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2021.03.05

「ごみを減らせ!」「ごみは資源!」
そんな意識がつくる脱炭素な日常

コロナ禍でごみ問題が深刻化しています。地球温暖化にも影響するこの問題を解決するために、いま私たちにできることとは何でしょうか。自治体が地域住民と地道に続けている先進の取組や、企業の新プロジェクトに着目してみると、そのヒントが見えてきました。一人ひとりの選択と行動が、脱炭素社会の実現につながっているのかもしれません。

ごみ問題は地球温暖化につながる?

新型コロナウイルスの影響によって日常生活や消費スタイルが変わってきています。自宅で調理をしたり、テイクアウトやデリバリーを利用したりといった機会が増えると同時に、プラスチックごみの増加が深刻化しているのは、そうした変化の影響のひとつ。

ごみ問題には、地球温暖化にも悪影響を及ぼす根深い問題が潜んでいます。ごみ焼却時の温室効果ガスの発生だけでなく、焼却にも、ごみ処分場への運搬にも多くのエネルギーが使われていますし、もっといえば、必要以上に大量のモノが生産され廃棄される、それぞれの過程でもエネルギーが使われCO2が排出されているからです。

社会構造は簡単には変わりませんが、社会のニーズを変えるのは、一人ひとりの意識です。
意識や行動の変化によって課題解決を図ったまちぐるみの取組もあります。

たとえば、住民主体で資源ごみの徹底分別を実践し、ごみを減らすばかりか、ごみを資源にして収益をあげ、町営の小水力発電所を建設・運用している自治体があります。
また民間のプロジェクトでは、飲食店のテイクアウト容器をシェアして、まちぐるみでリユースするという実証実験が行われ、近い将来、全国展開を視野に準備が進められているといいます。
いずれも住民や利用者など、一人ひとりの意識と行動の変化が、成功の鍵といえそうです。

自治体の成功事例に学ぶ
ごみを“品質の良い資源”に変える方法

日本がコロナ禍に見舞われる以前から、ごみ問題に取り組み続ける自治体があります。それは、紀伊半島の北西部、和歌山県のほぼ中央に位置する有田川町。2021年1月現在の人口は約2万6千人で、そのうち31.8%(全国平均26.6%[H27国勢調査])が65歳以上というまちです。
ここではごみ問題の解決が、再生可能エネルギーを運用するエコなまちづくりに発展していました。

「『有田川エコプロジェクト』と名付けて再生可能エネルギーの利用計画が動き出したのは2009年のことです。これに先だって、ごみを露天出しからごみステーション方式に転換して、ごみの資源化と収益化を進めていました。当時、まちの焼却施設の処理能力は限界に達していて、ごみ問題は大きな課題だったのです」と話すのは、和歌山県有田川町・環境衛生課の平松紀幸さんです。

それまで家の前に露天出ししていたごみを分別してごみステーションまで運ばなければならなかったため、住民の手間は増えることになり、最初は不満の声もあがっていたそうです。
「ごみステーション化を進めるにあたって、各自治区をまわり何度も説明会を開催して、『混ぜればごみ、分ければ資源』を合言葉に、粘り強く啓発を続けました。」(平松さん)

有田川町のごみステーション。ごみが雨に濡れないよう屋根が付けられている。

その結果、現在、有田川町に設置されているごみステーションは約300カ所。それとは別に数戸が持ち寄る簡易ごみ収集ボックスが約200カ所あります。
ごみは「燃えるごみ」「燃えないごみ」「プラスチック」「ペットボトル」「空き缶」「空きビン」、新聞誌などの「古紙」、菓子箱や封筒などの小さな紙を「雑紙」として、細かく8つに分類されています。
「いまは住民の方が率先して、より良いごみの出し方について自治区内で話し合い、ごみステーションを運営されています。自分の出したごみに責任を持とうと、独自で世帯に番号をふり、ごみ袋に記載している区もあります。」(平松さん)

“マイナス入札”で削減した費用を元に
住民に太陽光発電設備などを貸与

住民の努力によって徹底的に分別されたごみは、“品質の良い資源”として評価を受けるようになり、2008年度から資源ごみ収集事業をマイナス入札にかけることに。これは有田川町にとって大きな転換期となりました。
「それまでお金を払って業者に処理をお願いしていたものが、逆に業者からお金をもらって処理できるようになりました。マイナス入札が可能になったのは、住民の皆さんが、ごみ削減、リサイクル化の意義を理解して行動してくれたからです。」(平松さん)

その後は、マイナス入札によって得た利益を積み立てる「低炭素社会づくり推進基金」を立ち上げて、太陽光発電設備、太陽熱利用設備、生ごみ処理機補助制度、コンポスト無償貸与を開始しました。県営ダムに町営小水力発電所を建設し運営するという全国初の取組もそのひとつ。ごみステーション化から始まったまちのプロジェクトは、再生可能エネルギーをつくり出すまでに至ったのです。

では有田川エコプロジェクトで、地球温暖化の抑制につながるCO2排出量は、どの程度削減できているのでしょうか。
「令和元年度時点の数値ですが、太陽光発電設備への補助件数は累計で430件、県下唯一の太陽熱温水器への補助件数は累計216件、町営二川小水力発電所の売電額は年間4,700万円、売電量は年間平均128万kwhとなっています。これらのCO2排出削減量の合計は、年間2,022トンと試算しています。」(平松さん)
年間2,022トン。東京ドーム約0.8杯分のCO2削減につながっているわけです(東京ドームは約124万立方メートル。CO2の体積は1トン約509立方メートルなので、2,022トンでは約103万立方メートル)。

