企業と自治体による実証実験が相次ぎ脚光を浴びる「戸建住宅用宅配ボックス」
宅配便の再配達によるCO2排出量の増加を抑える手段の1つとして、宅配ボックスの活用が挙げられます。実際、宅配ボックスの設置数は増えていますが、それは主に集合住宅でのこと。戸建住宅での設置の促進が課題となっています。それを解決するために企業と自治体が協力し、戸建住宅を対象とした宅配ボックス活用の実証実験が相次いで行われ、第三者機関による戸建住宅用宅配ボックスの認定基準も制定されました。戸建住宅用宅配ボックスに関する最近の動きについてレポートします。
子育て家族の受け取りストレスを減らせ! プロジェクト | 東京都世田谷区, パナソニック株式会社エコソリューション社 |
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IoT宅配ボックスによる再配達削減 『CO2削減×ストレスフリー』実証プロジェクト |
東京都江東区・江戸川区, 株式会社LIXIL |
子育て世帯に宅配ボックスを設置して、受け取りに関するストレス変化を検証
(取材協力:パナソニック株式会社エコソリューションズ社 ハウジングシステム事業部外廻りシステムBU 林伸昭氏)
宅配便の再配達を削減するための方策として、荷物の受け取り方の多様化が考えられます。そのうちの1つが宅配ボックスの活用です。宅配ボックスを設置する住宅は徐々に増えていますが、集合住宅に比べて戸建住宅での普及は遅れ気味です。しかし、戸建住宅用の宅配ボックスの設置を促進するための活動は行われており、企業と自治体が協力して行う実証実験もその1つと言えるでしょう。
パナソニック株式会社 エコソリューションズ社(以下、パナソニック エコソリューションズ)は、2018年12月3日から2019年1月31日にかけて、東京都世田谷区に住む子育て世帯のうち50世帯を対象にして宅配ボックスを設置し、宅配便の受け取りに関するストレス変化を検証する実証実験「子育て家族の受け取りストレスを減らせ! プロジェクト」(以下、受け取りストレス減少実証実験)を行いました。
同社は2016年12月から3か月かけて、福井県あらわ市と連携して同市在住の共働き世帯を対象とした宅配ボックス実証実験をすでに行っています。また、2017年11月から3か月かけて、京都市や京都産業大学などと連携して学生アパートを対象にした宅配ボックスの実証実験も行いました。
あらわ市での実証実験では、宅配ボックスの設置により再配達率が49%から8%に減少しました。それにより、CO2排出量が約465.9kg、配達員の労働時間が約222.9時間削減された計算になります。
また、京都市などとの実証実験では、アパート用の宅配ボックスを設置した結果、学生アパートでの再配達率が43%から15%に減りました。計算上では約105kgのCO2排出量と、約50時間の配達員の労働時間が削減されたことになります。
ユーザーニーズに合う宅配ボックスの開発を進めて住宅に欠かせないものにする
この2つの実証実験によって、宅配ボックスを設置することで宅配便の再配達回数を減らすとともに、CO2排出量と配達員の労働時間も削減できることがわかりました。それだけでなく、宅配ボックス設置で、荷物を受け取る住民側のストレスが改善される点にも気付いたといいます。
そこでパナソニック エコソリューションズは、都市部の子育て世帯を対象にして荷物の受け取りの実態に着目し、宅配ボックスによる生活変化について調べるための実証実験を計画しました。実験実施地域として共働き世帯の多い東京都世田谷区を候補に上げ、同区で子育て支援を行う特定非営利活動法人世田谷子育てネットへ実証実験の内容について説明し、賛同を得ることに成功。同法人の仲介によって世田谷区の協力も受けられました。こうして、受け取りストレス減少実証実験の実施が決まったのです。
パナソニック エコソリューションズは同実証実験に先立ち、対象となる50世帯に事前アンケート調査を行っています。その結果、共働き世帯では、平日に荷物を受け取る場合は夜間(19時~21時)の割合が70%を越え、平日ではなく土日に荷物を受け取る世帯が50%以上あることがわかりました。
また、育児のため、在宅時でも荷物を受け取れない世帯が多いことも明らかになりました。子供と一緒にお風呂に入っていたり、子供を寝かしつけていたり、授乳していたりといった理由が挙げられます。親(子の祖父母)が在宅していても足腰が悪いために荷物を受け取れないといった回答もありました。
さらに、荷物が届くのを待つことに時間を取られ、家族での外出や買い物に行く時間が制限されていることもわかったといいます。
事前アンケート調査の結果を受け、受け取りストレス減少実証実験では、再配達による待ち時間や宅配業者との非対面での荷物の受け取り率、荷物の受け取りに関するストレスなどについて調べました。同実証実験の結果は、2019年4月に報告される予定です。
パナソニックは、これまでに行った3つの実証実験で明らかとなった課題を解決できる宅配ボックスの開発を進めるとともに、メーカーだけでは解消することが難しい問題については、自治体や宅配会社などとの連携によって解決を図っていく方針です。そして、「宅配ボックスを住宅の一部として欠かせないものにする」という目標を掲げています。
外出先から配達確認ができる“IoT宅配ボックス”で再配達の削減効果と住民のストレスの変化を検証
(取材協力:株式会社LIXIL コミュニケーションズ&CR部 酒井亮介氏)
