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【有識者に聞く】脱炭素社会の実現の要となる

循環経済(サーキュラーエコノミー)について

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普及啓発

世の中における循環経済(サーキュラーエコノミー)への関心の高まりを受け、今回は脱炭素と循環経済の関係性や、国内外の取組について、国立環境研究所の田崎智宏氏に解説していただきました。

循環経済(サーキュラーエコノミー)ってなに?

循環経済(サーキュラーエコノミー)とは

まず初めに、循環経済、サーキュラーエコノミーとはどのようなものでしょうか。

田崎

循環経済、サーキュラーエコノミーへの関心は高まっていますが、世界で共通して用いられている定義はなく、その捉え方は人によってさまざまです。今回はそのうち主なものを紹介したいと思います。

まずは、廃棄物が排出された後でどのように処理すべきかを考える、3R(リユース・リデュース・リサイクル)を基にした考え方です。一方で、この考え方はサーキュラーエコノミーの特徴を十分に捉えられていないと私は考えています。

より発展した考え方として、3Rの取組に加え、資源の投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じて付加価値を生み出す経済活動であり、資源・製品の価値の最大化、資源消費の最小化、廃棄物の発生抑止等を目指すものというものがあります。「付加価値を生み出す」という考え方が入っていることがポイントであり、こちらの考え方が主流になりつつあります。

さらに、「資源の消費の最小化」、「廃棄物の発生抑止」に加えて「環境負荷の低減」を明確に含むかどうかで意見が分かれます。EUや中央環境審議会では「環境負荷の低減」まで含めて考えています。

ここで重要なのは、循環経済の実現とは、これまでの調達、生産、消費、廃棄といった流れが一方向の線形経済(リニアエコノミー)を新しい経済に転換するという、大きく経済・社会を変えていく取組であるということです。

世界ではどのような取組がされているの?

循環経済に関する国際動向(EU)

世界では循環経済の実現に向けてどのような取組が進められているのでしょうか。まずはEUについて教えてください。

田崎

EUでも、日本と同様にリデュース・リユース・リサイクルの取り組みがされていますが、日本ではあまり注目されていない取組も行われています。

例えば、循環経済の中に消費者を位置付ける取組が進められていて、消費者の「修理する権利」などが導入されつつあるのは消費者を守るという観点からも特徴的です。例えば、2023年3月の法案では、製品の製造事業者に対して一定の条件で修理を義務付けることで、製品を長期間使えるようにしています。
また、グリーン・クレーム指令案(2023年3月)では、消費者が正しく環境に良い製品を選ぶため、科学的な根拠を示さずに「環境にやさしい」と主張するマーケティングを規制しようとしています。

また、行動計画を策定して、着実に取組を進化させてきていることも注目に値します。2015年に公表された循環経済行動計画は、2020年に新循環型経済行動計画に刷新され、取組が段階的に進展しています。日本や他の国も同様のことをしようとすれば、10年~15年単位の長いスパンで考えていく必要があるでしょう。

野心的に取り組みが進展している政策として注目されるべきものに、2023年12月に暫定合意されたエコデザイン規則案(ESPR)があります。これまでは「エコデザイン指令」という「指令」であったものが「規則」に格上げされようとしています。EUでは、「指令」は各国がある程度の裁量をもって各国にあわせて国内法にしていくものなのですが、「規則」はEU全体で一律のルールになりますので、法的にみれば、より厳格なルールとなります。
内容としては、製品仕様における持続可能性要件の枠組みを設定するものですが、食品と医薬品以外の全ての製品が対象とされました。また、これまでエネルギー効率だけが要件の対象だったところから、サステナビリティ全般に広がっています。具体的には、耐久性、信頼性、再利用性、更新可能性、修理可能性、リサイクル可能性、懸念すべき物質の有無、リサイクル材の含有量、エコロジカルフットプリントやカーボンフットプリントなどの情報提供が各製品に対して求められるようになります。情報提供の仕方にも進化があり、デジタルパスポートの形で提供することが定められています。


個別の分野の取組として、2つほど、紹介しておきます。
まず、マイクロプラスチックについては、2030年までに環境中への流出量を30%削減することが宣言されています。日本との違いとしては、マイクロプラスチックを意図的に製品に使用し、かつその用途が川や海などの水圏に流れてしまうことが前提となっている製品は、自主規制を促すのではなく、販売禁止としています。

次に、衣類についてですが、様々な素材が用いられるため、衣類のリサイクルは難易度が高いです。このため、EUでは、まずはファストファッション、使い捨てをやめることと、それらにみんなでしっかり取り組むこと(shared commitment)から進めていこうとしています。また、拡大生産者責任(Extended Producer Responsibilities: EPR)という考え方のもと、生産者がしっかり廃棄物処理・リサイクルのための財源を調達する仕組みをつくろうとしています。

循環経済に関する国際動向(アメリカ)

続いて、アメリカの動向について教えてください。

田崎

2021年に発表された国家リサイクル戦略において、2030年までにリサイクル率を50%にする目標が掲げられています。焼却の割合が大きな日本の目標値(2027年に28%)と比べると、より高い目標が設定されています。日本でこのような目標値を達成しようとしたら、焼却されている廃棄物をリサイクルにまわす必要があります。例えば生ごみなどをいかにリサイクルするかが重要になってきます。

アメリカではリサイクル品への不純物の混入防止が重要な取り組みの一つです。この点は、日本は人々が丁寧に分別をしてきましたので日本の方が先行している部分でしょう。ただ、アメリカは分別の数を減らして、人々の分別の負担を減らす一方、リサイクル施設にて機械選別を行いリサイクルをするというアプローチをとっています。機械選別の技術はアメリカから学べることもあるのではないでしょうか。

アメリカの国家リサイクル戦略では、主に「リサイクルするごみの汚染の削減」「リサイクル処理効率の向上」「市場の改善」という3つの対策が掲げられている
アメリカの国家リサイクル戦略における対策

国内ではどのような取組がされているの?

