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「第六次環境基本計画」が目指す勝負の2030年に向けた持続可能な社会の姿、環境政策の方針と重点戦略

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法制度、法規制

環境保全のための政府の取組の骨組みである環境基本計画が見直され、第六次環境基本計画が閣議決定されました。ここでは、第六次環境基本計画の概要や特徴、政策指針や重点戦略など押さえておくべきポイントをご紹介します。

環境基本計画ってなに?

環境基本計画とは

環境基本計画は、環境基本法第15条に基づき、環境の保全に関する統合的かつ長期的な施策の大綱等を定めるものです。環境大臣は、中央環境審議会の意見を聴いて案を作成し、閣議決定すること、閣議決定後は遅滞なく公表することが求められています。

これまで、計画については約6年ごとに見直されており、前計画である、第五次環境基本計画は2018年に閣議決定され、地域の資源を持続可能な形で活用し、自立・分散型の社会を形成しつつ地域間で支え合う「地域循環共生圏」の創造を目指す方針を打ち出しました。そして、2024年5月に新たに第六次環境基本計画が閣議決定されました。

環境基本計画策定までの流れ

以下は、策定までの基本的な流れと、第六次環境基本計画の策定スケジュールの一覧です。

第六次環境基本計画は、2023年5月に環境大臣から中央環境審議会に対して諮問がなされ、2023年10月には中間とりまとめが公表されました。その後、各種団体等との意見交換会やパブリックコメントを経て、2024年5月に中央環境審議会から環境大臣に答申がなされた後 、同月21日に閣議決定されました。

「環境基本計画策定の流れ」と「第六次環境基本計画策定スケジュール」として、
・「1. 環境大臣から中央環境審議会に諮問」が 2023年5月から、
・「2. 中央環境審議会から環境大臣に答申」が 2024年5月から、
・「3. 中央環境審議会の答申を踏まえて 環境大臣が案を作成」し、
・「4. 政府の計画として閣議決定」が 2024年5月21日 となりました。
環境基本計画策定の流れと第六次環境基本計画策定スケジュール

第六次環境基本計画はどんな内容?

第六次環境基本計画の背景となる現状の課題と2030年の重要性

G7広島首脳コミュニケ(2023年5月20日)では、我々の地球が「気候変動」「生物多様性の損失」「汚染」という3つの危機に直面していることが明確に述べられました。

地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)」の研究では、2015年の研究結果と比べて2023年の結果では、種の絶滅速度と窒素・リンの循環に加え、気候変動、土地利用変化、新規化学物質、淡水の利用について、不確実性の領域を超えて高リスクの領域にあるとされ、人類の活動は、人間が安全に活動できる環境収容力(プラネタリー・バウンダリー)を越えつつあることが示されました。

プラネタリー・バウンダリー 2023年版

経済・社会面では、日本は人口減少と少子高齢化、東京一極集中と地方の疲弊、経済の長期停滞といった課題を抱えています。紛争による環境破壊やエネルギー危機のように、安全保障上の危機によってもたらされる環境上のリスクも発生しています。また、感染症によるパンデミックは、環境、生態系のバランスの乱れによるリスクを改めて明らかにしました。

こうした現状を踏まえ、持続可能な社会に向けた新たな文明の創造、経済社会システムの大変革が急務となっています。第六次環境基本計画のターゲットである2030年頃までの約10年間に行われる選択や実施する対策は、現在から数千年先まで影響を持つ可能性が高いとも指摘されており、まさに環境・経済・社会すべてにおいて「勝負の2030年」といえます。

第六次環境基本計画の目指す持続可能な社会の姿

第六次環境基本計画では、現状の課題を踏まえ、「環境保全」を通じた、「現在及び将来の国民一人一人の生活の質、幸福度、ウェルビーイング、経済厚生の向上」、「人類の福祉への貢献」の実現を目的としており、そのために、環境収容力を守り環境の質を上げることによって成長・発展できる「循環共生型社会」を目指しています。

この「循環共生型社会」における「循環」については、再生可能な資源・エネルギーである地上資源を基調とし、資源循環を進め、相乗効果やトレードオフといった分野間の関係性を踏まえた環境負荷の総量削減や、自然資本の維持・回復・充実と持続可能な利用を積極的に図ることを通じた良好な環境の創出により、環境収容力を守る「循環を基調とした経済社会システム」を実現していくことが重要です。

