物理的距離を過去のものにしたテレワーク時代の最先端に迫る
新型コロナウイルスの感染予防対策の一環として、この1年で急速に普及したテレワーク。注目したいのは、テレワークが環境へのダメージを軽減、特にCO2削減に効果があるということです。
とはいえ、テレワークの推進が自然にやさしいって、どういうこと? そう疑問に思う方も多いでしょう。今回はテレワークと地球環境の深い関係と、そのテレワークの最先端を走るNTTデータのVR会議システムを紹介します。
テレワークでもっとも効果的なのは通勤、移動時間の削減
まずテレワークの普及率を見てみましょう。正社員約2万人を対象に、定期的にテレワークの実施率を調査してきたパーソル総合研究所の発表によると、昨年3月の時点でのテレワーク実施者は13.2パーセント、それが4月7日に第1次の緊急事態宣言が発出した直後には27.9パーセントと2倍以上に跳ね上がります。その後徐々に落ち着いてきて、11月では24.7パーセントと、全体の約4分の1の正社員がテレワークを継続的に実施していることが分かりました(※1)。
一見するとさほど広まっていないような数字ですが、これが東京に限定すると事情は一変します。東京都が従業員30名以上の企業1万社を対象に行った「テレワーク導入実態調査」では、2019年度は「導入している」と答えた企業が25.1パーセント、「今後予定あり」が20.5パーセントだったのに対し、2020年6月の調査では導入が57.8パーセント、予定ありが16.4パーセントと、実に全体の4分の3もの企業がテレワークの導入あるいは導入を検討していました(※2)。
ではなぜ東京だけ突出してテレワークが普及したのでしょうか。同じ東京都の調査において、テレワークの導入効果を尋ねたところ、通勤時間や移動時間の削減に「非常に効果があった」「効果があった」という回答が合わせて91.3パーセント。これは、「非常時の事業継続に備えて」の88.0パーセントよりも多く、テレワーク導入でもっとも効果があった項目となっています。
昨年多くの企業がテレワークを導入するきっかけとなったのは、コロナが蔓延する中でもいかに仕事を続けるかということでした。しかし実際に導入してみたところ、なにより毎日の通勤や移動の時間を浮かせることができるというところに、東京都民、および周辺地域から東京へ働きに来ている人々は、テレワークのありがたさ、有効性を感じたようです。そしてここが、テレワークと環境問題との大きな接点となっているのです。
※1 出典:パーソル総合研究所「第四回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」
※2 出典:東京都「テレワーク導入実態調査結果」
各種調査で明らかになったテレワークと環境の関係性
一般社団法人日本テレワーク協会は、テレワークの7つの効果として「生産性の向上」や「事業継続性の確保」「雇用の創出と労働力創造」などとともに、「環境負荷の軽減」を挙げています。
また国土交通省の「テレワークによる効果の把握に関する調査研究報告書」では、2004年3月と早くから「テレワークの効果・効用」を「企業経営にとっての効果・効用」「オフィスワーカーにとっての効果・効用」「社会にとっての効果・効用」の3つに分類し、社会における効果として「交通量の削減と混雑緩和」「地球環境負荷の軽減」を挙げていました。
テレワークの最大の特徴は、物理的な距離に無関係に仕事ができるということ。つまりわざわざオフィスに来なくても、デバイスさえあればどこでも仕事ができ、さらに同僚と共同作業ができるということです。それにより車通勤のための交通量の減少や、オフィスで消費する電気をはじめとするエネルギーの削減、それに伴うCO2排出量を抑えることができるのです。
では実際に、テレワークの普及が環境に対してどのような効果をあげているのでしょうか。
総務省の「平成22年度次世代のテレワーク環境に関する調査研究」では、テレワーク導入によりオフィスの電力消費量は一人当たり43パーセントの削減が可能で、テレワークの実施により家庭での電力消費量が増えたとしても、全体で14パーセントの削減ができるとされています。