東京都江東区と江戸川区で、実証実験「IoT宅配ボックスによる再配達削減『CO2削減×ストレスフリー』実証プロジェクト」(以下、IoT宅配ボックスCO2削減実証プロジェクト)を行うのは株式会社LIXIL(以下、LIXIL)です。
IoT宅配ボックスCO2削減実証プロジェクトは、東京都江東区・江戸川区の戸建住宅に住み、不在で宅配便の荷物を受け取れないことが多かったり、荷物が届くのを待つことに時間を取られて困っていたりする世帯のうち100世帯で行われる予定です。すでにモニター募集期間は終了していますが、予定を大幅に超える応募が集まったそうです。実証プロジェクトは2019年5月1日から9か月間かけて実施する予定です。
同プロジェクトでは、外出先からでも配達確認や応答を行うことができる“IoT宅配ボックス”を対象の世帯に無償で設置し、宅配事業者と連携して再配達の減少によるCO2削減効果や、住民のストレスの変化などを検証します。
LIXILのIoT宅配ボックスにはセンサーとカメラが内蔵され、荷物が届くとスマートフォンに通知されるだけでなく、荷物が投函された様子や取り出された様子を、スマートフォンを利用してリアルタイムで見ることができます。また、すでに荷物が入っている場合もスマートフォンと、IoT宅配ボックス内蔵のカメラとマイク、スピーカーを使って配達員と会話しながら解錠し、複数の荷物を受け取ることが可能です。不在時にスマートフォンを使って集荷依頼をすることもでき、宅配会社のサービスを利用すれば、不在時でもIoT宅配ボックスから荷物の発送を行えます。
LIXIL広報の酒井亮介氏は、次のように話します。
「今回のプロジェクトでは、不在で荷物を受け取れないケースが多い世帯の再配達を大きく減らすことや、『複数の荷物受け取り』などといったIoT宅配ボックスならではの機能が再配達の削減に貢献することを期待しています。宅配によるストレスが軽減され、住民の方に喜んでもらいたいという思いもあります。また、今回、モニターに参加できない方にもこの社会課題を知ってもらい、再配達の削減への取り組みについて考えるきっかけになると幸いです」
今回のプロジェクトで、どれほど再配達を減らせるのかを行政も期待
(取材協力:江東区 環境清掃部 温暖化対策課、江戸川区 環境部 環境推進課)
今回のLIXILのプロジェクトは行政も「COOL CHOICE 一回で受け取りませんかキャンペーン」の賛同自治体として支援し、プロジェクトの効果が期待されております。賛同自治体からは以下のコメントがありました。
【江東区】
江東区温暖化対策課では地球温暖化防止のためにCO2削減に向けた各種の設備導入助成、大型風力発電・マイクロ水力発電・燃料電池自動車の導入など、様々な取り組みを行っています。今回の実証実験によって、住宅向け宅配ボックスの導入によるCO2排出量削減効果が数値化されることを期待しており、地球温暖化対策の取り組みの1つとして意義深いものになると考えています。
【江戸川区】
江戸川区環境推進課では地球温暖化対策を推進する「第2次エコタウンえどがわ推進計画」を進めており、宅配便の再配達削減のための取り組みの1つとして住宅への宅配ボックスの設置を挙げています。今回の実証実験は同区の取り組みの一環としても意義があるものだと考えており、宅配ボックスが温室効果ガスの削減効果を定量的に把握できることを期待しています。
IoT宅配ボックスCO2削減実証プロジェクトの結果発表は、2019年夏ごろと2020年春ごろに行われる予定です。
強度などの性能や子供の閉じ込め防止などに配慮した戸建住宅用宅配ボックスの認定基準を制定
上記のような実証実験のほかにも、戸建住宅での宅配ボックス設置を後押しする動きが起きています。第三者機関によって戸建住宅用宅配ボックスの認定基準が制定されたのです。
これまで住宅建設業界には、戸建住宅用宅配ボックスについての標準的な性能基準が存在していませんでした。そのため、強度などの性能が満たされていないと思われる製品が利用されるケースも見受けられたのです。
そうした状況を改善するため、優良住宅部品(BL部品)の認定を行う一般財団法人ベターリビングが、2018年2月1日に戸建住宅用宅配ボックスの認定基準を制定しました。すでに同法人が認定を行っている集合住宅用宅配ボックスの認定基準などを参考にして制定されたもので、製品の各種性能に加え、施工性の確保や子供の閉じ込め防止などに配慮した認定基準となっています。
複数の実証実験が行われ、認定基準が制定されたことで戸建住宅での宅配ボックス設置数の増加に勢いがつき、宅配便の再配達の減少とCO2排出量の削減に良い影響をもたらすことが期待されています。
●認定基準制定の主なポイント
1)受け渡し先が特定可能な住宅及び事務所等に設置するものを適用範囲とします。 |
2)戸建住宅用宅配ボックス自体の持ち運びを防ぐために、基礎等への緊結を求めます。 |
3)子供の閉じ込め事故防止を目的として、対処が必要な保管箱の大きさを設定します |
4)戸建住宅用宅配ボックスの設置方法は、4つのタイプに分類します。 |
5)書留郵便物等の配達サービスに対応した高い保安能力(錠の施錠強さ)を求めます。 |
6)使用時の安全性(足掛かりや子供のいたずら等事故防止に係る注意喚起)については、所有者等への情報提供を求めます。 |
(引用:一般財団法人ベターリビングHP内 http://www.cbl.or.jp/info/450.html#shosai )