成功事例として注目された取組ですが、運営上の大事なポイントは何でしょうか。
「有田川町の取組を、他の市町村でそのまま取り入れるのは難しいかもしれません。有田川町は過疎化しつつもコミュティがしっかりと機能して住民互助の意識があり、だからこそプロジェクトの肝であるごみステーションの自治区運営がうまくいっていると思います。一般廃棄物処理の最終責任は行政にありますが、地域のごみ対策が行政頼みではなく、住民として参加しているという意識が大切だと思います。」(平松さん)

年間533トンのCO2排出削減量の実績を持つ町営二川小水力発電所

テイクアウトの利用で環境に貢献
貢献度の見える化でモチベーションアップ

ここまで、ごみを資源にして収益化に成功した有田川町のみなさんの取組を見てきました。次は、ごみ自体を出さないための新しいサービス「Re&Go」に注目してみます。

Re&Goは、繰り返し使用できるテイクアウト容器のシェアリングサービスで、NISSHA株式会社とNECソリューションイノベータ株式会社が共同で推進しているプロジェクトです。LINEの公式アカウントを友だち登録することで利用できます。

加盟飲食店のテイクアウト容器を統一してリユースするしくみですが、ユーザーは利用後に返却スポットへそのまま容器を返却するだけ。利用するごとにポイントが貯まるほか、ごみやCO2の排出をどれだけ削減できたのかをLINEで確認できます。

「Re&Goサービスは、容器ごみ削減に向けた事業プランをベースに2019年の段階で企画していました。その後のコロナ禍でごみが増えて問題が深刻化し、早期に解決しなければと後押しされる格好になっています」と話すのは、Re&Goでプロジェクトリーダーを務めるNISSHA株式会社の吉村祐一さんです。

※出典:テイクアウト容器のシェアリングサービス「Re&Go」の実証実験を開始

利用されたシェアリング容器は、回収パートナーによって回収される

Re&Goの実証実験は、沖縄県読谷村で2020年12月1日(火)から2021年2月14日(日)まで行われました。

「サービスの運営には、容器の回収や洗浄といった見えにくい部分で、地域パートナーの協力が不可欠です。今回の実証実験は、読谷村の商工会とご縁があり大きな協力をいただけたことも幸いしました。商工会の皆さんには、環境負荷低減と地域活性化につながるサービスに共感いただいて、商工会から飲食店に実証実験への参加を呼び掛けていただきました。」(吉村さん)

商工会からの紹介であればと、飲食店は安心感をもって参加できたようで、実証実験はスムーズに実施できました。スタート時は7店舗の参加でしたが、地元の大型ショッピングセンターなども含め、最終的には13店舗に増えました。

今回の実証実験によって得られた成果にはどんなものがあるでしょうか。
「CO2排出量削減のデータはこれからとなりますが、抑制できた廃棄物量は258個です。
初の実証実験ということで見えてきた課題もありました。
容器の回収は、一般的なガソリン車で行っていますが、今後は、自転車やEV車で運ぶなど、流通による環境負荷低減も意識して、さらに改善していきたいと思います。容器自体も、NISSHAが持つ環境配慮資材の成形加工技術への知見も活かしながら、サイズや形状などのバリエーションを増やしていければと考えています。」(吉村さん)

右:ユーザーはLINE上で環境貢献度を実感できる(画面はイメージサンプル)

そしてもうひとつRe&Goの大きな特徴は、地域全体での容器ごみの削減量やCO2排出削減量(※)を見える化している点です。シェアリング容器を使えば使うほど環境負荷が減らせるため、ユーザーはLINE 上で環境貢献度を実感できます。
※実証実験では、個人の容器ごみ削減量のみ可視化を実施。その他の見える化機能は開発中

「マニュアルがあるわけではないのですが、実証実験では、飲食店のスタッフがお客さんへ商品を手渡す時に『環境への配慮ありがとうございます』と声を掛けることもあります。ユーザーからは、そういったひと言が嬉しかったという声も届いていて、利用のモチベーションにもつながっているようです。」(吉村さん)

Re&Goは、まだスタートラインに立ったばかりのサービスですが、今後は、ほかの地域での実証実験を経て、2021年内に実用化を目指しています。

「皆さんがお住まいの地域や旅先などでRe&Goのサービスを見かけたら、まず気軽に使ってみてください。そして、使い勝手やご意見をフィードバックしてもらえると嬉しいです。」(吉村さん)

コロナの影響を受けて食の行動が変化し、増加しているプラスチックごみ。見方を変えれば、一人ひとりがどんなものを選び、どう行動を変化させるかで未来は変えられるということです。
ごみとなるモノの量を減らすこと。分別をすることでごみを資源にすること。こうしたことを意識した一人ひとりの行動が求められています。

和歌山県有田川町

環境と経済を両立したエコなまちづくり「有田川町エコプロジェクト」を推進し、「ごみの分別徹底・資源化」と「再生可能エネルギー導入推進」を両輪に、2009年より取組を進めている。
https://www.town.aridagawa.lg.jp/top/kurashi/kankyo/1/2236.html

NISSHA株式会社

繰り返し使用できるテイクアウト容器のシェアリングサービス「Re&Go」の企画・運営・容器手配等を行う。アプリ開発運営・企画を行うNECソリューションイノベータ株式会社と共同で、2021年の全国展開を視野にプロジェクトを推進中。
https://www.nissha.com/index.html