みんなでおうち快適化チャレンジTOP  記事一覧  令和の新しい働き方「ワーケーション」に脱炭素化の視点を入れた試み
2021.01.15

令和の新しい働き方「ワーケーション」に
脱炭素化の視点を入れた試み

「仕事(ワーク)」+「休暇(バケーション)」という新しい働き方「ワーケーション」が脚光を浴びています。テレワークの普及も追い風となり、都会のオフィスを飛び出て、自然と触れ合うような環境で仕事をした方が、よりクリエイティブな発想が生まれやすいということで、仕事と休暇が一体化した働き方を取り入れる企業が増えてきました。
長野、静岡、鳥取などの自治体も、積極的にワーケーションの誘致に動いています。会社と遜色のない通信・IT設備をもったサテライトオフィスを整備し、さらにアフターワークの体験型イベントも用意するなど、仕事をしながらリフレッシュできる環境を提供しています。
そうした中でも特に注目したいのが、ワーケーションと脱炭素型地域交通モデルを組み合わせた小田原市の試みです。その内容を小田原市環境部エネルギー政策推進課の山口一哉さんにうかがいました。

交通手段としてだけでなく「動く蓄電池」として機能するEV(電気自動車)

「小田原市では、株式会社REXEV(レクシヴ)などと連携して2020年6月から、EVによるカーシェアリング『eemo(イーモ/eco electricity mobility)』の運用を始めました。これは主に小田原市内で作られた再生可能エネルギーで充電したEVをレンタル・シェアするもので、小田原・箱根エリアを中心とした交通サービスです。eemoには交通手段としてだけでなく、非常用の電源となる『動く蓄電池』としての役目もあります。
さらに9月からは、eemoを活用して新しいタイプのワーケーションを始めました。eemoをレンタルして、4月にリニューアルオープンした小田原市『いこいの森 林間オートサイト』で、仕事とバケーションを一緒に楽しもうという提案です。
小田原市には海や山など、豊かな自然が町の中心部からすぐのところにあり、さらに新幹線も通っているので交通至便な土地でもあります。観光地として海外でも有名な箱根も、目と鼻の先です。都会の喧騒を離れて、仕事と遊びを楽しむにはもってこいの環境といえるでしょう。
たとえば『EVでワーケーション応援セット』では、テントなどのキャンプセットとともに、プロジェクターやスクリーン、卓上LED照明などの仕事用の備品や、炊飯器や電気ケトルなどの調理器具をパックで貸し出ししています。
利用者はパソコン1台を持ってくれば、小田原駅近くのステーションでeemoをレンタルして現地に行き、必要な備品をその場で借りられます。移動の足として使ったeemoから電気を取り出して、日中はじっくりと仕事に没頭、そして夜はバーベキューやキャンプなどをみんなで楽しむといったことができます。交通手段と蓄電池というeemoの2つの特徴を活かして、テレワークと脱炭素という『ニューノーマル』での働き方のモデルになるような新しいタイプのワーケーション、そんなサービスといえるのではないでしょうか。」

東日本大震災を教訓にしてエネルギーの地域自給を目指す

「そもそも小田原市が再生可能エネルギーに取り組み始めたのは、東日本大震災がきっかけです。あの時、小田原市も震災でさまざまな影響を受けましたが、なかでも計画停電などで小田原市の産業、暮らしなどに大きなダメージをこうむりました。この苦い経験から、他の地域からのエネルギー供給に頼っているだけでは、災害時に対応ができないということを実感したのです。
環境に配慮しながら災害に強い街作りをするためには、クリーンな再生可能エネルギーの地域自給が必要です。そこで2011年12月、まずは再生可能エネルギーの普及を目指す『創エネ』、エネルギー消費の削減を目指す『省エネ』、市民の力でエネルギーを作る『みんなのエネルギー』の3つを目標とする『小田原再生可能エネルギー事業化検討協議会』を立ち上げました。
さらにその翌年には、小田原市に環境部エネルギー政策推進課を発足させます。エネルギーの供給と需要、つまり生産だけでなくその使い方も含めたエネルギーマネジメント全体を考え、推進していくためのセクションです。これまで太陽光発電の事業化など、クリーンで持続可能なエネルギーの創出と小売りや蓄電池の活用などを地元事業者が主体となって実施してきました。今回のeemoやワーケーションとの組み合わせも、その活動のひとつです。」

脱炭素型地域交通モデル×ワーケーション 小田原市が見据える先

「eemoの事業はまだ始まったばかりです。残念ながらコロナ禍の影響はありましたが、当初ステーション10カ所、EV20台でスタートし、現在は20カ所、34台にまで増えています。令和4年にはEVを100台までにするのが当面の目標です。
ワーケーションに関しても、リピーターの利用が出てきています。私自身もいこいの森でのワーケーションを体験してみたのですが、会議室では思いつかないようなアイデアが湧いてきやすいですね。キャンプ場の利用の申し込みが殺到して、予約が取りづらいのがちょっと悩みではありますが。
EVのシェアというeemoの運用自体が、これまでモデルケースがなかったところから始まったサービスで、それにワーケーションを組み合わせるという試みも、他に例を見ないまったく新しいスタイルです。交通手段であり、エネルギー源でもあるというEVの活用の幅はまだまだ広がると思います。これからさらに新しいサービスやチャレンジを行っていきたいですね。」

神奈川県小田原市 環境部エネルギー政策推進課

再生可能エネルギーの利用促進を主な業務とし、持続可能な街づくりの実現を目指す。さまざまな民間企業と連携しながら、地域での再生可能エネルギーの効果的な活用を推進している。