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2021.01.21

寒冷地の冬に実感。断熱を肌で感じるエコハウスレポート

快適な毎日を送る中で、夏の冷房費や冬の暖房費は頭が痛いところ。特に、冬は廊下や脱衣所などの冷えが気になり、家の中の温度差は健康に悪影響があることが知られています。 今回は、エネルギー消費を抑え、健康な暮らしを実現するため、山形県と鳥取県で始まっている省エネ住宅に関する取組についてご紹介します。

省エネ住宅で暖冷房が使うエネルギーの効率化を

省エネルギー住宅とは、太陽光発電などでエネルギーを創ることができるほか、断熱性能が高く、エネルギーを効率的に使うことができるエアコンや給湯器などの設備が備わった住宅のことです。そのため、冬は暖房、夏は冷房が使うエネルギーを普通の住宅より効率的に使用できます。ポイントは窓などの開口部や屋根、壁、床などの構造部分をしっかり断熱して、外の気温の影響を家の中に及びにくくすることと、隙間風が入らないように気密化することです。つまり、省エネルギー住宅であるためには高気密・高断熱であることが重要というわけです。
省エネルギー住宅にするメリットは、冷暖房費を抑えることだけではありません。家の中の場所による温度差が小さくなり、ヒートショックなどの危険性が減ります。窓や壁などが結露しにくくなるため、アレルギーを誘発するカビやダニの発生も抑えられます。そして、なにより快適性が高まります。

冬場に起こりやすいヒートショックの危険をなくしたい

山形県の山間部にある飯豊町(いいでまち)は、山形県内でも有数の豪雪地帯です。平地でも例年1.5メートルほどの雪が積もり、12月から4月くらいまでは雪の中での暮らしとなります。
この町で2019年に造成が完了した「エコタウン椿」は、その名の通り、断熱性や気密性に一定の基準を設けた「飯豊型エコハウス」を建設する、エコ住宅に特化した住宅団地です。
飯豊型エコハウスの基準のひとつに、C値(床面積1㎡当たりの相当隙間面積)が1.0㎠/㎡以下という数値があります。このC値が小さいほど気密性が高いことを示しますが、国の1999年の次世代省エネルギー基準(※)では、北海道や東北などでは2㎠/㎡以下、その他の地域では5㎠/㎡以下とされているため、1.0㎠/㎡以下というのはかなり小さい数値です。この数値から、冬は熱が逃げにくく、夏は熱が入りにくい住宅であることがわかります。
※住宅の省エネルギー基準。1979年施行の「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)」により1980年に設けられた省エネ基準が順次改定され、1999年には全面的な見直しを伴って改正された

またもう一つ、UA値(外皮平均熱貫流率)という指標があります。これは住宅内の熱が、屋根や壁、床、窓などから外に逃げてしまう熱量の平均値です。これも数値が小さいほど熱が逃げにくく、省エネルギー性能が高いことを示すのですが、飯豊型エコハウスの基準は、0.28W/㎡・K以下。HEAT20(住宅・建材生産者団体や研究者等の有志による住宅の高断熱化技術開発に関する民間の委員会)が提示する最も高い基準値を採用しています。

飯豊町がこのように高い基準の設置を目指した理由のひとつが、住民の健康面。「山形県ではヒートショックなどの要因で浴室で亡くなる方が交通事故死亡者よりも多く、これはぜひとも解決しなければならない課題でした」(飯豊町役場企画課)。
山形県でもその点を重視し「やまがた健康住宅」という制度を作成しており、飯豊町と県とが共同でエコタウン椿でのエコハウス建築を推進しています。

自然の力も最大限に活用してコストを抑え、快適性をアップ

断熱性や気密性などの住宅性能を高めることに加え、飯豊型エコハウスのもうひとつの特徴は、最新のパッシブデザインを取り入れていること。これは、太陽の光、熱、風などの自然エネルギーを最大限に活用する設計手法です。
「山形県の一般的な住宅でかかる冬季の光熱費はだいたい15万円くらいですが、飯豊型エコハウスの場合は5万円くらいになる試算です。建築にはイニシャルコストが150〜200万円程度加算されますが、光熱費のランニングコストにより、15年程度で回収が可能です。なおかつ、温度差のない家で快適に住める、お財布にも体にも優しいということで推進しています」(飯豊町役場企画課)。
エコタウン椿の新居に2020年12月に入居した方は、飯豊型エコハウスの快適性に注目したといいます。それまで家族で住んでいた同地域内のアパートだと、冬は3部屋にエアコンを2台と石油ストーブを使っていても家の中に温度差があり、体に負担を感じていたとか。新居では、エアコン1台を20℃に設定して稼働させるだけで家中が暖かく、家族全員が快適と感じているそうです。
もちろん冬だけなく、今年初めて迎える夏の暑さに対しても、しっかり機能を果たしてくれることでしょう。

