地球温暖化で桜の開花に異変!?
日本列島でいっせい開花も?
私たちにとって“春の楽しみ”の1つである桜の開花。
4月の入学式の頃に満開だったはずの桜(ソメイヨシノ)が、近年、3月の卒業式にはもう満開になっていた、と実感している人も多いはず。
今後、開花時期が早まるだけでなく、全国いっせいに開花したり、状況によっては、桜そのものが咲かなくなる地域まで生じる可能性さえ考えられるという研究結果も示されているのです。
地球温暖化は、桜の開花にどんな異変を与えているのでしょうか。
気温と桜の開花の関係
桜の花芽(成長すると花になる芽)は前年の夏に作られ、晩秋から初冬にかけて寒い冬を越すために休眠に入ります。その後、真冬に一定期間、厳しい寒さにさらされると低温刺激によって休眠から目覚め(休眠打破)、開花に向けて成長が再開します。
再開した成長から開花の過程でも、気温の影響を大きく受けます。春にかけて気温が上昇するに従って花芽が成長し、日最高気温の積算が一定の値に達すると開花します。つまり、休眠から目覚めた花芽が成長を再開してからは、暖かくなるほど開花が早まるのです。
2100年の桜の開花状況は?
九州大学名誉教授で、元福岡市科学館館長の伊藤久徳氏は、2100年までの桜の開花の様子をコンピュータ上でシミュレーションしています。
日本周辺の気温を平均で2~3℃程度高くなるよう設定したシナリオでのシミュレーション結果によると、2082〜2100年の19年平均の「開花予想日」は、1982〜2000年の19年平均と比べて、東北地方では2〜3週間早まる一方、九州の一部地域など温暖な場所は逆に1〜2週間遅くなることが分かりました。
つまり、2100年には、3月末から4月上旬にかけて、九州から東北南部でいっせいに桜が開花することになるのです。
また、桜の開花日が変動するだけでなく、開花しない、開花しても“だらだら”と咲いて満開にならない地域もあり、例えば、種子島や鹿児島の西部ではまったく開花せず、九州南部、四国南西部、長崎や静岡の一部は開花しても満開にならないというシミュレーション結果も出ています。
伊藤教授は、「桜の開花が『過去この頃だったから、今年の予想もこの頃になる』などという経験則は、地球温暖化が進めばまったく通用しなくなる」と、地球温暖化の進行に警鐘を鳴らします。
この30年で開花日が一気に早まった
シミュレーション結果の開花が早まるという点について、実際に近年の桜の開花状況の変化を見てみましょう。
気象庁が公表している「さくらの開花日の変化」では、1956~1985年の平均値と1991~2020年の平年値で4月1日までに開花する地域を比較しています。
1956~1985年の平均値では三浦半島から紀伊半島にかけての本州の太平洋沿岸と四国、中国地方でしたが、1991~2020年の平年値では関東地方北部から北陸西部まで北上するようになっており、開花時期が早まっていることが一目瞭然です。
近年は特にこの傾向が顕著で、2021年の東京は、2020年に続き2年連続で過去最速である3月14日に開花宣言が出されました。また、2021年は開花を観測している全国48地点のうち、その半数以上にあたる28地点で、開花日が観測史上最早(タイ記録を含む)となったのです。
実際に東京の開花記録を見てみると、1960年代の10年平均では、3月30日頃の開花だったのに対して、1990年代から顕著に早くなり始め、2000年代に入ってからは3月22日頃が平均となっています。また、東京都心における3月の最高気温の平均気温を見ると、開花日が顕著に早くなり始めた1990年代から上昇傾向となっています。
開花日と気温データの結果を見ても、既に地球温暖化の影響が出ていることが分かります。
日本列島でいっせいに開花する日も近い?
もう一つ、伊藤教授のシミュレーション結果で注目したいのが、九州など、すでに温暖な地域では地球温暖化が進行すると、開花時期が遅くなるという点です。
桜の花芽の成長には3〜10℃前後の低温による「休眠打破」が必要ですが、地球温暖化が進行すると、暖地では「休眠打破」が充分に行われず、かえって成長が遅れるのです。
福島県と鹿児島県の30年平年値の開花日の変化を分析すると、鹿児島県では1971~2000年と1991〜2020年の開花日はどちらも3月26日で変化はありませんでしたが、福島県では20年前の開花日である4月11日(1971~2000年の平年値)から4月7日(1991〜2020年の平年値)へと4日も早まっています。
2021年までの50年間の開花日の変化をみても、福島県では徐々に早まっているのに比べて、鹿児島県ではあまり変化はありません。
そして、ついに2020年には、観測史上初めて福島県のソメイヨシノが鹿児島県のものよりも早く咲くという逆転現象が発生するなど、両県の桜の開花日が徐々に近づいてきているのです。
伊藤教授の2100年のシナリオ結果と同様の傾向が、現在においても出始めているのです。
こうした近年の傾向について伊藤教授は次のように話します。
「私たちの2100年のシミュレーション結果(3月末から4月上旬にかけて、九州から東北南部でいっせいに桜が開花する)と同様の傾向がこんなにも早く現れるとは思ってもいませんでした。それほど急速に地球温暖化が進んでいるということです。
2021年に発表されたIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書では『人間の影響が大気,海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない』とし、さらに地球温暖化が世界各地に異常気象をもたらしているとしています。
『観測史上最も早い』桜の開花がひとつの例であり、それ以外にもこれまでにはない暑さや豪雨が起きて、すでに大きな被害をもたらしています。
今後はこれまでに経験してきた以上の大災害が頻繁に起こる可能性があります。そのような事態を防ぐためには、早急に脱炭素化を進めていく必要があります。残された時間は余りありません」
地球温暖化の影響は、日本の春の象徴である桜の開花の変化など、目に見えるところにも出てきています。地球温暖化を防ぐため、日常生活の中から“私たちにできること”を考えて、実践していきましょう。
私たちにできる行動「COOL CHOICE」
地球温暖化を進行させないために、日本では2050年までにCO2などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指します。
そのために、私たちにできる行動として、環境省では「COOL CHOICE」を推進しています。
「COOL CHOICE」は、CO2などの温室効果ガスの排出量を削減する「製品への買換え」、「サービスの利用」、「ライフスタイルの選択」などのあらゆる「賢い選択」によって、持続可能で豊かな暮らし、脱炭素社会を実現していこうという取組です。
また、衣食住・移動・買物など日常生活における脱炭素行動と暮らしのメリットを「ゼロカーボンアクション30」として紹介しています。
私たち一人ひとりが実践できることから取り組んでいきましょう。
参考資料など
- 「わが国のサクラ(ソメイヨシノ)の開花に対する地球温暖化の影響」(丸岡知浩・伊藤久徳、2009年)
制作協力 ウェザーニューズ
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