また、「共生」とは、人・生きもの・環境が密接に結びつき、お互いに影響を与え、人が生態系・環境の健全な一員となっている状態を指しています。我が国の伝統的価値観である「共生」の考え方を活かしながら、地球の健康は人の健康にも影響を及ぼすことから、地球と人の健康を一体的に捉えて取り組む必要があるという「プラネタリー・ヘルス」の考え方が重要です。

さらに、一人一人の意識・取組は、地域、企業の取組、国全体の経済社会の在り方、さらには地球の未来につながるものであり、「同心円」の関係にあるといえます。自然と人との共生に加えて、地域間の共生を図ることや、将来の国民との共生、人類との共生も求められています。

※地域・企業などには、地方公共団体、地域コミュニティ、企業、NPO・NGO等の団体を含む。
同心円のイメージ

第六次環境基本計画の役割・方針

環境基本計画は、全ての環境分野を統合する最上位の計画として目指すべき文明・経済社会の在り方を提示するものです。

これまでの第五次環境基本計画では、今後の環境政策が果たすべき役割として、「環境政策による経済社会システム、ライフスタイル、技術といったあらゆる観点からのイノベーションの創出と経済・社会的課題の同時解決を実現することにより、将来にわたって質の高い生活をもたらす『新たな成長』」につなげていくことを提示しました。

今回閣議決定された第六次環境基本計画では、この「新たな成長」を実現するため、環境・経済・社会の統合的向上を目指す上位の目的として、「ウェルビーイング/高い生活の質」(市場的価値+非市場的価値)が掲げられています。これは、環境基本法第1条が、「環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的とする」と規定していることとも同じ趣旨です。

「ウェルビーイング/高い生活の質」(市場的価値+非市場的価値)の向上をもたらす「新たな成長」の実現のために、6つの視点が挙げられています。

①ストック重視:
GDPなどのフローだけでなく、ストックとしての自然資本を充実させることが不可欠
②長期的視点:
未来に向けた積極的な投資など長期的視点や、世代間衡平性を始めとした包括的な視点
③本質的ニーズ重視:
現在及び将来の国民の本質的なニーズを踏まえた対応・イノベーション
④無形資産重視:
心の豊かさも重視し、環境価値を含む無形資産を活用した高付加価値経済を追求
⑤コミュニティ重視:
国家、市場、国民(市民社会・地域コミュニティ含む)のバランス、包摂的な社会
⑥自立・分散型の追求:
自立分散型の国土構造、食料・エネルギー等の地産地消の促進、経済安全保障の確保
自然資本を軸としたウェルビーイングをもたらす「新たな成長」のメカニズム
出所:環境省「令和6年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」

第六次環境基本計画における今後の環境政策の展開

第六次環境基本計画では、「ウェルビーイング/高い生活の質」をもたらす「新たな成長」という方針のもと、主に4つの環境政策の方針を示しています。

① 現下の環境危機を踏まえた、環境政策の原則・理念を前提とした国際・国内情勢等への的確な対応
「勝負の2030年」にも対応するため、環境危機に対して科学的知見を国際的に連携、充実させるとともに、利用可能な最良の科学的知見に基づき取組のスピードとスケールの確保を図る。
② 環境・経済・社会の統合的向上に向けた各種政策の統合とシナジーの発揮
「新たな成長」の視点を踏まえた環境・経済・社会の統合的向上の高度化に向け、特定の施策が複数の課題を統合的に解決し、シナジーを発揮するような、相互に連関し合う横断的かつ重点的な枠組を戦略的に設定する。
③ 「参加」の促進:政府、市場、国民の共進化と人材育成、情報基盤整備
環境人材育成に係る施策や人的資本投資、基盤となる環境情報の充実、公開を通じて、政府(国、地方公共団体等)、市場(企業等)、国民(市民社会、地域コミュニティを含む。)の共進化を進める。
④ 持続可能な地域づくり~「地域循環共生圏」の創造~
国全体で持続可能な社会を構築するため、各地域で地域住民の「ウェルビーイング/高い生活の質」に向けて、「新たな成長」の実践・実装の場としての「地域循環共生圏」の構築を実現していく。

第六次環境基本計画における6つの重点戦略

環境・経済・社会の統合的向上の高度化のため、第六次環境計基本画では横断的な戦略として以下の6つの重点戦略が掲げられており、それぞれの戦略の実施に当たっては、循環共生型の社会、地域循環共生圏の実現を目指し、「新たな成長」の視点を踏まえ、国民一人一人の理解を得て、あらゆる主体の参画の下に実施することを目指しています。

