ハートウェアの形成で省エネ意識を行動に育てる
「自然エネルギー100%大学」の教え
「自然エネルギー100%大学」という目標を掲げて環境活動を続ける千葉商科大学。自然エネルギー100%大学とは、省エネ・創エネにより大学が生み出すエネルギーと大学で使うエネルギーを同量にするネット・ゼロ・エネルギー・キャンパスのことです。千葉商科大学の取組で注目すべきはハード面だけでなく、省エネ意識を育てる「ハートウェア」の醸成を組み入れている点です。学部長の時代から取組に携わってきた千葉商科大学の原科幸彦学長に、これまでの歩みと省エネ意識の育成についてお話を伺いました。
発電所の建設を契機に
省エネ・創エネプロジェクトを始動
かねてから環境活動に力を入れていた千葉商科大学が、地球温暖化対策などの環境保全に貢献するため、メガソーラー野田発電所を建設して稼働させたのは2014年のことです。
「大学単位では日本一大きいメガソーラー発電です。大学が所有する千葉県野田市の野球場跡地に建設しました。森林を破壊するようなこともなく、環境へのインパクトが少ない土地を活用しています。」(原科学長。以下同)
メガソーラー野田発電所の発電量はどれほどの実力があるのか。2014年、政策情報学部のゼミ学生たちが、野田発電所と1号館屋上に設置されていた太陽光パネルの予測発電量を推計してみると、大学が消費する総電力量の6割強になることがわかりました。それを受けて、当時、政策情報学部の学部長を務めていた原科教授は、ある目標を設定します。
「推計結果を公表するとともに、政策情報学部の省エネ・創エネプロジェクトとして、自然エネルギー100%大学を目指したいと2014年9月にプレスリリースを行ない、意思表明しました。」
※出典:日本初「自然エネルギー100%大学」リーフレット(2020年度版)
メガソーラー野田発電所の初年度である2014年度の発電実績が、キャンパスで消費された電力の77%に相当することが分かり、残り23%を省エネ・創エネで削減できれば、目標を達成できることが明らかになりました。その後、ネット・ゼロ・エネルギー・キャンパス化に向けた省エネ・創エネプロジェクトを、一学部ではなく全学的なものとして展開していきます。
キャンパス内の建物でエネルギーの無駄を調査
どうしたら不足分を賄うだけの省エネができるのか。学生たちは、特殊な機器を使用して建物の温度、湿度を測定し「暑すぎ」「寒すぎ」を感じるかどうかを調査。さらに、きちんと閉まらない窓の有無や使用されていない教室の照明や冷暖房の付けっぱなしはないかなどについて、キャンパス内のすべての建物でエネルギーの無駄を調査して、省エネの具体策を探りました。
この活動によって全学的な理解が深まるとともに、2017年には原科教授が学長に就任。学長プロジェクトとして、自然エネルギー100%大学に向けた活動が大学組織のものとして本格的にスタートしました。
「以来、教員がサポートしながら、省エネ活動を学生主導で取り組んできました。2017年には、環境省『COOL CHOICE LEADERS AWARD』で優秀賞をいただくなど、外部から評価を得ることで大きな励みになり、学生のモチベーションがアップしています。」
2018年には、学生目線で省エネや地球温暖化防止への取組を考えて、大学とともに活動する学生団体SONEを発足。学内に設置されている飲料自動販売機を省エネ型へ変更することに加えて、利用頻度の低いものを撤去するよう大学に提言するなど、企画・実践や大学への提言などを通じて、学内電力消費量の削減を目指しています。
学生団体SONEは、学内電力消費量の削減を目指して活動し、外部からの評価も得ています
“行動につながる意識”を育て
卒業生の商いの力にも期待
千葉商科大学が掲げる自然エネルギー100%大学の土台となっているのは、「ハードウェア」「ソフトウェア」「ハートウェア」の3つの柱です。
※出典:千葉商科大学ウェブサイト
「ハードウェア」は、メガソーラー発電所や屋上の太陽光パネルといった「創エネ・省エネ設備の拡充」のこと。
「ソフトウェア」は、消費電力量管理、発電量管理といったエネルギーの「見える化・制御」。
では、「ハートウェア」とはどういうことでしょうか。
