COOL CHOICE

地球温暖化で富士山の姿が変わる?
懸念される影響とは

富士山は、日本のシンボルであり、冬場には裾野を広げた山容の上部一帯が雪に覆われた“銀嶺”の姿が、山麓はもとより、遠く東京都内などからも望むことができます。

ところが近年、既に地質や植生(生息している植物の集団)などに変化が現れており、「美しい富士山の姿が変わってしまうのではないか」との懸念がもたれています。

さまざまなデータや研究の成果などから、地球温暖化が富士山にどのような影響を与えているのか見てみましょう。

山頂部の永久凍土が融解

標高3,776mの富士山の山頂周辺には「永久凍土」が存在しています。

永久凍土とは、地下の温度が二年以上連続して0°C以下になる土壌や岩石のことをいいます。永久凍土が融解すると、山の侵食が進み、土石流の発生増加や大規模化などの懸念があります。

日本では富士山以外にも、北アルプスの立山(3,015m)や北海道の大雪山(2,291m)などで永久凍土が確認されています。

1935年に富士山頂に中央気象台の測候所(現・気象庁富士山特別地域気象観測所)が開設された際に「真夏でも富士山頂の土は凍っている」と報告され、1975~76年に行われた詳しい調査で、永久凍土は山頂から標高3,100m付近まで広がっていることが確認されました。

ところが、1998年8月に静岡大学と国立極地研究所が行った調査では、永久凍土が3,200m以上の地点でないと存在しなくなっていました。

さらに、2007〜2010年の調査では、連続していた永久凍土の広がりが消えて、部分的に確認できたうちの最も低い地点でも標高3,500〜3,600mとなっていたのです。

調査にあたった静岡大学理学部の増沢武弘客員教授と国立極地研究所の藤井理行所長(当時)は、1999年の段階で、山頂の気象データから、永久凍土の下限が上昇したのは、「最近の地球温暖化に関係しているのではないか」と推定していました(「富士山の永久凍土」増沢武弘、2008年、富士山測候所夏季研究・観測発表会より)。

増沢教授は、2008年にも改めて、「富士山頂の平均気温も上昇しつつあるため、地球温暖化の影響が富士山頂の自然にも出始めることが懸念される」と指摘しています(「富士山の永久凍土」増沢武弘、2008年、富士山測候所夏季研究・観測発表会より)。

富士山の年平均気温は100年で1.2℃上昇

それでは、富士山の気象には具体的にどのような変化が現れているのでしょうか。

富士山の年間平均気温の平年値(1991〜2020年の平均)は-5.9℃。この数字は平地だとロシア・シベリアの北極圏付近の地域に相当します。

富士山頂の最低気温の記録は1981年2月27日の-38.0℃、最高気温は1942年8月13日の17.8℃で、富士山頂ではまだ、気温20度を超えた日がありません。

ただし、年ごとの平均気温を詳しく見てみると、1930年代から40年代にかけては-7℃台も多く観測され、1948年を除けば1959年(-5.8℃)まで、-5℃台を観測することはありませんでした。

ところが1995年以降、2014年の-7.2℃を除いて-7℃台を観測した年はなくなり、2016年の-4.9℃を最高にほぼ-5℃台で推移するようになりました。

統計開始の1933年以降、富士山では100年あたりの年平均気温が1.2℃上昇しており、日本の平均気温の上昇と同程度になっています。

森林限界の上昇にも影響が?

