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気候変動への適応って必要ですか?
~「緩和」と「適応」2つの気候変動対策について~

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普及啓発

今年は全国的に梅雨入りが遅くなりましたが、梅雨入り早々から各地で大雨となっています。
また、昨年(2023年)は観測史上最も気温が高い一年となりました。

近年、気候変動によって大雨が強くなり、かつ、そうした大雨の発生頻度が増えてきていると言われています。今夏も暑い夏になるとの予報が発表されていますので、気候変動の影響がより身近なものになってきたと実感されている方も多いのではないでしょうか。

このところ、日本だけでなく世界各地で極端な異常気象が多く発生し「気候危機」と言われるようになってきました。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、世界の平均気温は、工業化以前と比べて既に1.1℃上昇しています。かつては、「平均1℃程度の気温上昇では、その影響は大きくないのではないか」「カーボンニュートラルが実現すれば、適応なんて必要ないのではないか」という楽観的な声も多く聞かれました。ところが、平均1℃程度の気温上昇の影響で、日本国内でも記録的な大雨や高温が発生し、これまで経験したことがない規模の気象災害につながったり、熱中症による救急搬送者や死亡者の数が増加するなど、私たちの暮らしに深刻な影響が生じています。

さらには、コメなど農作物の品質低下、牛乳や卵の生産量の低下、ノリやワカメの品質低下、魚種の変化など、生活や企業活動を支える様々な環境に大きな影響があらわれてきています。
そして、今後地球温暖化が進行するに従って、さらにその影響が拡大していくことが懸念されています。

気温上昇を1.5℃に抑えて気候変動そのものを抑制するために、温室効果ガスの排出を削減し、脱炭素やカーボンニュートラルを実現する「緩和」の取組を行うことは、言うまでもなく最優先課題です。ただ、忘れてはならないことは、カーボンニュートラルを達成できたとしても、気温上昇を避けることは難しいということです。近年の気候変動影響の拡大を考えると、その影響を回避・軽減する「適応」の取組も合わせて進めていかなければなりません。

「気候変動対策として、緩和と適応は車の車輪」のイメージ。「緩和」は気候変動の原因となる温室効果ガスの排出削減対策で、「適応」は既に生じている、あるいは、将来予測される気候変動の影響による被害の回避・軽減対策を指します。
「気候変動対策として、緩和と適応は車の車輪」のイメージの画像を拡大表示
出典:環境省資料より

「緩和」と「適応」は、気候変動対策として車の両輪に例えられる取組です。上手に組み合わせて実施することによって、相乗効果を生み出し、将来に亘って気候変動対策の持続可能性を向上させることにつながります。

例えば、「緩和」を推進するために、メガソーラーや風力発電所などを気象災害のリスクが高い地域に建設しようとする場合はどうでしょうか?
近年、発電所が浸水や土砂災害、強風などの被害を受けるケースが多く見られています。再生可能エネルギーは、太陽光や風力、水力など自然の力を利用しているため、気候などの影響を受けやすい傾向にあります。また、様々な事情から山地など自然災害リスクが高い地域への建設が検討されるケースが多くありますが、カーボンニュートラルへの貢献を目指して建設された施設が、気候変動の影響によって被害を受けては、元も子もありません。

このような被害を防止・軽減するために「適応」が大変重要となります。
あらかじめ洪水や高潮などのハザードマップを活用してその地域の気象災害リスクを把握した上で、リスクの少ない土地を選択することや、リスクに応じて必要な対策(例えば、土地のかさ上げ、重要な設備を2階以上に設置する、耐風性を強化するなど)を設計の段階から講じること、また、日頃の災害対策として、天気予報等を活用しつつ事業継続計画(BCP)やタイムラインを作成して備えること、こうした「適応」の取組によって、気候変動への強靱性を高め、将来にわたって、エネルギーの安定供給など事業の持続可能性を向上させることができるでしょう。

今後、気候変動によって大雨の頻度や強度がさらに高まることや、海水温の上昇によって台風がこれまでより強い勢力を保ったまま上陸するケースも想定されます。過去に気象災害を経験していない地域においても、大規模な気象災害につながる可能性があるため、気候変動も考慮して「適応」の視点から将来に備えることが益々重要となってきています。

例として「気候変動の影響と適応策(事業者編):電気・水道・ガス・熱供給業」のイメージ。業種間で共通する項目別に、主な影響とその要因、主な現在の状況と将来予測、適応策と適応ビジネスなどを整理しています。
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出典:気候変動適応情報プラットフォーム インフォグラフィックス(事業者編)より

また、「緩和」の取組の中には、「適応」の取組としても効果の高いものが含まれています。

例えば、避難所となる施設に分散型の再生可能エネルギーを導入することは、平時は温室効果ガスの排出を抑える事につながるだけでなく、災害時の電源を確保する事につながり、増加する水害への適応策ともなり得ます。

住宅において、断熱性能を高めることや太陽光発電などの再生可能エネルギーを導入することは、エネルギー効率を向上させCO2削減につながる取組として推進されていますが、エアコンを適切に使うことにもつながり、夏期の熱中症リスクを減らす「適応」策としても有効です。

また、間伐など適切な森林管理を進めることは、CO2の吸収量を増やす「緩和」策として効果があることはもとより、健全な森林を守っていくことで、土砂災害のリスクを軽減する「適応」策となり、さらには生物多様性保全、レクリエーション機能の向上など様々な効果が見込まれます。

脱炭素やカーボンニュートラルを目指し取組を推進される際は、是非、「緩和」と「適応」の両面から検討し、将来の気候変動リスクや機会を考慮し、気候変動に負けない持続可能なビジネスにつなげるという視点を持ってみてください。


「民間企業の気候変動適応ガイド ~気候リスクに備え、勝ち残るために~」

環境省では、2022年3月に民間企業の気候変動適応ガイドを改訂しました。
事業活動への気候変動影響や適応の考え方、適応に取り組むことのベネフィットなどを具体的な事例とともにご紹介しています。また、TCFD等の気候リスク開示や気象災害に対するBCMの取組を通じた適応についても解説しています。是非ご参考にご覧ください。

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