再配達削減にむけた実証実験(福岡市)
EC市場の拡大に伴い、急激に増え続ける宅配便の荷物。
地方自治体でも、再配達削減にむけた様々な取組が始まっています。
今回は、福岡市実証実験フルサポート事業 第1期採択プロジェクトについてご紹介します。
スマートフォン制御型宅配ボックスによる再配達問題の解決 | 九州電力株式会社, 株式会社マッシュルーム |
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宅配ストレス解消のための、荷物の受け取り方改革 ~宅配ボックスの普及が担う生活の質の向上~ |
株式会社ナスタ |
引用元 ( http://www.city.fukuoka.lg.jp/soki/kikaku/mirai/fullsupport_pj.html )
スマートフォン制御型宅配ボックスによる再配達問題の解決
インフラ事業の枠をこえたオープンイノベーションプログラムとして実証実験をはじめた九州電力と株式会社マッシュルーム。本事業として採択された実証実験の概要と期待される宅配の未来について話を伺いました。
(取材協力:九州電力株式会社インキュベーションラボ事業創造支援グループスマートフォン制御型宅配ボックスプロジェクトリーダー 富永貴史氏、 営業本部福岡営業センタースマートフォン制御型宅配ボックスプロジェクトメンバー 木村優佑氏)
■実証実験の背景と概要について
九州を中心としたインフラ事業を展開している九州電力ですが、2017年8月に既存事業の枠を超えたオープンイノベーションプログラムを募集。株式会社マッシュルーム社は、そのなかの1社です。かねてより社会問題解決につながるITサービスを普及していきたいマッシュルーム社と、インフラ企業である九州電力が組み、宅配ドライバーと受け取り主が荷物をスムーズに授受できるプラットフォームとして「スマートフォン制御型宅配ボックス」を製作しました。今回、福岡市での実証実験では、このサービスの需要や有用性、課題・改善点の抽出により、事業化にいたるかを検証することとしています。
スマートフォン制御型宅配ボックスは、認証センサーに特に注力しており、専用アプリをダウンロードすることによりBluetoothを介して認証。簡易な動作で解錠することにより、ドライバーも受け取り主もストレス無く利用できるように設計しました。アプリを起動した状態で宅配ボックスの近くにくると、プッシュボタンが青く点灯。ドライバーも受け取り主もボタンを押すことでロックが解錠されます。現在、様々な宅配ボックスが生まれていますが、当社はUIをなるべく簡易にすることで、利便性の高いプロダクトを目指しており、利用者が意識せずとも再配達の削減へとつながることを目指しています。
実証実験は、今後福岡市内でモニターを募集、宅配ボックス運用を経て、3月に社内で実証実験の検証結果を発表する予定で、その後も継続して事業化の準備を想定しています。
■実証実験によって期待される宅配の未来
福岡市では働いている若年層が多く、働いている女性人口も多い都市のため、今回の実証実験では共働き世帯などの検証が可能かと考えています。福岡市を中心とした実証実験をさせていただき、この実験を踏まえてアップデートを考えています。その先には、あらゆるモノの受渡しにおいての最適なプラットフォームとなることを目指しており、宅配事業者や物流事業者ではない3rdパーティとして、よりユーザーの利便性向上に寄り添った様々なサービス展開を考えていきたいと思います。
事業展開時は、電力会社の強みとしてコールセンターの設置や、保守委託先として検針業務会社との連携など、当社ならではの体制を検討しています。そして、非常災害対策への援用も視野に入れており、緊急時のスマホ充電スポットや、安否確認機能、プル型支援情報集約などの活用も検討しており、宅配ボックスの位置づけだけでなく様々な活用への展開を想定しています。
宅配ストレス解消のための、荷物の受け取り方改革
~宅配ボックスの普及が担う 生活の質の向上~
約20年前より宅配ボックスの普及で業界を牽引している株式会社ナスタ。
本事業として採択された実証実験の概要と期待される宅配の未来について話を伺いました。
(取材協力:株式会社ナスタ広報室部長 平山浩哉氏、コンシューマー事業部スマポ室PR・広報担当 宮本仙葉氏、コンシューマー事業部スマポ室渉外担当 佐藤栄平氏)
■実証実験の背景と概要について