「 “行動につながる意識”を醸成することです。外国と比べると顕著なのですが、日本人は、環境に対する意識は高いものの、なかなか行動につながっていません。ハートウェアには個人と組織の2つがあり、どちらの行動も必要です。」
省エネ行動は、個人一人ひとりが気持ち・知恵をもって積み重ねるもの。そして組織として、大学は省エネ・創エネに必要な設備投資の意思決定を行う重要な役割を担っています。この意思決定行動にハートウェアが重要です。
節電週間アクションとして「打ち水で涼しく大作戦」を実施
「学生たち個人にハートウェアが浸透すると同時に、環境活動に対して学生発信のアイデアが集まるようになりました。エネルギーの無駄調査のほか、今では恒例イベントとなっている『打ち水で涼しく大作戦』といった企画もその一つです。学生が主体的に行うことで学内にマインドが醸成されています。」
学内に限らず、入学を希望する学生や卒業生にも良い影響が出ています。
「嬉しいことに、自然エネルギーを学びたいからと入学する学生が増えてきています。なんとも頼もしいことです。一方で卒業生は、電力関係の企業に就職する学生も多くなり、大学で学んだことを生かして道を切り開いています。」
千葉商科大学は、卒業して社会に出てから会社を興し、社長になる人が多いことも特徴なのだとか。
「そのような中小企業を経営している卒業生にも期待しています。経営者として、自分のやろうとしている経営は真っ当であるかを常に考えてほしいです。商いで少々コストがかかったとしても、自然エネルギーを活用すれば社会に貢献することができます。民間の力、商いの力を日本全体に波及させれば、持続可能な社会へと変えていくことができる。そう願っています。」
学外に取組を波及させて
エネルギー地産地消型社会の実現へ
全国から注目を集める自然エネルギー100%大学の取組については、「うちの大学がやって終わりではなくて、次につなげることが大事だと考えています。そのため、これまでの経験と知識を他大学へ惜しみなく伝えていきたいと思います」と原科学長。
その言葉が表すように、はやくも「自然エネルギー大学リーグ」というカタチで、ほかの大学にも波及し始めています。
これは、各大学のキャンパスで消費する電力を、再生可能エネルギーですべて賄うことを目指すもの。原科学長などが世話人になり、他大学に参加を呼びかけて、2021年9月の正式発足を目指す取組です。大学が行動を起こすことで、「大学以外の企業や自治体、公的組織、NGOなど他の主体に影響を及ぼす」とともに、「教育機関として、再エネ社会を担う人材を育てる」ことも目標としています。
2021年2月現在の参加大学は、千葉商科大学をはじめ、国際基督教大学、和洋女子大学、聖心女子大学、東京外国語大学の5大学です。そして、さらに参加希望の大学が増えています。
「日本各地の大学や中小企業に同様の取組が広まり、エネルギー地産地消型の社会に転換されれば日本は確実に変わります。」
千葉商科大学としての取組は、2019年1月に発電量が消費電力量を上回り、電力では自然エネルギー率100%を達成しました。また、主要キャンパスで使用する電力は、2019年11月にすべて再生可能エネルギーへの切り替えを終えています。
「次の目標として、電気だけでなくガスの消費エネルギーも含めた自然エネルギー100%達成年度を2020年としていました。数値としては既に達成したのですが、コロナ禍という平時ではなくなってしまい、大学におけるエネルギー消費が減っている状況でした。そのため、平時に戻っているであろう2023年を目標年度に設定し直したところです。目標達成に向けて、これからも取組を続けていきます。」
学内から他大学、そして中小企業、日本社会へと広まるハートウェアという名の具体的な行動につながる省エネ意識。個人が地道な省エネ行動を続けながら、組織が取組における確かな意思決定をしていけば、日本は脱炭素社会の実現に一歩近づけるに違いありません。
原科幸彦学長
千葉商科大学
持続可能な社会づくりに貢献するため「自然エネルギー100%大学」を目指し、再生可能エネルギーの導入促進と、学生主体で推進する学内の省エネ活動を実践。ハードウェア、ソフトウェア、ハートウェアという3つの柱で、全学的なスキームを展開して取り組んでいる。
「環境・エネルギーへの取組み」