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脱炭素社会の実現に向けた国際的な動向

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普及啓発

気候変動の原因となる温室効果ガスの排出削減に向け、世界全体での取組が求められています。
ここでは、脱炭素社会の実現に向けた国際的な動向を整理し、各国の主な目標と政策をご紹介します。

世界全体で取り組むべき気候変動問題

「気候危機」とも言われている気候変動問題は、私たち一人一人にとって避けることができない喫緊の課題です。既に世界的にも平均気温の上昇、雪氷の融解、海面水位の上昇が観測され、日本でも平均気温の上昇、大雨、台風等による被害、農作物や生態系への影響等が観測されています。

2022年の世界各地の異常気象
「WMO Provisional State of Global Climate in 2022」、気象庁ホームページに基づいて環境省作成

この地球規模の課題である気候変動問題の解決に向けて、その原因となる温室効果ガスの排出削減のための世界全体での取組が求められています。
2023年に開催されたCOP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)では、パリ協定下で初めてパリ協定の実施状況を進捗・評価するグローバル・ストックテイク*に関する決定が行われ、気候変動による地球全体の気温の上昇を1.5℃に抑えるためには、緊急な行動が必要であること、また世界全体の温室効果ガスの排出量を2030年までに43%、2035年までに60%削減する必要があることが強調されました。

* グローバル・ストックテイク : パリ協定の長期目標の達成に向けた世界全体の進捗を評価する仕組み

また、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は気候変動に関連する最新の科学的知見を取りまとめ、2021年から2023年にかけて、第6次評価報告書の第1作業部会・第2作業部会・第3作業部会の各報告書及び統合報告書を公表しました。

  • 地球温暖化を1.5℃に抑える、あるいは、2℃に抑えるためには大幅で急速かつ継続的な排出削減が必要
  • 人間活動が主に温室効果ガスの排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことは疑う余地がない
  • 継続的な温室効果ガスの排出は更なる地球温暖化をもたらし、短期のうちに1.5℃に達する

世界全体でのGHG排出量と目標

世界の温室効果ガスGHGの総排出量は、1990年から現在にかけて大きく増大しており、今後もその傾向が継続するおそれがあります。地球規模でのGHG排出削減には、主要排出国(中国、米国、インドなど)の取組が鍵を握ります。

各国のエネルギー起源CO2排出量の推移
IEA「Greenhouse Gas Emissions from Energy (2023)」、「World Energy Outlook (2023)」等に基づいて環境省作成

国連環境計画(UNEP)が毎年公表する報告書 Emissions Gap Report では、現在及び推定される将来のGHG排出量に関する最新の科学的研究の知見を評価し、パリ協定の目標を達成するために世界が最小コスト経路で推進するのに許容される排出量レベルと比較しています。

直近の Emissions Gap Report 2023 では、現行の政策や NDC のままでは2035年には排出(エミッション)ギャップが開き、埋められない差となることが予想されており、今後10年間で早急かつ前例のない緩和策が必要であると結論付けられています。

シナリオ毎の世界のGHG排出量と2030年のエミッションギャップ (中央値・10-90パーセンタイル値)
UNEP「Emission Gap Report 2023」に基づいて環境省作成

このような現状を踏まえ、気候変動問題の解決に向けて、世界各国が平均気温上昇を工業化以前に比べて1.5℃に抑えることや、今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成することなどを合意し、この実現に向けて、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」を掲げています。

各国の主な目標と政策

では、具体的に各国はどのような目標を掲げ、その実現のためにどのような取組をしているのでしょうか。
ここでは、GHG排出量の多い国等を取り上げ、中長期目標と主要政策を紹介します。

※各国政策は2024年1月時点の情報に基づき記載しています

各国の目標(環境省作成)

日本

日本は、2050年ネットゼロに向けて、1.5℃目標と整合的な形で、2030年度に2013年度比で46%減、さらに50%の高みに向け挑戦を続けることを宣言しています。
これまでにGHGを2013年度から約20%を削減し目標に向けて着実に削減を進めています。

「日本の温室効果ガスの排出・吸収量の推移と予測」のイメージ。2013年から2021年まで温室効果ガスを約20%を削減し、「2050年カーボンニュートラル」に向けて着実に歩みを進めている
「日本の温室効果ガスの排出・吸収量の推移と予測」のイメージの画像を拡大表示

