地球温暖化が進むと秋も蚊が活発になる!? 懸念される感染症の脅威とは
秋の気配の深まりとともに不快な蚊の姿が少なくなって、ホッとしている人も多いのではないでしょうか。
かゆみをもたらすだけでなく、時には様々な感染症を媒介する蚊は、“世界で最も人間の命を奪っている”といわれるほど、想像以上に恐ろしい生物です。
そんな厄介な蚊は、これまで夏に最も活発化するとされていましたが、地球温暖化により秋も元気なままだという懸念があるのです。
また、このような影響を及ぼす地球温暖化を防ぐために、私たちには何ができるでしょうか。
ヒトスジシマカの生息域は平均気温11℃以上
国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が発表した第5次評価報告書では、このまま地球温暖化が進めば、今後100年で地球の平均気温の上昇は止められないと警告しています。最も気温上昇が高いRCP8.5シナリオ(※1)では、2100年には1986年~2005年の平均気温と比べて2.6℃から4.8℃の気温上昇が予測されているのです。
地球温暖化による“危機”の1つに、蚊が媒介する感染症のまん延が挙げられます。
2014年にデング熱が日本で大流行したのは記憶に新しいところです。当時、デング熱の国内感染を広めたのはヒトスジシマカです。
日本で最も一般的に見られる蚊の一種で、別名ヤブカとも呼ばれます。
ヒトスジシマカは卵で越冬し、3〜4月に雨水が溜まったところで孵化(ふか)して水中で成長します。
幼虫の生息域は「平均気温11℃以上の場所」、活発に活動するのは「気温25~30℃の時季」とされています。
※1:RCPシナリオとは、第5次評価報告書の気候モデル予測で用いられる温室効果ガスの代表的な濃度の仮定(シナリオ)を指す。RCP8.5シナリオとは、報告書内で示された4つのシナリオ(RCP2.6、4.5、6.0、8.5)のうち、最も気温が高くなるシナリオ。
トスジシマカの生息域は1950年頃までは北関東が“北限”とされていました。しかしそこから次第に北上が始まり、2000年に岩手県南部(一関市)・秋田県北部(能代市)まで、2009~2014年には岩手県中部(盛岡市)・秋田県最北部(大館市)で生息が確認され、2015年には青森県(八戸市・青森市)と本州全域に達しています。
この60年余りで約400kmも生息域を北上させてきているのです。
青森市の平均気温の平年値(1991~2020年)(※2)は10.7℃ですが、直近の過去5年間(2016~2020年)の平均でみると11.1℃となり、ヒトスジシマカの生息域である「11℃以上の場所」に含まれることも証明されました。
まだ生息が確認されていないとされる北海道はどうでしょうか。
2021年現在、北海道の平年値(1991~2020年)は道南の函館市で9.4℃、道央の札幌市で9.2℃、道北の稚内市で7.0℃でしたが、過去5年間では函館9.8℃、札幌9.5℃、稚内7.2℃と、すでに0.2~0.4℃の上昇傾向にあります。
さらに、2076年〜2095年の北日本では秋(9〜11月)の気温が5℃前後上昇するという予測もあり、この予測通りに地球温暖化が進めば、近い将来には少なくとも道南・道央まで、場合によっては北海道全域、つまり日本全域がヒトスジシマカの生息域に含まれてしまうのです。
※2:西暦年の1の位が1の年から続く30年間の平均値
10月もヒトスジシマカの活動時期に!?
蚊の活動時期の長期化も懸念されます。「気温25~30℃の時季」にヒトスジシマカの活動が活発になるとされていますが、これまでは主に6~9月の期間でした。しかし、近年は5月も最高気温の平均値が25℃を超えています。
さらに、2076~2095年の秋(9~11月)には、全国で4.5℃前後の気温が上昇するという予測があり、こうした予測値を現在(2006〜2020年)の10月に反映すると、25℃を超えることになり、ヒトスジシマカの活動時期が10月までずれ込んでしまうのです。
地球温暖化によって懸念される感染症
ヒトスジシマカ以外にも、アカイエカ、チカイエカなどの蚊が媒介する感染症には日本脳炎、マラリア、西ナイル熱などがあり、世界各地で発生しています。
西ナイル熱は、39°以上の発熱を起こし、西ナイル脳炎の原因ともなります。日本ではまだ感染が広がっていませんが、蚊の活動が長期化すると、日本で感染が拡大するという懸念もあります。
西ナイル熱のウイルスは蚊が媒介しカラスや渡り鳥が伝播すると考えられています。現在は、渡り鳥の渡来時期である秋期には蚊が活動しなくなっているので、仮に渡り鳥がウイルスを運んできても、人に感染する可能性は低いとされています。
しかし、地球温暖化が進行して蚊の発生時期が延びると、鳥の渡来時期と重複するため、日本でも西ナイル熱が発生する可能性が出てくることになるのです。
地球温暖化による蚊の活動長期化・生息域拡大は着実に進行しています。その他にも、海面上昇、干ばつや大雨などの異常気象、地球の生態系への影響など、地球規模で起こっている地球温暖化は私たちの生活や暮らしに深刻な問題を投げかけています。
私たちにできる行動
このような影響を及ぼす地球温暖化を進行させないために、日本では2050年までにCO2などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指します。
そのために、私たちにできる行動として、環境省では「COOL CHOICE」を推進しています。
「COOL CHOICE」は、CO2などの温室効果ガスの排出量を削減する「製品への買換え」、「サービスの利用」、「ライフスタイルの選択」などのあらゆる「賢い選択」によって、持続可能で豊かな暮らし、脱炭素社会を実現していこうという取組です。私たち一人ひとりが実践できることから取り組んでいきましょう。
参考資料など
- IPCC「第6次評価報告書 『自然科学的根拠』政策決定者向け要約」(2021年)/国立感染症研究所「デング熱国内感染事例発生時の対応・対策の手引き 地方公共団体向け(第1版)」)2014年)/同「IASR月報Vol. 41『ヒトスジシマカの分布域拡大について』」(2020年)/気象庁「地球温暖化予測情報 第9巻」(2017年)/同「日本の気候変動2020(詳細版)」/環境省 地球温暖化の感染症に係る影響に関する懇談会「地球温暖化と感染症 いま、何がわかっているのか?」(2006年)/同「気候変動影響評価報告書 総説」(2020年)/環境省、文部科学省、農林水産省、国土交通省、気象庁「気候変動の観測・予測及び影響評価総合レポート2018~日本の気候変動とその影響」/東京都感染症情報センター「蚊媒介感染症」/樋口広芳・小池重人「地球温暖化が動植物の生物季節や分布に与える影響」
制作協力 ウェザーニューズ
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