【特集】 トピックス

ネイチャーポジティブの実現に向けた世界・国の取組と企業に求められる取組

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普及啓発

昨今、国内外で生物多様性・自然資本とビジネスの関係性についてのルール作りが活発化しており、企業にはそれらを踏まえた取組とその開示が求められています。ここでは、ネイチャーポジティブの実現に向けた国内外の動向を紹介した上で、企業に求められる取組について解説します。

ネイチャーポジティブキャラクター「だいだらポジー」

ネイチャーポジティブ実現の必要性

私たちの経済・社会活動は、森林や土壌、水、大気、生物資源、鉱物資源など、自然によって形成される「自然の恵み(自然資本)」に依存しています。その分、ビジネスが自然に与える影響は年々深刻化してきており、経済・社会活動を維持する上で大きなリスクとなっています。他方で、ビジネスにおける技術開発や製品・サービス等による市場の変革を通じて、生物多様性保全へ貢献することもできます。


※環境省「生物多様性民間参画事例集」を一部加工
事業者の活動と生物多様性の関わり

また、自然資本は気候変動との強い関係性も指摘されており、持続可能な事業活動のみならず、気候変動対策を進める上でも、自然資本及び生物多様性の保全への取組が欠かせません。

これらを踏まえて、生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブの実現に向けた取組が求められています。

ネイチャーポジティブへの移行イメージ

世界の動向

世界では官民双方において、生物多様性・自然資本とビジネスの関係性についてのルール作りの機運が急速に高まっています。ここでは、世界における政府主導の取組、民間主導の取組をそれぞれご紹介します。

政府主導の取組

30by30

30by30とは、2021年G7サミットにおいて約束された、2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復させる(ネイチャーポジティブ)というゴールに向け、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標です。

30by30ロードマップ

30by30の達成を目指すため、国立公園等の拡充のみならず、里地里山や企業林や社寺林などのように地域、企業、団体によって生物多様性の保全が図られている土地をOECM(Other Effective area-based Conservation Measures)として国際データベースに登録し、その保全を促進していきます。

OECM認定により期待される効果

昆明・モントリオール生物多様性枠組

2022年12月に開催された生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)において、2010年に採択された愛知目標の後継となる、2030年までの新たな世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、ビジネスにおける影響評価・情報公開の促進等のターゲットが掲げられました。

「G7ネイチャーポジティブ経済アライアンス」(G7ANPE)

2023年4月のG7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合においては、議長国日本の発案で、ネイチャーポジティブ経済に関する知識の共有や情報ネットワークの構築の場として、「G7ネイチャーポジティブ経済アライアンス」(G7ANPE)が設立されました。

また、2023年5月のG7広島サミットにおける首脳コミュニケにおいても、「経済・社会システムをネット・ゼロで、循環型で、気候変動に強靭で、汚染のない、ネイチャーポジティブな経済へ転換すること、及び2030年までに生物多様性の損失を止めて反転させることを統合的に実現することにコミットする」旨の合意がなされています。

生物多様性国際規格策定(ISO/TC331日本国内審議委員会)

また、ISOが生物多様性の保全に関する規格化を行う専門委員会を設置し、持続可能な開発に貢献することを促進するための原則や枠組み、要求事項、ガイダンス及びサポートツールを開発するための⽣物多様性分野の標準化について検討を進めています。
この取組は今後、企業の活動にも影響する可能性があり、注視していくことが重要です。

民間主導の取組

TNFD

生物多様性・自然資本に関する情報開示枠組を提供する自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD: Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)の情報開示フレームワークが2023年9月に公表されました。

また、2024又は2025(会計)年度において、財務諸表等に沿ったTNFD統合開示を公表予定の企業である「TNFD Early Adopters」が発表されました。世界で46カ国320社が早期のTNFD開示を表明しており、日本企業は世界最多の80社を占めています。

TNFD Early Adopters 企業数

国の取組

こうした状況を踏まえ、環境省は関係省庁とも連携し、2023年度中に「ネイチャーポジティブ経済移行戦略(仮称)」を取りまとめ、その中で、ネイチャーポジティブ経済の実現に向け、そのビジョンや道筋を明らかにする予定です。本戦略では、ネイチャーポジティブの取組は企業にとって、単なるコストアップ等でなく、新たな成長につながることを明確にするとともに、その実践のための手法を示します。

具体的には、次の要素についてとりまとめを行う予定です。

  • なぜ「ネイチャーポジティブ経済」が必要か
  • 企業の行動指針(負荷等の評価手法含む)
  • 日本で生まれ得るビジネス機会・市場規模の例
  • 国の関連施策の提示・深掘り

世界経済フォーラムで挙げられたビジネス機会としてのネイチャーポジティブの取組を日本に当てはめて環境省で試算したところ、2030年時点で47兆円/年のビジネス機会が新たに生まれ、そのうち4分の3以上(額ベース)がカーボンニュートラル(CN)やサーキュラーエコノミー(CE)に強く関連していると推計されました。


※世界経済フォーラム(2020年)によるグローバルレベルの推計値をもとに環境省にて試算
日本における2030年ネイチャーポジティブ(NP)ビジネス機会金額
(カーボンニュートラル・サーキュラーエコノミーとの関連性)

企業に求められる取組

このような国内外の流れを踏まえ、企業はネイチャーポジティブに向けた取組を事業に組み込み、それを適切に開示していくことが求められます。ここでは、その際に必要な知見やツール等についてご紹介します。

ネイチャーポジティブの実現に向けた取組に際し活用可能な知見・ツール等

生物多様性民間参画ガイドライン

企業が生物多様性の保全や自然資本の持続的利用、すなわち持続可能な経営を目指す際に参考できるよう、2009年より環境省において「生物多様性民間参画ガイドライン」を作成しました。国内外の最新動向を踏まえ改訂を行い、2023年4月に第3版を公表しています。

民間参画ガイドライン第3版(本編)

自然関連財務情報開示のためのワークショップ(通称:ツール触ってみようの会)

また、自然関連財務情報の開示を目指す企業を対象として、TNFD の大枠の要求事項や、実際の開示作業に活用可能なツールを理解するためのワークショップを開催しています。

  • 「ベーシック編」:企業と自然との接点の分析に活用可能なツールを複数紹介するとともに、実際に数種類のツールについて利用を実践
  • 「アドバンス編」:ベーシック編に続き、TNFD等の自然資本に関する情報開示に活用可能なツールの実践等を通し、企業の情報開示の実施・高度化を支援・促進

2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF)

2021年11月に、30by30目標等の次期国際目標・国内戦略の達成に向け、国内のあらゆるセクターの参画と連携を促進し、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する取組を推進するため「2030生物多様性枠組実現日本会議」(J-GBF)が設立されました。
こちらでは、企業、地方公共団体、NGO等をはじめとする様々なステークホルダーに「ネイチャーポジティブ宣言」の発出を呼びかけています。


また、ネイチャーポジティブにつながる技術やソリューションを有する企業と、大企業間でのビジネスオポチュニティ創出のため、「2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF)第三回ビジネスフォーラム」内で、生物多様性関連の技術に関するマッチングイベントを開催しています。

取組事例

既に多くの日本企業はビジネス活動を通じて生物多様性の保全に貢献しています。「生物多様性ビジネス貢献プロジェクト」では環境省と経団連が選出した取組事例をターゲットごとに紹介しています。 ぜひ自社の取組を進める際や、連携先の企業を探す際などに参考にしてみてください。


その他、企業の取組のみならず、森里川海とそのつながりの恵みを引き出し、豊かにくらせる社会をつくるための国民全体の取組も推進されています。

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