ここからは諸外国の取組を紹介します。各国の2021年時点の進捗は、気温上昇を1.5℃に抑えるための経路より上ぶれの傾向にあり、更なる取組の強化が必要とされます。

G7 メンバー(日本、フランス、ドイツ、米国、英国、イタリア、カナダ)および EU のそれぞれの温室効果ガスの排出削減の進捗状況のイメージ。(2021年時点)日本以外の国・地域では"2050年の気温上昇を1.5℃に抑えるための経路"より上ぶれの傾向にある様子が見てとれる
G7 メンバーの排出削減の進捗状況

アメリカ

アメリカは、2050年ネットゼロに向けて、2030年に2005年比で50-52%(2013年比45-47%相当)減を目標に掲げています。その実現に向けた主要な政策として、米国インフレ抑制法が挙げられます。

米国インフレ抑制法(Inflation Reduction Act, IRA)

2022年8月16日、バイデン大統領は、気候変動対策やクリーンエネルギーの推進及び医療コストの負担軽減等を行いつつ、インフレ抑制や財政赤字縮小を目指すインフレ抑制法に署名し、同法が成立しました。今後10年間における歳入総額は7,370億米国ドル、歳出総額は4,370億米国ドルであり、歳出のうち気候・エネルギー関連に3,690億米国ドルという巨額の資金を割り当てています。
本法成立後に蓄電池工場の設立の発表が相次ぐなど、アメリカの再エネ導入を後押ししています。

インフレ抑制法における気候・エネルギー関連の主な歳出
インフレ抑制法2022、上院民主党(2022)「Summary of the Energy Security and Climate Change Investments in the Inflation Reduction Act of 2022」に基づいて環境省作成

イギリス

イギリスは、2050年ネットゼロに向けて、2030年に少なくとも1990年比で68%(2013年比55%相当)減、さらに2035年までに78%(2013年比69%相当)減を目標に掲げており、その実現に向けてネットゼロ戦略に基づく取組を進めています。

Ten Point Plan

2020年11月に公表された Ten Point Plan は、グリーン産業革命の礎となる10項目に及ぶ温室効果ガス削減計画です。政府による120億英ポンドの投資と民間からの400億英ポンドの投資を見込んでおり、2020年度に9万人の雇用支援から始め、2030年までに25万人のグリーン雇用創出を目指しています。

ネットゼロ戦略

Ten Point Planを受け、2021年10月、Net Zero Strategy(ネットゼロ戦略)を策定し、2050年までにネットゼロ排出を達成するためのコミットメントを実現する施策を示しました。

エネルギー安全保障戦略、エネルギー安全保障法案

イギリス政府は、2022年4月6日に、新たな「エネルギー安全保障戦略(British energy security strategy)を公表しました。同戦略は、これまでに公表してきた Ten Point Plan、ネットゼロ戦略に基づいており、洋上風力発電を含む英国における新産業に対して2030年までに民間投資1,000億英ポンドを促進し、10年後までにクリーンな雇用48万人を支援するものとしています。エネルギー安全保障の基本であるネットゼロへの進展を加速させ、2030年までに英国電力の95%を低炭素化し、2035年までに電力システムの脱炭素化を実現することを目指しています。

さらに、2022年7月6日に、同戦略に基づく「エネルギー安全保障法案」を議会に提出しました。2023年1月時点で本法案は議会で審議中です。輸入化石燃料への依存を減らし、洋上風力を含む多様なエネルギー源から多くの国産エネルギーを調達することを目指しています。

EU(フランス、イタリア)

EU(フランス・イタリア)は、2050年ネットゼロに向けて、2030年に1990年比で55%(2013年比44%相当)減を目標に掲げ、その実現に向けた政策として、以下などに取り組んでいます。

戦略的長期ビジョン "A Clean Planet for All"

欧州委員会は2018年11月28日付で、2050年までに気候中立を目指す、戦略的長期ビジョン "A Clean Planet for All" を公表しました。これは、以降公表された欧州グリーンディールの中核をなすビジョンであり、パリ協定を踏まえたEUの気候行動へのコミットメントに沿ったものです。

欧州グリーンディール

"A Clean Planet for All" を実現するための政策文書である「欧州グリーンディール」が、2019年12月に欧州議会で提案され、2020年1月に決議されました。その後、政策推進に向け、2020年1月14日に「欧州グリーンディール」の資金提供メカニズムとなる「欧州グリーンディール投資計画」および「公正な移行メカニズム」が公表されました。