① 「新たな成長」を導く持続可能な生産と消費を実現するグリーンな経済システムの構築
  • 自然資本及び自然資本を維持・回復・充実させる有形・無形の資本に対する投資の拡大
  • 市場における環境価値の適切な評価に資する情報整備とそれによる財・サービスの高付加価値化
  • 環境価値を軸とする消費行動と企業行動(生産行動)の共進化
  • グリーン製品・サービス供給促進、バリューチェーン全体での環境負荷低減を通じた競争優位性の向上
  • 金融や税制等を通じた経済全体のグリーン化
② 自然資本を基盤とした国土のストックとしての価値の向上
  • 自然資本を維持・回復・充実させるための国土利用
  • 地域の自然資本である再エネの活用をはじめとした自立・分散型の国土構造の推進
  • 「ウェルビーイング/高い生活の質」が実感できる都市・地域の実現
  • 地域の特性を踏まえた統合的な土地利用
  • 国土の持続可能な利用・保全・価値向上に資する再エネ、アセス、生態系等の情報基盤の整備
③ 環境・経済・社会の統合的向上の実践・実装の場としての地域づくり
  • 地域の環境課題と経済・社会的課題の同時解決
  • 地域循環共生圏を支える無形資産(人的資本、地域の文化やコミュニティ・ネットワーク等)の充実
  • 地域金融のESG化や地域の中堅・中小企業の更なるグリーン化
  • 持続可能な地域づくりとしての地域循環共生圏のアプローチを通じた公正な移行
  • 失われた環境の再生と地域の復興
④ 「ウェルビーイング/高い生活の質」を実感できる安全・安心、かつ、健康で心豊かな暮らしの実現
  • 水・大気・土壌の環境保全やプラスチック・化学物質対策等、人の命と環境を守る基盤的な取組
  • 心豊かな暮らしの実現に向けた良好な環境の創出
  • 食品ロス削減、サステナブルファッション推進等、心豊かな暮らしを目指すライフスタイルの変革
⑤ 「新たな成長」を支える科学技術・イノベーションの開発・実証と社会実装
  • グリーンイノベーションに対する国民意識の向上・行動変容の促進による需要創出
  • 現在および将来の国民の本質的なニーズ主導での技術的ブレイクスルー
  • 科学的知見に基づく政策決定の基盤となる研究開発等の推進
  • 「環境・生命技術」をはじめとした最先端の環境技術等の開発・実証と社会実装の推進
  • イノベーションの担い手としての環境分野におけるスタートアップへの支援
⑥ 環境を軸とした戦略的な国際協調の推進による国益と人類の福祉への貢献
  • いわゆる「環境外交」による国際的なルール作りへの貢献
  • JCMやロス&ダメージ支援など、環境分野における途上国支援
  • 国際バリューチェーンにおける徹底した資源循環など、経済安全保障への対応
  • 我が国の優れた取組の海外展開

また、循環型共生社会、地域循環型共生圏の実現を目指し、「新たな成長」の視点を踏まえ、環境負荷の総量を削減し、ウェルビーイングの実現を図るため、上記の重点戦略のほか、個別分野の重点的施策である、「気候変動対策」「循環型社会の形成」「生物多様性の確保・自然共生」「環境リスクの管理等」「各種施策の基盤となる施策」「東日本大震災からの復興・創生及び今後の大規模災害への備えと発生時の対応」を着実に推進し、対応が不十分な点については対策を強化するとしています。

第六次環境基本計画の効果的な実施に向けて

第六次環境基本計画では、重点戦略に掲げた施策に加えて、環境問題の各分野、各種施策の基盤及び国際的取組に関する各施策を体系的に整理することで、環境保全施策の全体像を明らかにし、各主体間が連携を取り、環境保全施策を総合的かつ計画的に推進することを目指しています。

また、計画の着実な実行を確保するための仕組みも定められています。中央環境審議会は、国民各界各層の意見も聴きながら、2025年度~2028年度の間に環境基本計画に基づく施策の進捗状況などを点検し、必要に応じて、その後の政策の方向について政府に報告を行います。点検結果は国の政策の企画立案等に活用するほか、年次報告(白書)等に反映することにより幅広い主体に対して情報提供を行います。

なお、環境基本計画は策定後5年程度が経過した2029年度を目途に見直しが行われる予定です。

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