みんなでおうち快適化チャレンジTOP  記事一覧  コロナ禍にこそ考えたい、危機から抜け出すためにいま必要なコト
2020.12.25

コロナ禍にこそ考えたい、危機から抜け出すためにいま必要なコト

新型コロナウイルスの世界的な蔓延は、経済はもちろん、私たちの日々の暮らしにも大きな影響を与えました。そしてアフターコロナにおける私たちのライフスタイルは、もはやそれ以前のように地球環境にダメージを与えるような形では成立、持続しないといわれています。コロナ禍と環境破壊はどのように結びついているのか、そして新しい日常「ニューノーマル」を私たちはどのように生きていけばよいのか、京都大学名誉教授で地球環境政策の専門家である松下和夫先生にお話をうかがいました。

ワクチンの開発だけではコロナは終わらない

「いま、世界中で新型コロナウイルスに対するワクチンの開発競争が行われています。でも、ワクチンが開発されたらこのコロナ禍も解決できると考えるのは間違っています。21世紀に入ってから人類はSARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)を経験し、今回の新型コロナウイルスで3回目と、これまでの人類史上にないほどパンデミックが頻繁に起こっています。その理由は何でしょうか。
私たち人類はこれまで、経済の発展に伴って自然界に多大な犠牲を強いてきました。開発による森林破壊、大量のCO2排出による地球温暖化が引き起こす気候変動などで自然が失われていくと同時に、本来あった人間と動物の境界線があいまいになったことで未知のウイルスが人間界にも襲い掛かるようになりました。その未知のウイルスは、グローバリゼーションの波に乗って世界中にものすごいスピードで拡散します。今回のコロナ禍も、2019年末に中国で発生したものが、ものの数か月も経たないうちに世界中に拡散したことを、皆さんも目の当たりにしたはずです。
さらに都市と地方の格差の問題もあります。都市に過度に人口、政治・経済機能が集中しているため、感染も都市で爆発的に広がりました。同様に経済格差も、治療を受けられる人と受けられない人、貧困の拡大などの影響を生み出しています。
つまりいま私たちが抱えている地球環境やグローバリゼーション、都市と地方、経済格差などあらゆる問題が、このコロナ禍で浮き彫りになったのです。そして、これらの問題が解消されない限り、第2、第3のパンデミックが発生することが確実だということは明らかでしょう。」

「グリーン・リカバリー」が世界のトレンドに

「現在のあくなき開発競争とグローバリゼーションによる経済発展は、もはや限界にきているといわれています。それではアフターコロナに臨む政治・経済体制とは何か。そこで最近注目されているのが『グリーン・リカバリー(緑の復興)』です。
『グリーン・リカバリー』はこれまでの経済・生活のあり方に戻るのではなく、自然と共生することにより、持続可能で強靭な経済・消費活動を行う運動です。国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)ともリンクする復興策なのです。
具体的にはカーボン・ニュートラル(二酸化炭素排出量実質ゼロ)な世界を目指して、化石燃料偏重の産業の構造を変え、新しい雇用の創出とイノベーションを促進することを目標とします。また人々の暮らしにおいても、これまでの消費行動を見直し、地産地消や食品廃棄の削減、再生可能エネルギーへの転換、働き方の改革などがこの『グリーン・リカバリー』とセットになります。この『グリーン・リカバリー』の実行により、これまではパンデミックで一気に機能不全に陥っていた私たちの日常を、耐性(レジリアンス)の高いものへと生まれ変わることを目指しているのです。
実際にEUでは、新型コロナウイルスが発生する以前の2019年12月に『欧州グリーンディール』という環境政策とパッケージとなった成長戦略を発表しました。その後コロナ禍でヨーロッパ全体が経済的に大きな打撃を受けたのにもかかわらず、この「欧州グリーンディール」を推進し、約120兆円規模の投資計画を策定、その動きはEU以外の国にも広がりつつあります。
ではなぜこういった『グリーン・リカバリー』が世界的に広がっているのでしょうか。それはもちろん地球環境を守っていくという重要な使命があるのは当然ですが、その一方で、この緑の復興が大きなリターン、つまり経済発展が期待できるからです。それは、アメリカのEV自動車メーカー・テスラの株式評価額が、世界中の自動車産業の中でトップになったことにも表れています。また再生可能エネルギーだけで企業活動を運営することを目標とする国際的な企業連合『RE100』には、アップル、マイクロソフト、フェイスブック、グーグルなど世界をリードする大手IT企業が名を連ね、日本企業も多く参加しています。さらに、環境、社会貢献、企業統治に配慮した企業に投資する『ESG投資』は、全世界の投資額の4分の1以上も占めています。 このことからも『グリーン・リカバリー』が世界のトレンドになりつつあることは間違いありません。」

私たちが身近なところでできること

「こうした世界的なニューノーマルへの流れの中で、私たちはどのように行動すればよいのでしょうか。もちろん、国や自治体、産業界、個々人などさまざまなレイヤーがありますが、特に若い人たちに伝えたいのは、いろいろなことに関心を持って勉強しましょうということ。すると物事の背景、たとえば『なぜコロナが起きたのか?』、『なぜ2050年ネットゼロ社会を目指さなければならないのか?』といったことがわかってきます。背景がわかると、『では自分はどの部分でなら関わっていけるのか?』と考えるようになりますよね。
何気ない暮らしの中の一つひとつの行動が、実は自然環境に負荷をかけているということも見えてきて、通勤・通学の足を車から公共交通機関、さらには自転車や徒歩に切り替える、テレワークを積極的に利用する、食品は極力使い切る、再生可能なプラスチック製品は分別して廃棄するなど、身近なところでできることがたくさんあることに気がつくでしょう。
特に若い人にはそれぞれの生活や仕事の現場で新しい知恵を出してもらい、学校や企業そして地域社会を変え、最終的には国全体の政策や社会を良い方向に変えていくことを期待したいと思います。
幸いいまの時代は情報を得られやすいし、仲間もつくりやすい環境にあるので、気になったことには積極的にチャレンジしてほしいですね。」

松下和夫(まつした かずお)

東京大学卒業後、環境庁(当時)に入庁。環境協力室長、内閣審議官、OECD、国連勤務などを経て、2001年より京都大学大学院教授。現在京都大学名誉教授。財団法人地球環境戦略研究機関シニアフェロー。専門は環境政策論、地球ガバナンス論など。脱炭素、SDGsなどについて積極的な発言を行っている。主な著書に『地球環境学への旅』『地球環境とコロナ禍』(近刊)などがある。