欧州委員会は2021年6月までの法案策定に向け、全ての法令の見直し・改正手続きに着手。2021年7月に関連法の改正法案のパッケージである Fit for 55 が、2021年12月に Fit for 55 を補完する改正法案のパッケージが公表されました。さらに、2022年5月に、Fit for 55 を前提とした追加政策 REPowerEU が公表されました。

EUによる炭素国境調整措置CBAM:Carbon Boarder Adjustment Mechanism)も欧州グリーンディールが打ち出す政策の一つです。

ドイツ

ドイツは、2045年ネットゼロに向けて、2030年に2005年比で65%(2013年比54%相当)減、さらに2040年までに88%(2013年比84%相当)減を目標に掲げています。
その実現に向けた政策として、以下などに取り組んでいます。

イースターパッケージ

2022年4月6日に、ドイツ連邦政府は、エネルギー政策に関する複数の法令の改正法案をまとめた「イースターパッケージ」を閣議決定しました。イースターパッケージには、再生可能エネルギー法、洋上風力エネルギー法、エネルギー事業法などの改正法案が含まれており、再生可能エネルギーのさらなる普及拡大が国家安全保障にも関わる問題として、最優先の公益と位置付けられています。ドイツ連邦議会と連邦参議院は、自然エネルギー拡大とエネルギー危機対策として、法律一式を2022年7 月7日と7月8日に採決しました。主な内容は下表のとおりです。

イースターパッケージに含まれる新設・改正法と主な措置の内容
ドイツ連邦経済・気候保護省(BMWK), "Überblickspapier: Beschleunigung des Ausbaus erneuerbarer Energien und Erweiterung der Vorsorgemaßnahmen" に基づいて環境省作成

カナダ

カナダは、2050年ネットゼロに向けて、2030年に2005年比で40-45%(2013年比39-44%相当)減を目標に掲げ、その実現に向けた政策として、以下などに取り組んでいます。

汎カナダ・フレームワーク

パリ協定の達成に向け、2016年に連邦政府と一部を除く州・準州の政府が「クリーンな成長と気候変動に関する汎カナダ・フレームワーク」を策定しました。

連邦カーボンプライシング制度

2018年の連邦法に基づき、連邦基準に準じるカーボンプライシング制度が整っていない州・準州に適用する連邦カーボンプライシング制度を実施、2030年には1トン当たり炭素価格を170カナダドルまで引き上げることとしました。

健全な環境と健全な経済

2020年12月、連邦政府が排出削減の加速に向けた政策を含む「健全な環境と健全な経済」と題した気候計画を公表しました。

2030年排出削減計画

2022年3月、ネットゼロ達成を定めた法律に従い「2030年排出削減計画」を策定し、2030年までに連邦政府が実施する施策として以下を提示しました。

  • 住居や建造物におけるエネルギーコスト削減の支援
  • コミュニティによる気候変動対策実施の促進
  • 電気自動車への買い替えの促進
  • 石油・天然ガス部門からの炭素汚染の減少
  • 再生可能エネルギーによる発電の拡充
  • 産業界がネットゼロを実現する過程におけるクリーン技術の開発や応用の支援
  • 自然や自然を活用した気候変動対策への投資
  • 農業従事者の支援
  • 炭素汚染に対する価格付けのアプローチの継続

中国

中国は、2060年ネットゼロに向けて、2030年までにCO2排出量を削減に転じさせることを目標に掲げ、「2030年までのカーボンピークアウトに向けた行動方案」を発表し分野別に具体的な目標・取組を掲げています。

2030年までのカーボンピークアウトに向けた行動法案

中国国務院は2021年10月、「2030年までのカーボンピークアウトに向けた行動方案」を発表しました。その中で、重点取組として、カーボンピークアウトに向け、経済社会発展に係る全てのプロセスや分野を横断的に10項目の具体的な取組内容や数値目標を設定しています。

中国のカーボンピークアウトのための10大行動

インド

インドは、2070年ネットゼロに向けて、2030年までに2005年比でGDP当たりCO2排出量45%減、また、発電設備容量の50%を非化石燃料電源にすることを目標に掲げ、その実現に向けた政策として、国家気候変動行動計画に基づき8分野の国家ミッションに取り組んでいます。

国家気候変動行動計画

2008年の国家気候変動行動計画に基づき8分野の国家ミッションを遂行しています。産業等セクター別の削減目標値は提示せず、気候変動対策に寄与する政府の取組方針を「国家ミッション」として8つの分野で設定し、複数のミッションで気候変動への適応対策に取り組んでいます。 また、その一環として、エネルギー集約型産業を対象とした省エネ証書取引制度(PAT)を運用し、ています。

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