
今回は、パルシステムの髙橋宏通さんに食や農業を通じた脱炭素の取り組みについて詳しくお話を聞きました。
髙橋 宏通(たかはし ひろみち)
パルシステム生活協同組合連合会 常務執行役員。
パルシステムは、農薬や化学肥料を使うことが一般的だった40年以上前から食の安全を大切にしてきた。
――脱炭素を実現するために、どのようなことに取り組んでいますか?
パルシステムは産直や食の安全にこだわった生活協同組合で、170万人の組合員がいます。店舗を持たず、組合員があらかじめ注文した商品を、宅配で届ける仕組みなので、いつ誰がどれくらい買いにくるかわからない通常のスーパーなどと比べて、仕入れの無駄をなくすことができています。店舗を持たないことで電力などの削減を、仕入れの無駄をなくすことで食品ロスの削減を行っています。
野菜や果物、お米などの農産物分野には特に力を入れていて、農薬や化学肥料をできるだけ使わずに生産されたものを販売しています。環境にやさしい方法で作られた農作物を組合員が買うことで、間接的に環境を守ることや、有機農業などに取り組む生産者を応援することができます。有機農業の過程では土壌にCO2を貯留できる(※2)ので、脱炭素にもつながっているのです。
また、鶏ふんを使って発電するバイオマス発電にも取り組んでいます(※3)。バイオマス発電は再生可能エネルギーの一つです。使う鶏ふんには鶏舎の床に敷かれたおがくずも混ざり、おがくずの原料となる木は成長過程で大気中のCO2を吸収するため、発電時に燃やしてもエネルギー全体で考えるとCO2の増減に大きな影響がないといえます(※4)。
その電気を当組合が使うことでCO2排出量を削減し、鶏肉の生産者が鶏ふんを処理するコストを抑えるのにも役立っています。
――まさに生産者・消費者・事業者が一体となった取り組みですね。ほかにはどのような取り組みがありますか?
本来は食べることが可能なのにもかかわらず、捨てられてしまう食品ロスの削減にもかねてより取り組んできました。例えば、ニワトリは毎日卵を産みますが、宅配をするのは平日だけなので、週末に産んだ卵が余るという問題がありました。そこで、養鶏場の近くにプリン工場を建て、新鮮な余剰卵でプリンを作って販売することにしたのです。すると、とても人気の商品になりました。
ほかにも、出荷の規格に合わないなどの理由で、食べられるのに捨てられている食材は、生産地にまだたくさんあります。日本の食品ロス量は、毎日一人あたりお茶碗一杯に相当するとされています。とてももったいないことなので、規格外原料を使用した商品の開発を進めています(図1)。
「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」でも食品ロスの削減を推進していますが、食品ロスを減らすことは社会全体のCO2削減にもつながります。今後も、生産者や消費者とともに食品ロスの削減に取り組んでいきます。
図1 余剰卵や規格外原料を使用した商品の開発
――生産者や事業者も脱炭素に取り組んでいるのですね。私たち消費者が、毎日の食生活で脱炭素につながるアクションを始めるにはどうしたらよいですか?
まず、環境省のゼロカーボンアクション30の一つ「食事を食べ残さない」から始めてみてはいかがでしょうか。食べ残しをなくせば、食品ロスを削減できます。これによって、食品の加工や輸送や廃棄にかかるCO2排出量の削減だけでなく、家計の負担も減らせるでしょう。料理を作った人も、残さずに食べてもらえたら嬉しいものです。
食品ロスをなくす取り組みの一環として、2021年に「もったいない川柳」を募集したところ、子どもから大人まで1000件以上の応募がありました(図2)。入選作の一例を挙げると「食材の だぶりをなくすも ムダ防ぐ」「有機なら 丸ごと食べられ みなうれしい」「フードロス それはあなたの マネーロス」「作り手に 思い馳せると ムダが減る」など、どれも食材や生産者などを大切にする思いが伝わる力作ぞろいでした。
図2 「もったいない川柳」の応募作品数は1,000を超えた
脱炭素を実現するには、無理をして大きなことに取り組むのではなく、小さくてもよいので身近なことから始めるのが大切です。そのため、当組合は「超えてく」というスローガンを設定しました。普段の暮らしから一歩踏み出して、脱炭素につながるライフスタイルを取り入れていこうと呼びかけています。
みなさんも、食べ残しをなくすなどの身近なゼロカーボンアクションから始めて、楽しみながら続けてみてください。
CO2排出量の削減に配慮した食品を選ぶことや、毎日の食事を残さず食べ切ることも、脱炭素につながる身近な取り組みの一つです。環境にもやさしく、家計の負担も減らせる食品ロスの削減に取り組み、脱炭素につながるライフスタイルの第一歩を踏み出してみませんか。
参考
(※1)IGES「1.5°Cライフスタイル ― 脱炭素型の暮らしを実現する選択肢 ― 日本語要約版」(外部サイトへリンク)
(※2)編集注:有機農業は、化学的に合成された肥料及び農薬を使用せず、遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業。有機農業で施用された堆肥や緑肥などの中の炭素は、一部が分解されにくい“土壌有機炭素”となり長期間土壌中に貯留される。
農林水産省「農林水産分野における温暖化対策 農地による炭素貯留について」(外部サイトへリンク)
(※3)鶏ふんを燃やし、その熱で水を蒸気に変え、その蒸気でタービンを回転し、直結する発電機を回すことで発電する。
パルシステム生活協同組合連合会 「バイオマス発電(直接燃焼方式)」(外部サイトへリンク)
(※4)林野庁 「なぜ木質バイオマスを使うのか」(外部サイトへリンク)