さらに、2010年5月11日に環境問題対応ワーキンググループ発表(総務省設置)の「2020年におけるICTによるCO2削減効果」 では、ICTの普及によるCO2削減効果は2020年度で最大約1.5億トンにのぼる可能性を推計しており、その中でテレワークの実施により人の移動が抑えられ、103万トンのCO2の削減が期待できるとあります。この他にも、家庭で仕事をすることにより生じるごみの量がオフィスよりもぐっと減ってくるという指摘もあります。
このようにさまざまな調査の結果、テレワークの普及がCO2の削減へとつながり、自然環境に対して良い効果をもたらすということが分かっています。
2018年に環境省が作成した「働き方改革による二酸化炭素(CO2)削減効果」簡易算定ツールでは、テレワーク・自宅作業の実施によるCO2の削減効果を検証することが可能なのでぜひ試してみてください。
さまざまな可能性を秘めたVR会議室システムの開発
とはいえ、テレワークを受け入れがたいという声は今なお根強くあります。その最大の阻害要因は、やはりコミュニケーションの問題。特に複数の人間が共同で行うウェブ会議ツールなどを使った作業では、フェイス・トゥー・フェイスに比べてやりにくいという意見が数多く存在します。
ここではその問題点を解消できる最先端のツールとして、NTTデータが開発する「フルデジタルオフィス(VR会議システム)」を開発本部AI技術センターの山田達司さんに紹介いただきます。
「『フルデジタルオフィス(VR会議システム)』は、従来のウェブ会議ツールでは行いづらい対面、共同の作業や、紙ベースでの業務を減らすことで、テレワークのより一層の普及を図ろうと、2017年よりNTTデータと筑波大学が共同で開発を始めた仮想的な3D空間による会議システムです。2020年度から社内でのテスト導入をスタートするのと並行して、お客様への提供も進めています。
『VR』ということからご想像いただけると思いますが、これは各地にばらばらにいる参加者が、VRゴーグルを装着することにより一つの仮想的な会議室に参加することが可能になるシステムです。仮想空間の会議室内では参加者のアバターが稼働しているので、あたかも同じ空間で打ち合わせを行っている感覚で議論することができます。また発言した内容はリアルタイムで認識され、会議室内で吹き出しとして表示されます。翻訳機能もあるので、参加者が外国語で発言しても日本語に翻訳されて表示されるため、同時通訳などは必要ありません。実際にNTTデータでは、イタリア在住の担当者とこのVR会議システムを使って定期ミーティングを行っています。
会議資料などもサーバから仮想空間に表示したり、仮想室内にあるホワイトボードに参加者が書き込んだりできるので、紙資料をプリントアウトして参加者に配布することもなく、ペーパーレス化に大いに貢献できるというメリットもあります。
このシステム、当初は会議や打ち合わせなどのビジネスユースを想定していましたが、今回のコロナウイルスの蔓延により3密を避けなければいけなという事態となって、イベント関係者や製造業からの問い合わせが非常に多かったのには驚きました。その中でこのVR会議室が、物作りの現場でも有効的に利用できることが分かってきました。というのも、服飾でも製造業でも、最初に試作の段階でさまざまなモデルを作るわけですが、そのときに実際に作って廃棄される試作品は膨大なものです。しかしこのVR会議室を利用することにより、ヴァーチャルな空間でみんなが試作品を検討し、シミュレーションすることが可能です。VR会議室は、物作りの大量生産大量消費に一石を投じる可能性も秘めているのです。
さらにVR会議室は、物理的な距離を解消でき同一空間で参加できるので、視聴覚や身体の移動にハンディがある人でも一緒に会議に参加するハードルを限りなく低くすることができます。
自然環境への配慮、ダイバーシティの観点など、まだまだこのVR会議室にはいろんな可能性が生まれています。デバイスの改良など課題はありますが、今後はさらに注目されていくのではないでしょうか。」
株式会社NTTデータ 技術開発本部AI技術センタ シニアスペシャリスト
山田達司(やまだ たつし)
AR/VRおよびアイデンティティ管理エバンジェリスト。セキュリティと先進ITデバイスによるワークスタイル変革を専門とする。現在はVR会議システムの研究開発およびXR技術の企業内導入推進に携わる。1996年米国で人気を博したモバイルデバイスPalmを日本に紹介。Palm OSを日本語化するJ-OSの開発、関連書籍の執筆、開発者コミュニティ支援を行い、Palmユーザーから”Palmの神様”と呼ばれ、ネット用語「神降臨」の元祖とも。