循環経済に関する国内の動向

続いて、国内ではどのような取組が進んでいるのでしょうか。

田崎

循環型社会の形成に向け「循環型社会形成推進基本計画」が定められています。
本計画はおおむね5年ごとに見直されるもので、現在は環境的側面、経済的側面及び社会的側面の統合的な向上を掲げた第四次計画に基づき施策が講じられています。また、第五次計画の策定に向けた議論も現在進行中です。
今後、5年より長期の視点も必要になってくるのではないかと考えています。

日本の第五次循環基本計画では、「循環型社会形成に向けた循環経済への移行による持続可能な地域と社会づくり」を目指す指針として、主に「動静脈連携によるライフサイクル全体での徹底的な資源循環」「多種多様な地域の循環システムの構築と地方創生の実現」「資源循環・廃棄物管理基盤の強靭化と着実な適正処理・環境再生の実行」「適正な国際資源循環体制の構築と循環産業の海外展開の推進」という指針が掲げられている
第五次循環基本計画の指針の全体像(環境省作成)

また、政策手段をパッケージ化して、国内の循環経済の市場化を加速し、成長志向型の資源自律経済を確立していくことが経済産業省により目指されています。製品設計を変えていくこと、複数社でルールをつくっていくことなどが提起されており、ここを確実に実行できるかがポイントです。一番難しいのは、今までの規制を上手にアップデートすることができるかという点です。

今後リサイクル製品の市場を作るためには、リサイクル材を「使う」という要素を制度的にきちんと組み入れる必要があります。現在議論されている新しい循環基本計画の指標にも含まれようとしていますが、再生資源の使用割合を高めていこうというのが世界的な動向です。

これらのほか、廃棄物処理施設整備計画でも、脱炭素と地域を組み合わせた形での施設整備ということが提言されています。温室効果ガスの排出削減に貢献し、災害でも持続的に処理できるということが重視されるものです。加えて、人口減少を見据えてどう取り組んでいくかという視点も日本には欠かせません。いかに効率的な仕組みを将来に残せるかにチャレンジがあります。

今後はどのようなことに取り組むべき?

事業者への提言

まず、事業者が今後取り組むべきことについて教えてください。

田崎

具体的な行動としては、リサイクルされた素材や製品を使うというところに目標設定をして取り組むことが重要だと考えています。EUやアメリカは、意欲的にチャレンジすることを宣言してそれに向かって努力するというようなスタンスで取り組んでいますが、日本は一度目標を定めたら必ず達成しなければいけないという空気があるため、難しい目標を立てることを控えがちです。この点はマインドチェンジが必要ではないでしょうか。

また、資源循環を考える場合、サプライチェーンやリサイクルチェーン上の複数の事業者で連携する必要があります。1社でできること以上のことを考え、連携・協力の意識を高めていくことも求められるでしょう。

また、頑張ってもできないことはルールを変えていくことも重要です。EUで見られる動きのように、「ここに不具合があるため、こうしたらうまくいく」というのを政策担当者に提言し、政府と民間が両輪になって取組を進めていくような関係性を構築するのが理想ではないでしょうか。

自治体への提言

続いて、自治体はどうでしょうか。

田崎

廃棄物処理基本方針に示されているリサイクル目標の達成に向けては、まだ使える資源の焼却を減らすという意識で、リサイクルしたら使えるものなのに、燃やしてしまっているものに対する取組を行う必要があります。そのためには、資源化施設の整備を第一に考え、そのうえで、必要最小限の焼却施設をもつということも大切になります。このような施設計画やリサイクルの計画を10年単位で考えていくべきではないでしょうか。

消費者への提言

また、消費者にもできることがあると思います。どのような取組が重要になるのでしょうか。

田崎

EUでは消費者の資源循環への関わりが大きいのですが、日本ではいわゆる「ごみの分別」への協力は先進的であるものの、それ以上の取組は限定的です。消費者も循環経済という動向に対し、どうしていいかわからないと感じているのではないでしょうか。例えば、すぐ壊れてしまうものに対して声を上げること、リサイクルに回す際にきれいな状態で排出することなどは取り組める行動だと思います。

また、サービス化やデジタル化が進む中で、モノは持たずに上手に使っていくという方法をライフスタイルに取り入れてみることも重要ではないでしょうか。

学識者、投資家への提言

その他、特に取組が求められるステークホルダーにはどのような主体が考えられるでしょうか。

田崎

まず、学識者は、事業者や消費者がどうしたらいいかを明確に提示していくべきだと考えています。脱炭素と循環経済の両立などのテーマについて、サイエンスに基づいて提言していくことが求められていると考えています。

次に、投資家は、資源循環が脱炭素ほど金融市場で評価されている状況ではないため、資源循環の評価軸を作ることで事業者の取組を促進していってほしいと思います。


このように、循環経済の実現には、それぞれができることに少しずつ取り組んでいくことが重要ではないでしょうか。

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