気温の上昇を受けて、富士山では森林限界にも異変が現れているようです。

森林限界とは、環境条件の変化のため森林の生育が不可能となる限界高度のことで、気候変動の影響が顕著に現れるエリアとされています。

富士山の南斜面の森林限界は2,500m付近にあるとされ、幅150~200mにわたって森林限界移行帯(※)が認められています。1707年に起きた宝永噴火の影響で、南斜面の植生は回復途上にあり、将来的には西側斜面と同じ2,800mまでは上昇するものと予想されていますが、地球温暖化が森林限界の上昇過程に影響を及ぼすことが懸念されています。

(※)森林の生育が不可能となる境界が明確な線ではなく幅広い帯のようにわたっている領域

新潟⼤学佐渡自然共生科学センターの崎尾均教授らの研究グループは、富士山の森林限界について、1978年から2018年の40年間にわたって調査してきました。富士山には樹木の生えない「裸地」が山頂から下部に向かって広がっていて、森林限界のラインはカラマツによって作られています。

調査期間中にカラマツの生息域が次第に上部に向かって上昇していき、裸地がどんどん狭まっていきました。カラマツの森林限界は、2018年には、1978年と比べて30m上昇しています。特に、1978~99年の増加に比べて、1999~2018年のカラマツの個体数増加は大きかったといいます。

森林限界ラインのカラマツは当初低いテーブル状でしたが、近年は直立するようになりました。地球温暖化によって「冬」の期間が短くなり、カラマツの生育期間が長期化したことに加えて、周辺の二酸化炭素濃度が上昇して年間の光合成量も増加したことから、夏の間に丈夫な枝や幹が形成され、冬の強風や低温に耐えて直立、成長を続けています。

このまま地球温暖化が続けば、カラマツの森林限界は加速度的に上昇するかもしれません。また、さらに長期的にみると、亜高山帯に分布する常緑針葉樹が上昇してきて、一時的に増えていた落葉針葉樹のカラマツの本数が激減する可能性もあるといいます。

古くから優美な姿が日本の象徴として親しまれ、2013年には世界文化遺産にも登録された富士山は、いまも美しい姿を保ち続けています。しかし、その陰で地球温暖化を原因とする変化が現れています。

富士山の自然環境を守るためにも、私たちが身近にできる地球温暖化対策に日頃から努めることが大切です。

私たちにできる行動「COOL CHOICE」

地球温暖化を進行させないために、日本では2050年までにCO2などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指します。

そのために、私たちにできる行動として、環境省では「COOL CHOICE」を推進しています。

「COOL CHOICE」は、CO2などの温室効果ガスの排出量を削減する「製品への買換え」、「サービスの利用」、「ライフスタイルの選択」などのあらゆる「賢い選択」によって、持続可能で豊かな暮らし、脱炭素社会を実現していこうという取組です。

また、衣食住・移動・買物など日常生活における脱炭素行動と暮らしのメリットを「ゼロカーボンアクション30」として紹介しています。

私たち一人ひとりが実践できることから取り組んでいきましょう。

参考資料など

  • 国立極地研究所「極地研NEWS no.187」(2008年)/静岡地方気象台HP「静岡県の気候特性 静岡県内のこれまでの気候変化 富士山の気温」(2018年)/気象庁HP「富士山 年ごとの値 詳細(気温・蒸気圧・湿度)」「富士山 日平均気温の月平均値」(2022年)/新潟大学「富⼠⼭の森林は登り続ける!− 温暖化が原因か?−」(新潟⼤学佐渡⾃然共⽣科学センターの崎尾均教授と静岡⼤学防災総合センターの増澤武弘客員教授による共同研究、2020年)/「富士山南斜面における森林限界の上昇メカニズム」(丸田恵美子・増山賢俊、2009年)/静岡自然環境研究会・静岡大学理学部生物学教室HP「世界の高山・極地の植生データベース 富士山の恵み~文化遺産としての富士山~」(2021年)/「縮小する富士山の永久凍土-1970 年代以降の変化-」(藤井理行・増沢武弘・冨田美紀・福井幸太郎、雪氷研究学会、2013年)/「富士山の永久凍土」(増沢武弘、2010年)/「富士山測候所を活用した永久凍土と植物の分布調査 2009」(増沢武弘・冨田美紀・中野隆志・藤井理行)/「富士山の永久凍土が消える!─土石流発生への影響─」(池谷浩、2008年)

制作協力 ウェザーニューズ

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