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脱炭素社会の実現に向けた温室効果ガス排出量の算定(見える化)(2/2)

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取組みマニュアル、ツール

脱炭素社会を実現するためには、個々の企業の取組だけではなく、サプライチェーン全体で温室効果ガスの排出削減を進めていく必要があります。ここでは、排出削減に向けた取組の足掛かりとなるサプライチェーン排出量及びカーボンフットプリント(CFP)の算定の概要をご紹介します。

製品単位の排出量(カーボンフットプリント)算定

カーボンフットプリントってなに?

カーボンフットプリント(CFP:Carbon Footprint of Product)とは、製品やサービスの原材料調達から廃棄、リサイクルに⾄るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガス排出量を CO2 排出量に換算し、製品に表⽰された数値もしくはそれを表⽰する仕組みを指します。

ネットゼロ社会を実現するためには、個々の企業の取組だけではなく、サプライチェーン全体での温室効果ガス排出量の削減を進めていくことが必要です。そのためには、脱炭素・低炭素製品(グリーン製品)が選択されるような市場を創り出していくことが重要です。そのような市場を実現するための基盤として製品・サービス単位の温室効果ガス排出量であるCFPの算定・表示が進められています。

カーボンフットプリントを算定すると、どんなことに活用できるの?

近年の気候変動問題への関⼼の⾼まりを踏まえ、企業を取り巻く多様なステークホルダーが、様々な⽬的から CFPの算定・表示を企業に要請し始めており、CFPは企業の競争⼒を左右するものになりつつあります。

多様なステークホルダーからの CFP 要求
出所:サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルに向けたカーボンフットプリント算定・検証等に関する検討会 「カーボンフットプリント レポート」
① CFPを活⽤した公共調達
日本の公共機関では、公的機関が率先して環境負荷の低い製品・サービスを調達することを推進するグリーン購入法に基づき、CFP情報が開示された製品の購入が推奨されています。
また、欧⽶でも、公共調達において、CFPに取り組む企業に対して具体的なメリットがあるように基準が作られています。例えば、調達基準においてLCAの実施や環境製品宣⾔(EPD:Environmental Product Declarations)認証等を義務化する例や、LCAの実施やEPD認証によって加点されるシステムを調達基準に活⽤する例があります。
② CFPを活⽤した規制
欧州委員会では、排出量が多い業界における排出量削減を促進するため、また、温室効果ガス削減規制の緩いEU域外への製造拠点の移転や域外からの輸⼊増加などが懸念されることなどから、温室効果ガス削減⽬標達成のための取組の⼀環として、炭素国境調整措置(CBAM)やデジタルプロダクトパスポートなどのCFPに関する規制の制定を進めています。
③ ⾦融市場における企業のサプライチェーン排出量の把握・開⽰要求
今後、気候変動リスクの開⽰により企業の優劣が鮮明になれば、投資家による選別が進みやすくなり、ESGマネーの争奪よる企業の競い合いで、温室効果ガス削減も加速すると予想されます。これを受けて⾦融市場では排出量関連の開⽰を義務付ける、⼜は推奨する動きが広まっており、Scope1、2に加えて、製品単位排出量の情報も必要となるScope3の開⽰も求める動きが広まっています。
④ 顧客のグリーン調達
先進的な企業では、調達先の選定⽅針にCFPやEPD認証を活⽤しており、サプライヤー側がCFP算定・削減開⽰に取り組む動機付けになっています。
⑤ 顧客のサプライヤエンゲージメント(CFP開⽰/排出削減要請)
近年ではScope3を含むサプライチェーン全体の排出量算定・削減が求められ、サプライチェーン全体での協働が重視されています。Scope3の排出把握においては、サプライヤーから調達している製品・サービスのCFPが重要になるため、サプライヤーにCFPを依頼し、削減を働きかける例が増えています。その他、先進企業においては、サプライヤーに対してCFPの開⽰や排出削減を要請するといった動きに加え、CFP削減に向けた⽀援をする等の動きも⼀部でみられます。
⑥ 消費者へ向けた脱炭素に関する企業ブランディング、製品マーケティング
欧⽶を中⼼に、国や企業のコンソーシアム、個々の企業といったそれぞれの階層で、各製品・サービスのCFPを消費者に訴求するための取組が活発になっています。コンソーシアムは業種ごとの取組もある⼀⽅で、業種関係なく、⼩売りや様々な分野の消費財メーカーが協⼒して、環境負荷の算出やその表⽰のルールをつくる取組を進めている事例もあります。

どうやってカーボンフットプリントを算定するの?

