再生可能エネルギーのススメ「自家消費型太陽光発電」③
薄く、軽く、曲げられる――。「ペロブスカイト太陽電池」は、再エネ普及の切り札となるか
政府が掲げる2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち、2050年ネット・ゼロの実現に向けては、再生可能エネルギーが不可欠です。「第7次エネルギー基本計画」においても、「エネルギー安定供給と脱炭素を両立する観点から、再生可能エネルギーを主力電源として最大限導入する」とされており、太陽光発電を柱の一つにしています。一方で、急速な導入拡大により、環境への影響などに対する地域の懸念が高まっており、設置に際しては「地域との共生」が大前提となります。このような中、建築物の屋根や壁面を有効活用していくことが重要であり、従来のシリコン系よりもはるかに薄くて軽く、耐荷重に制約のある屋根をはじめ設置場所の選択肢が広がる「ペロブスカイト太陽電池」が注目されています。
ペロブスカイト太陽電池は我が国発の技術であり、その主な原材料となるヨウ素は日本が世界2位の産出国であり、原材料も含めた強靭な国内サプライチェーンを築くことができるものとして、エネルギー基本計画においても早期の社会実装を進めていくこととされています。一方で、コストを低減し、普及を図るためには、量産技術の確立、生産体制の整備、需要の創出の三位一体で取り組みを進める必要があり、環境省では、設置費用の補助や公的施設への率先導入などを通じて需要を創出する施策に注力しています。今回は、ペロブスカイト太陽電池をめぐる現状と、普及に向けた具体的な動きを紹介します。
環境省の森下千里政務官(手前右)。奥は実際に設置された電池
薄く、軽く、曲げられる次世代型太陽電池
さいたま市立上小(かみこ)小学校で2026年8月25日、環境省の社会実装事業を活用して設置されたペロブスカイト太陽電池の「お披露目式」が開かれ、さいたま市の清水勇人市長や環境省の森下千里政務官ら関係者が体育館の屋根を見渡せる教室に集まりました。校内に設置したモニターに表示される発電量を児童たちが確認できるなど、教育を通じて市民の環境意識を高められるようにした点が大きな特徴です。清水市長は「(2050年を目標とする)ゼロカーボンシティに向けて、市民、行政、事業者が一丸となることが重要です」と訴えました。森下政務官は「何より素晴らしいのは、毎日子どもたちが学ぶ場に設置されたということ。この取組は未来のエネルギーを作るだけではなく、未来を担う人材を育てる観点からも重要です」と期待を込めて話しました。
ペロブスカイトとは、酸化鉱物の結晶構造の名称で、厚く大きいパネルが並べられる従来のシリコン系に比べて薄く、軽量で柔軟という特徴があります。薄い素材に電池の材料を塗布・印刷することにより、軽くて曲げにも強い「フィルム型」、ガラスに電池を挟み込む「ガラス型」、既存のシリコン系に重ねて貼ることで発電効率を高める「タンデム型」があります。
(出典:経済産業省ウェブサイト「(参考)ペロブスカイト太陽電池の種類」を加工して作成)
2040年に20GWの導入を目指す
日本はこれまで、太陽光発電の導入を積極的に進めており、平地面積あたりの太陽光設備容量は主要国の中でトップクラスです。一方で、国土の約7割が山地であり、森林保全や開発への住民の理解が求められていることから、メガソーラーの設置場所は限られています。屋根に設置する場合も、従来型の発電装置の重量に耐えられない古い建物が国内では少なくありません。
ペロブスカイト太陽電池は、その軽量性・柔軟性から、耐荷重に制約のある屋根、窓ガラス、建造物の壁面など、多様な場所への設置が期待されています。特に「フィルム型」は、老朽化した公共施設はじめ、従来では難しかった建物への設置も可能です。
また、主要な原材料を国産で調達できることも大きな強みです。太陽電池はかつて、脱炭素の潮流と将来の需要増を見込んで日本メーカーも注力していましたが、原材料を含めたサプライチェーン構築等に課題があり、国際競争力が低下し、2000年以降にシェアを大きく落としました。この状況が続けば、日本が目指すネット・ゼロを海外に依存することになります。
その一方で、ペロブスカイト太陽電池の発電層の主な原料であるヨウ素には、日本が世界の産出シェアの3割を占め、チリに次ぐ世界第2位です。主要な生産地である千葉県では、ヨウ素を豊富に含む「太古の海水(かん水)」が沖合の地底に大量に埋蔵されています。この資源を活かしてペロブスカイト太陽電池の生産が本格化すれば、政府が掲げる再エネにおける「国内サプライチェーンの強靱化」や、世界的な需要拡大に向けた再エネ産業の競争力強化につながることが期待されます。
このため、政府の第7次エネルギー基本計画では、「軽量・柔軟等の特徴を兼ね備えるペロブスカイト太陽電池の早期実装を進めていく」としたうえで、2040年に約20GW(ギガワット)の導入目標を設定しました。
政府はGX2040ビジョンで「エネルギーの安定供給確保」「経済成長」「脱炭素」の同時実現を目指しており、ペロブスカイト太陽電池はすべてに資する電源の一つになりえます。
普及のカギを握る大量導入とコスト低減
