宅配便 再配達防止で低炭素型社会へ
日々の暮らしや産業活動を支える宅配便。その約2割を占める再配達の削減が社会の大きな課題となっている。2月1日に開かれた日経ビジネスイノベーションフォーラム(主催・環境省)では、環境省の実証事業に参加する2市が現状を報告、関係者が課題や解決策を展望した。
開会挨拶
電子商取引(EC)拡大で宅配便の取扱個数は年42億個を超えた。うち2割が再配達で、配送車による年42万トンに上る二酸化炭素の排出、運転手の長時間労働など環境・社会問題の原因となっている。再配達の削減には荷物を届ける事業者と受け取る消費者の間の相互理解と協力が重要だ。環境省は企業・団体や国土交通省などと消費者に再配達軽減を呼び掛けるキャンペーンを展開している。今後は学生など若い世代に焦点を当て、再配達削減に向けた取り組みを一層強化していく。
宅配の現状と課題、行政の対応
再配達削減には荷送人と荷受人、宅配事業者の3者の理解と協力が欠かせない。このため昨年5月、宅配事業者とEC事業者、行政(国土交通省、経済産業省、環境省)による連絡会を立ち上げて意見交換を重ね、11月に3つの削減方策の事例をまとめた。①3者間のコミュニケーション強化②受け取り方法の多様化や利便性向上③消費者が1回で受け取るための環境整備である。今後も宅配・EC事業者間のデータ連携、再配達の実態分析などを進め、関係者の連携を継続していく。
「オープン型宅配ボックス」を活用した実証事業について
宇治市は2つの地域に「オープン宅配型ボックス」を設置した。新興住宅地のファミリー世帯を想定した生活動線・通勤経路と、古くからの住宅地にあるスーパーなどの買い物施設である。当初から情報発信に注力したが、調査からも市民への周知と認知度の向上が重要であると分かった。
車での移動が前提となる山形市では①郊外大型ショッピングセンター②工業団地③大学④若年ファミリー世帯居住地⑤スーパーに設置。通勤や買い物、送迎の「ついで」を念頭に置いた。事業で認知度は高まったが利用はこれからという状況だ。
「アイデア開発プロジェクト」報告
一人暮らしが多くECサイトの利用も多いことで再配達を起こしやすい学生や若者の立場で再配達削減を考える「アイデア開発プロジェクト」に参加している。実際のサービス利用体験では、日時指定が簡単なスマホアプリや24時間受け取れるコンビニの利用が便利で、購入したECサイトでの情報周知が効果的という意見が多かった。
普及啓発ではゲーム性が鍵を握るとの意見があった。現在若者に人気の漫画やユーモアを交えた動画を制作中で、SNS上でキャンペーン(「#nomore再配達」) を今後展開する予定だ。
再配達削減のためにできること
パネリスト(堀 克紀氏/新荘 直明氏/松田 博和氏/小木曽 稔氏)
モデレーター(田中 陽氏(日本経済新聞社 編集委員))
利用者への啓発が鍵
(田中) 再配達の問題についてどう考えるか。
(新荘) 都市部では単身世帯が多く、コミュニティーも機能しにくいため、便利な再配達に依存してしまう点が大きな課題だ。
(松田) 配達ドライバーから見ても、5個に1個が不在というのは無駄が大きい。宅配事業者では、受け取り場所の多様化や、アプリ・メール経由で配達予報や日時指定できるサービスなど利便性を高める取り組みを進めている。
(小木曽) 新経済連盟の会員企業も、日時指定の誘導、自宅外受け取り拠点の拡大、置き配、ポイント付与キャンペーンなどを実施している。若者や共働き世帯は再配達率が高いので、スマートフォンなどで顧客接点を作り、1回で受け取るよう啓発することが大事だ。
職場受け取り普及を
(田中) 再配達防止にはどんな工夫が必要か。
(松田) 一般企業には職場受け取りの承認をお願いしたい。休日を宅配受け取りに費やすストレスが軽減されることは社員の福利厚生の面からも重要だ。EC事業者・宅配事業者双方が良好な宅配便サービス持続のため、再配達削減を利用者に訴えていくことも大切である。
(堀) プライベートな荷物以外は職場や学校で受け取るようにするなど、多様な受け取り方を消費者が理解することが大切だ。
(小木曽) 日本の物流事業者は相当頑張っている。負担を軽減するためにも物流を効率化することが必要だ。ドローン配送や新しいテクノロジーを用いた共同輸配送など様々な可能性がある。我々も経済団体として協力していく。