CFPの算定は次のステップに大きく分けることができます。

STEP 0:CFP算定の原則の理解
CFPの算定をはじめる前に、CFPの概要や、基本的な考え方を理解します。
STEP 1:算定⽅針の検討
算定の Why(目的)/What(対象製品・ライフサイクルステージ)/How(参照規格・基本方針)の大枠を決めます。算定の目的によりCFPで満たす要件が異なるため、まずは、Why(目的)を明確化します。その目的に基づき、どの程度の客観性や正確性を狙ったCFP算定とするか判断し、What(対象製品・ライフサイクルステージ)/How(方法)を検討します。
STEP 2:算定範囲の設定
まずは、算定対象範囲を明確にします(バウンダリーの設定)。算定対象とする各プロセスを「ライフサイクルフロー図」に落とし込むことで算定の対象範囲を明確化するとともに、GHG排出源を網羅的に洗い出すことができます。なお、算定対象全てを算定するのが理想ですが、CFPへの影響が小さく、算定が難しいプロセスは算定対象外とすることができます(カットオフ基準の検討)。
「ライフサイクルフロー図」の例のイメージ。算定対象としたライフサイクルステージの各プロセス(原材料や廃棄物などの「モノ」や生産・組立などの「工程」)を 1 つの図に落とし込んだものが「ライフサイクルフロー図」です。
出所:経済産業省・環境省「カーボンフットプリント ガイドライン (別冊)CFP 実践ガイド」
STEP 3:CFPの算定
CFP算定方法には、GHG排出量を直接計測する方法と、排出を伴う活動の「活動量(マテリアルやエネルギーの投入量)」×「排出係数(単位活動量あたりのGHG排出量)」から計算する2パターンがあります。具体的な算定ルールを定めたら、算定手順書を作成します。算定手順書に基づき、算定用ツールを用いてCFP計算を行います。
原料調達における例として、製品ひとつあたりの素材Aの調達量を活動量とし、それに 素材Aの排出係数 を掛けるとGHG排出量が算出される
出所:経済産業省・環境省「カーボンフットプリント ガイドライン 第2部」
STEP 4:検証・報告
CFPの信頼性を担保するため、内部検証もしくは第三者検証を行い、算定が適切に実施されたか否かを検討します。CFP算定結果は、CFP算定報告書に記載し、公開します。公開にあたっては、データ、手法、仮定・解釈が読者にわかるよう透明性を担保し十分詳細に説明する必要があります。

カーボンフットプリント算定結果を効果的な表示・開示、排出量削減につなげるためには?

CFPの実施に当たっては、算定はもちろん、その結果を社外に表示・開示し、取組をアピールしたり、削減施策につなげたりすることも重要です。

グリーン調達が盛んになりつつあるいま、算定結果を製品に表示してブランディング・マーケティングに活用することは売上増加の機会にもなり得ます。また、CFP算定結果により、大きな排出源が定量化されることで、効率的なサプライチェーン排出量削減対策の検討が可能になり、包括的な排出量削減施策検討・推進を行うことができます。

経済産業省、環境省では、CFPへの取り組みを実施する事業者向けに、CFPの算定方法、表示・開示方法、排出削減の検討方法をまとめたカーボンフットプリントガイドラインと(別冊)CFP実践ガイドを公表しています。

カーボンフットプリント ガイドライン 第1部・第2部

ISO 14067:2018 及び GHG Protocol product standard に整合しつつ用途に応じた CFP の算定等に取り組むための要求事項と、考え方及び実施方法を解説しています。

カーボンフットプリント ガイドライン(別冊)CFP実践ガイド

CFPに取り組む事業者等が、上記の取組指針に準拠しつつ具体的な実務を行う方法を紹介するためのガイドを示しています。

その他各種ガイドはこちら:環境省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」 > 各種ガイド

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