北極海の海氷消滅で地球温暖化が加速化の危機!?
地球全体に与える影響と新たな航路の可能性
地球温暖化の進行によって、南極大陸やグリーンランドなどの氷床や氷河が溶けて海水に流れ込んだり、水温の上昇で海水の体積が膨張したりすることから、海面上昇が生じて、フィジーやツバルなどの島嶼(とうしょ)国家の水没危機が差し迫っていると懸念されています。
さらに、生態系の破壊や地球全体の温暖化の加速化など、海氷が減少することで起こる様々な問題が指摘されています。一方で、“凍らない海水面の広がり”を逆手にとって、航路の拡大をCO2削減による「エコ」につなげようとする動きもあります。
北極海の海氷が溶けると、北極圏や地球全体にどのような影響があるのでしょうか。急激な変化を続けている北極海の現状をとらえ、地球全体に与える影響について、紹介します。
地球全体の平均の3倍のスピードで温暖化が進行
アメリカ、カナダ、ロシアなど北極海を囲む8ヵ国が加盟、日本などの非北極圏国・組織もオブザーバーとして参加する北極評議会(AC)閣僚会合で、2021年5月に発表された報告によると、北極圏の温暖化は地球全体の平均の3倍の速さで進行しているといいます。
1971~2019年に地球全体の年平均気温の上昇は1℃でしたが、北極圏では3.1℃に達しました。
地球温暖化に伴い、直近5年(2017~2021年)平均の北極海の海氷域面積は、1979〜1983年の5年間の平均と比べて約280万km2も減少したといいます。これは日本の国土面積(約38万km2)の7倍以上です。
減少傾向にある北極域の海氷域面積は、2012年9月には過去最小の約318万km2を記録。記録的な高温となった2020年9月も、観測史上2番目に小さい約355万km2を記録しています。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発表した第5次評価報告書のシナリオのうち、最も気温上昇が高いRCP8.5シナリオ(※1)では、2050年頃の夏季(9月)には「北極海の海氷がなくなる」という予測が立てられているのです。
※1:RCPシナリオとは、IPCC第5次評価報告書の気候モデル予測で用いられる温室効果ガスの代表的な濃度の仮定(シナリオ)を指す。RCP8.5シナリオとは、報告書内で示された4つのシナリオ(RCP2.6、4.5、6.0、8.5)のうち、最も気温が高くなるシナリオ。https://www.jccca.org/ipcc/ar5/rcp.html(外部サイト)
北極海航路のメリット・デメリット
北極海には、北東側のユーラシア大陸と北西側のアメリカ・アラスカ州やカナダ、北欧諸国にかけての沿岸部で、9月前後に結氷しない海域があります。この海域を通って、大西洋側と太平洋側を結ぶ航路を「北極海航路」と呼びます。
この北極海航路を利用することで、船舶の運航距離の短縮によりCO2排出量が削減できるというメリットがあります。
たとえば、日本の横浜港からドイツのハンブルク港までの運航距離は、「南回り航路」と呼ばれるスエズ運河経由の場合、約2.1万kmです。ところが、北極海航路を経由すると約1.3万kmと、約6割まで短縮されます。
日本郵船の2020年度の財務データでは、運航費1722億円のうち半分以上の908億円が燃料費に使われるなど、船舶の運航には大量の燃料が消費されます。運行距離を短縮することで、この燃料消費によるCO2排出量を削減できるのです。
ただし、北極海航路の拡大は、北極圏に生息する絶滅危惧種のホッキョクグマやトナカイ、アザラシなど多くの希少な海獣類がつくる生態系の破壊と、それにつながる先住民の生活を脅かす可能性を抱えています。
万が一、北極海航路の船舶による燃料や積み荷などの流出事故が発生すれば、北極海と沿岸の生態系の大規模破壊を招いてしまう恐れもあります。
北極海航路の活用はCO2削減につながる緩和策ではありますが、デメリットも多く、持続可能な北極海利用の実現には、安全面や制度面などを慎重に対応する必要があるのです。
海氷の消失で地球全体の温暖化が加速する
近年、北極海航路の拡大が進んでおり、これは地球温暖化が確実に進んでいる証です。
北極圏の温暖化によって、海面上昇や北極海の海底に眠るメタンガスの流出などが危惧されています。
また、雪は太陽光を10〜20%しか吸収しないのに対し、水は90%も吸収します。つまり、北極海の海氷が減ると、太陽熱の反射が弱まるので、北極の温暖化はもちろん、地球全体の温暖化をさらに加速化させてしまうのです。
北極の氷が完全に消失すれば、地球全体の温暖化は2倍のスピードで悪化するという報告もなされています。
持続可能な未来のためにも、北極海の海氷を守らなければなりません。CO2削減のために、私たち一人ひとりが日々できることを実践すれば、未来を守ることに繋がるのです。
私たちにできる行動「COOL CHOICE」
日本では2050年までにCO2などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指します。
そのために、私たちにできる行動として、環境省では「COOL CHOICE」を推進しています。
「COOL CHOICE」は、CO2などの温室効果ガスの排出量を削減する「製品への買換え」、「サービスの利用」、「ライフスタイルの選択」などのあらゆる「賢い選択」によって、持続可能で豊かな暮らし、脱炭素社会を実現していこうという取組です。
また、衣食住・移動・買物など日常生活における脱炭素行動と暮らしのメリットを「ゼロカーボンアクション30」として紹介しています。
私たち一人ひとりが、実践できることから取り組んでいきましょう。
参考資料など
- 「北極海航路の利用動向について」(国土交通省総合政策局海洋政策課、2021年)/「北極評議会(Arctic Council、AC)北極圏監視評価プログラム作業部会(Arctic Monitoring and Assessment Programme、AMAP)報告書」(2021年)/「海氷域面積の長期変化傾向(北極域)」(気象庁、2021年)/「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)」(2021年)/「北極の急激な温暖化と海氷減少 ―持続可能な航路利用を目指して―」(東京大学大学院教授・山口一、一般社団法人平和政策研究所、2021年)/「平成25年度 北極海航路の持続的な利用に向けた環境保全に関する調査研究報告書」(海洋政策研究財団、2018年)/「北極海の航路利用、その実現の先頭に立つ為に」(東京大学大学院新領域創成科学研究科・早稲田卓爾教授、和田良太准教授、小平翼助教、文部科学省北極研究プロジェクト、2021年)/「北極海航路ハンドブック」(公益社団法人日本海難防止協会、2015年)/「北極海航路」(国土交通省港湾局産業港湾課国際調整官・加賀谷俊和、2012年)/「北極航路、現状および実現のためにもとめられること」(北海道大学北極域研究センター教授・大塚夏彦、2021年)/「IPCC『海洋・雪氷圏特別報告書』の概要」(環境省、2020年)/「北極海航路実現に向けた総合的研究と課題」(山口一・大塚夏彦、2017年)、日本郵船「FACT BOOK 2(2021)」、情報・システム研究機構 国立極地研究所「北極域研究加速プロジェクト-新たな北極域研究を目指して-」/公益財団法人日本国際問題研究所「北極のガバナンスと日本の外交戦略」(西村六善、第5章「北極の環境問題」、2013年)/大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構「北極を知って地球を知る。」
制作協力 ウェザーニューズ
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