ナスタでは、宅配ボックスの製作を20年ほど前から事業として進めており、主に集合住宅へのポスト・宅配ボックスを中心に販売してきました。その後、Amazon社より日本で普及している規格ポストの受け取り間口では大型メール便が入らないという相談があり、間口の大きいポストを開発。その後の集合住宅では弊社規格のポストが標準となりました。また、宅配ボックスに至っては前年度比約4倍の売上と伸びており、集合住宅での宅配ボックスの普及率は大きく飛躍してきました。
しかし、戸建て住宅での普及率は1%にも満たしておらず、まだまだ消費者には宅配ボックスが認知されておりません。そこで、ナスタがこれまでの実績を活かしBtoC向けに戸建て住宅用ポスト・宅配ボックス「スマポ」を開発しました。この宅配ボックスの利用により再配達削減につながることだけでなく、宅配ボックスの体験機会の提供と、宅配で困っていることを可視化することが必要だと感じ、受取側と配達側の「宅配ストレス」を特定、数値化するため、実証実験に至りました。この実証実験によって、一家に一台の宅配ボックスが再配達削減を含む物流課題の根本的解決につながるだけでなく、消費者のストレス解消による生活の質向上につながることを検証していきます。
今回の実証実験では、福岡市内の戸建て住宅1000世帯に無償で宅配ボックスを提供し、設置前後の「宅配ストレス」を測定。宅配ストレスの測定は、日本産業ストレス学会 前理事長医学博士 夏目誠氏のご協力のもと、数値化。宅配ストレスを、受取側と配達員側の両面から計測し、受取側が感じる「自分の時間が制限される」、「応対時に不安を感じる」といったストレスを“受取ストレス”。配送側が感じる、増え続ける荷物に対しての「長時間労働の常態化や再配達」によるストレスを“配送ストレス”として検証していきます。
現在、実証実験における戸建て住宅の公募は終え、予定数を超える応募をいただきました。11月から翌年1月末までの3か月間の使用期間を経て、3月前半に検証結果の発表を予定しています。
■実証実験によって期待される宅配の未来
この実証実験によって、宅配ストレスを可視化し、その情報をオープンにすることによって、宅配ボックスの認知・理解を促進させ、物流全体が抱える課題解決の後押しにつながればと考えています。配送業者、EC事業者、消費者へも実証実験を通じて宅配ボックスの認知と理解を深めていくことで、一家に一台の宅配ボックスを普及させ、ナスタは物流課題の解決に向け貢献していきたいと考えています。
再配達削減のための宅配ボックス普及については、消費者だけでなく配送業者、EC事業者の皆様にも、ご理解とご協力をいただきながら進めていくことが必要です。現在、カギのデジタル化も進めており、宅配ボックスに荷物が入るとスマホに連絡が入るといったIoTシステムも開発中で、消費者の利便向上につながるような取り組みを行っていきます。
今後も、宅配ボックスを通じて「住む」を良くしていきたいと思います。
<福岡市実証実験フルサポート事業担当者>
(取材協力:福岡市総務企画局企画調整部 宮下絢乃氏)
福岡市では,平成28年度よりAI・IoTを活用した社会課題の解決や生活の質向上に繋がる実証実験プロジェクトを全国から随時募集しています。福岡市内を実証実験の場として、広報やモニター募集、関係者調整などのサポートを行っています。これまでに、124件の応募があり、屋台などでの支払いに現金を使わない「キャッシュレス」の実証実験プロジェクトなど30件を採択しています。
今回、再配達の社会課題が深刻化している現状を踏まえ、平成30年8月にこの2件のプロジェクトを採択しました。福岡市では、モニター募集の広報協力や宅配ボックス設置に向けた関係者への協力依頼などについて、支援を行っています。
福岡市としても、今回の実験を通して宅配ボックスにより、宅配事業者、受取主、双方のストレスが軽減されることを確認し、市民が再配達のために予定を気にすることなく自由に時間を使えることで、よりよい生活に繋がることを期待しています。
物流課題などといった社会課題を行政だけで解決していくことは困難です。今回の実験のように、民間企業が持つアイデアやIoT技術をはじめ、自動運転、ドローンといった先端技術を活用したサービス化の取組みを支援することで、物流をはじめとした社会課題の解決に繋げ、あらゆる人が必要なときに必要なサービスを享受できる社会「Society5.0」の実現を目指していきたと考えています。