しかし、現状のままでは、多くの課題があります。大量生産に適しているとされる「フィルム型」の場合、シリコン系に比べ、現状では費用が高いことに加え、稼働年数も10年程度と短く発電効率も低いため、コストに対する総発電量が小さくなります。エネルギー基本計画では、2030年までに発電量1kWh(キロ・ワット時)当たり14円、2040年までに10~14円以下発電コストの実現を目指し、技術開発が進められています。
また、中国をはじめとする海外メーカーもペロブスカイト太陽電池の開発を本格化しており、将来的にかつてのシリコン系同様に国際競争が激化することが予想されます。材料を国内で調達できるとはいえ、日本が市場をリードするうえで重要になるのは、需要拡大による大量生産によってコストを下げることです。それによりメーカーのペロブスカイト生産が活発になれば、研究開発への投資を促進し、技術革新による出力・耐用年数の増強を世界に引けを取らない規模とスピードをもって図ることができます。
ただ、現状ではこうした需要拡大を民間主導で進めるのには限界があります。政府は2025年2月、「政府が保有する建築物への(ペロブスカイト太陽電池の)導入を率先して進める」とする計画を閣議決定しました。また2026年6月には政府自身の取り組みとして、ペロブスカイト太陽電池を2035年には50~70MW、2040年には100MW以上を導入する目標を新たに設定しました。公共部門がまず率先して需要拡大に寄与し、やがて民間による自走につなげる狙いがあります。環境省が地方公共団体や民間事業者・団体の導入を支援する「ペロブスカイト太陽電池の社会実装モデルの創出に向けた導入支援事業」については、国内市場の確立に向けて、2025年度に約50億円、2026年度に70億円と支援を拡充しています。
学校体育館への実装
環境省の支援事業では、どのような導入例が生まれているのでしょうか。その一つが冒頭のさいたま市立上小小学校での設置です。さいたま市は、従来型の太陽電池では耐荷重不足のため設置できなかった体育館屋根に、出力5.28kWの国産フィルム型ペロブスカイト太陽電池を導入しました。発電した電力は平時の学校の照明などに使い、非常時には災害用電源として活用します。
さいたま市がペロブスカイト太陽電池に着目した背景には、野外に置くスペースがなく、屋根置きが中心となる一方で、屋根面積が限られる住宅が市内に多いという都市部ならではの事情があるほか、耐荷重の問題などから従来型の太陽電池を設置できない市内の公共施設が多くある現状があります。
さいたま市環境局環境共生部ゼロカーボン推進戦略課の林勇希さんと渡辺悠也さんは、「ペロブスカイト太陽電池の導入自体が目的なのではなく、従来型を置けない場所にも再エネを広げるための選択肢の一つです」と説明します。まず行政が公共施設で性能や耐久性を確かめ、成果も課題も示したうえで、市民や事業者への普及につなげる考えです。
上小小学校では、校内のモニターに発電量を表示して「見える化」し、環境教育にも活用します。児童が日々の発電量や電力使用量を見比べ、なぜ変化したのかを考えることで、脱炭素を身近な問題として捉えるきっかけにします。林さんは、技術が進んでも市民や事業者の行動が変わらなければ普及にはつながらないとして、行政が先に導入して具体的な効果を見せる意義を強調します。
さいたま市は、フィルム型だけでなく、既存のシリコン系太陽電池の上にペロブスカイト太陽電池を重ねて発電効率を高めるタンデム型も市役所の入り口で実証事業を行っており、建物の条件に応じた使い分けを検討しています。将来は市内の公共施設への展開や、2031年度に予定する新庁舎への大規模導入も視野に入れています。
さいたま市環境局環境共生部ゼロカーボン推進戦略課の林勇希さん(左)と渡辺悠也さん(右)
現段階では生産量が限られるため、早期に導入するためには、自治体側にも「なぜ、どこに、どのように導入し、将来どう展開するのか」という中長期計画が欠かせません。また、一般的な太陽電池に比べて現状では高価なため、住民らに導入意図を明確に説明する必要もあります。
林さんは「さいたま市は実証から実装、普及へとつなぐ中長期の道筋を具体的に作りました。今後、導入する自治体も導入への熱意や計画作りが非常に重要になると思います」と話します。
このほか、滋賀県では、草津市、守山市、近江八幡市の博物館や公立高校への設置を計画し、県内企業などを対象とする見学会を通じて普及を進めようとしています。福岡県でも、福岡市と北九州市の公立学校に導入し、生徒や来校者への脱炭素教育に役立てるとともに、災害時の避難所機能を支える電源として活用する計画です。各地で、公共施設を技術検証と普及啓発の場にする取り組みが始まっています。
おわりに
石原宏高環境大臣は2025年11月の記者会見で、「日本のペロブスカイト、こういうものを日本で生産して、供給していくという体制を、経産省を中心に、環境省もしっかりと支援してまいりたい」と述べました。日本発の再エネとなりうるペロブスカイト太陽電池が国内外で普及し、ひいてはGXの実現に貢献することが期待されます。
この記事に関してのお問い合わせ先
環境省 地球環境局地球温暖化対策課