※出典:飯豊町役場企画課提供資料「飯豊型エコハウスとは」より

鳥取県でも「とっとり健康省エネ住宅」がスタート

もう一つ、鳥取県の取組をご紹介しましょう。鳥取県はそれほど寒いというイメージはないかもしれませんが、冬季には気温がマイナスになることがあり、山間部では積雪も多い土地柄です。
実は、鳥取県は冬季死亡増加率でワースト16位だったことがあります(※)。その要因に冬季の住宅の寒さがあることから、住宅性能を測る県独自の公的なものさしを作るべく、健康を守るための住宅の省エネ性能水準の策定に向けた検討を2019年7月から着手しました。基準の検討には、いち早く取り組んでいた山形県を参考にしたそうです。そして、早くも2020年に運用が開始されたのが「とっとり健康省エネ住宅(通称NE-ST)」。HEAT20などを参考にして独自の省エネ住宅性能基準を設定しています。
※厚生労働省 人口動態統計(2014年) 冬季死亡増加率

省エネ住宅を建設するための「ものさし」を設定

NE-STの認定基準である「とっとり健康省エネ住宅性能基準」は3段階あり、いずれも国の省エネ基準を超える高い基準です。3段階の基準を設けたのは、施主自身にも断熱性能や気密性能と省エネの関係性を理解し、住宅購入を検討するときの「ものさし」を持ってほしいという考えからです。
例えば、住宅性能を上げれば、その分イニシャルコストはかかります。しかし、いざ住み始めれば、高い省エネ効率により、ランニングコストを抑えることができ、快適性も増します。どんな暮らしをしたいか、どういう家にしたいかを施主自身がしっかり考えてほしいと言います。

「断熱や気密は、夏冬を問わずに効果を発揮します。実際のところ、夏も冬もエアコンを使わないという地域は全国でもほとんどないでしょう。つまり、寒冷地だから省エネ住宅が必要という考え方から一歩進み、その地域に合わせた基準を持って省エネ住宅化を進めていくべきだと思います」(鳥取県生活環境部 くらしの安心局 住まいまちづくり課)。

UA値は断熱性能を、C値は気密性能を示しています。いずれも値が小さい方が高性能です。
※出典:鳥取県生活環境部提供資料「とっとり健康省エネ住宅」より

高気密・高断熱への挑戦をする地元工務店

2020年にスタートしたばかりのNE-STですが、すでに認定を受けた住宅があります。それは、NE-STがスタートする前から、建築準備が始まっていた住宅。つまり、鳥取県では、以前から健康住宅の考えを持って住宅建築を希望する施主、及びその住宅建築が可能な工務店が存在していたということです。

そのうちのひとつが、倉吉市にある福山建築。なんと1996年から、高気密・高断熱の家を建築し続けているそうです。「当時は、“夏涼しくて、冬暖かい家”と謳っていましたが、そんな都合のいい家、本当にあるの?ってお客様に聞かれました」(福山建築)。確たるデータがまだ少なかった当時は、実際に家の中の暖かさを内覧会で体感してもらい、納得してもらったそうです。
大寒波で気温がマイナス5℃の日に内覧会が重なったことがあったそうですが、30坪の2階建ての家で、エアコンは1台しか稼働していないのに、エアコンから最も遠い部屋でも室温が19℃あり、内覧会の参加者は驚いていたとか。

「現在のところ、高気密・高断熱の家でオール電化にした場合、当社で施工した住宅では、暖房、給湯器、IHクッキングヒーターなどに使用する電気代は月に8,000円程度です。高気密・高断熱の家は、省エネであり、お財布に優しく、医療費にも関わり、家そのものの資産価値も高めると考えています」(福山建築)。
今では多くのデータをもとに住宅性能や家の価値を考える勉強会を開くなど、住宅建築希望者への啓蒙活動も積極的に行っているそうです。

左から床下に第1種熱交換換気システムを入れる工事の様子、天井断熱の工事の様子、気密性のチェックの様子。

また2020年12月現在、NE-STの設計審査を受けている住宅が約40棟あり、順次建築に進む予定です。また、NE-STには県内の設計事務所や工務店の登録が増えており、今後さらに鳥取基準のエコハウスの建築が進んでいくと思われます。

山形県飯豊町も、鳥取県も、県(町)産材を使うことを勧め、地元の気候風土などを熟知した県内(町内)の工務店による施工を推進しています。健康で快適、お得な省エネ住宅であることに加え、地域の経済に貢献する地域循環型社会の構築も、ひとつのテーマになっています。全国の自治体からの視察も多く、高断熱・高気密な省エネハウスの認知は広がっています。お住まいの地域や住んでみたい地域のエコハウス住宅情報をチェックしてみてはいかがでしょうか。

山形県 西置賜郡 飯豊町役場 企画課

飯豊町は、2018年にSDGs未来都市に認定されるなど、自然環境を守り、持続可能な地域づくりを進めてきた町。飯豊町役場企画課は飯豊型エコハウスを推進し、「エコタウン椿」を整備。すでに分譲が始まっている。

鳥取県生活環境部 くらしの安心局 住まいまちづくり課

「とっとり健康省エネ住宅」を企画、推進。住宅の省エネ性能を数値化して示したことで、「わかりやすい」という声が上がっているまた、高気密・高断熱の家造りには留意すべき点も多いので、参加する設計事務所や工務店などに県主催の研修を実施している。

福山建築

NE-ST登録工務店。1959年創業。住宅建設、リフォームなどを手掛け、早くも1996年から高気密・高断熱の家の建設に着手。住宅の内覧会に参加した人を対象に住宅に関する勉強会を開催するほか、さらに家を建てたい人にはライフプランを考えたファイナンシャルプランを提供し、無理のない健康住宅の建築を総合的にサポートしている。
http://www.o-fukuyama.com/