2025年夏の記録的高温の要因とは?~気象庁異常気象分析検討会による分析結果の概要~
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、人間活動が主に温室効果ガスの排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことには疑う余地がないと言われています。では、その影響は、私たちの暮らしにどのように現れているのでしょうか?
実際、気候変動による極端な気象現象は、すでに世界中のあらゆる地域に広がっており、将来的にはそのリスクや損害がさらに増大すると予測されています。
気象庁は、社会経済に大きな影響を与える異常気象が発生した場合に、大学・研究機関の気候や気象の専門家で構成する異常気象分析検討会を開催し、異常気象の発生要因等に関して最新の科学的知見に基づき分析し、見解を公表しています。
2025年夏は記録的な高温や少雨となり、私たちの生活や社会経済活動に大きな影響を与え、社会的関心が非常に高かったことから、2025年9月5日に異常気象分析検討会を開催し、異常気象の要因について分析を行いました。とりまとめられた見解は、気象庁の報道発表として公表されるとともに、記者会見の席で検討会会長が内容をわかりやすく解説し、マスメディア等を通じて国民に伝えられました。
本記事では、その検討会における分析結果の概要をご紹介します。
2025年夏の天候の特徴
2025年夏の天候の特徴は、以下の通りでした。
- 北・東・西日本では、6月と7月、および夏として1946年の統計開始以降最も高い気温を記録しました。また、日本の夏平均気温偏差は+2.36℃と、昨年、一昨年の記録である+1.76℃を大幅に上回って、3年連続で1898年以降の統計開始以降最も高い値を記録しました。
- 群馬県伊勢崎で国内の歴代最高気温となる41.8℃を観測したほか、夏の猛暑日や日最高気温40℃以上の延べ地点数の記録も更新しました。
- 多くの地方で早かった梅雨入りに続いて、過去最も早い梅雨明けとなり、季節進行が早くなりました。このため、6月後半から各地で猛暑日が観測されるとともに、少雨が顕著となって、北陸地方では7月の降水量が1946年以降最も少ない記録となりました。
- 北陸地方と九州地方では、8月前半に記録的な大雨となったところがあり、鹿児島県と熊本県では大雨特別警報が発表されました。
出典: 令和7年夏の記録的な高温と7月の少雨の特徴とその要因及び8月前半の大雨をもたらした大規模な大気の流れの特徴について(気象庁)
要因分析
検討会で分析された結果は、以下の①から④の要因にまとめられ、見解として公表されています。ここではそれぞれの要因について、概要を紹介します。
要因分析結果①:大規模な大気の流れの特徴と天候への影響
上空の偏西風は、6月中旬から7月にかけて、平年よりかなり北側となるサハリン付近を流れ、8月も引き続き平年より北側を流れました。このことに伴って、偏西風のすぐ南側に形成される梅雨前線は6月末には日本付近で消滅し、東・西日本では記録的に早い梅雨明けとなりました。また、偏西風の南側では、上空のチベット高気圧が日本の方向に強く張り出し、日本付近は暖かい空気に覆われました。
一方、地表付近では、太平洋高気圧が本州付近に強く張り出して、北日本まで覆いました。太平洋高気圧の圏内では、下降気流が強く、気圧の低い上空の空気が気圧の高い地表に降りてくる際に圧縮されて温度が上昇することから、気温が高くなりました。また、下降気流が雲の発生を抑えたことから、晴れて強い日射が降り注ぎ、日中の最高気温が特に高くなりました。
出典: 令和7年夏の記録的な高温と7月の少雨の特徴とその要因及び8月前半の大雨をもたらした大規模な大気の流れの特徴について(気象庁)
要因分析結果②:熱帯の対流活動の特徴とその大気の流れへの影響
夏のアジアモンスーン(南アジアからフィリピン東海上にかけての季節風に伴う雨季)が各地で平年より数週間早く始まり、7月中旬までその活動が活発な状態が続きました。これに伴い、上空のチベット高気圧が平年より強まるとともに、その北側を流れる偏西風はユーラシア大陸から日本付近で平年より北を流れる状態が続きました。
一方、7月には、モンスーンの気流が集まったフィリピンの北東海上で積乱雲の発生が記録的に多くなって、低気圧が強まりました。そして、この低気圧の強まりとともに、日本付近で高気圧が共に強まる現象が現れました。この現象は、フィリピン北東の太平洋上の低気圧と日本付近の高気圧が共に強まる現象ということで、太平洋(Pacific)と日本(Japan)の頭文字を取って、PJパターンと呼ばれており、日本に猛暑をもたらす典型的な現象として知られています。2025年7月は、この現象が過去最も強く現れたことが確認されました。
出典: 令和7年夏の記録的な高温と7月の少雨の特徴とその要因及び8月前半の大雨をもたらした大規模な大気の流れの特徴について(気象庁)
要因分析結果③:海洋の特徴とその大気の流れへの影響
太平洋熱帯域の海面水温は、現象発生の基準には達しなかったものの、西部で平年より高く、中部から東部で平年よりやや低いというラニーニャ現象時に見られるような分布となりました。このような海面水温の分布は、過去の統計関係や気候のメカニズムから考えると、アジアモンスーンの活動が全般に活発だったことに影響したと言えます。
また、太平洋西部の熱帯域、特にフィリピンの東では、海水温が海面から深さ数百メートルまで平年よりかなり高くなりました。積乱雲の発生が多くなって、台風が発生すると海面の水温は低下することが多いのですが、この海域では深いところまで海水温が高かったことから、積乱雲が多く発生しても海面水温の高い状態が続きました。この結果、フィリピン北東では、7月の積乱雲の発生が記録的に多くなりました。
さらに、日本周辺から北太平洋にかけての中緯度帯で海面水温がかなり高かったことも、2025年の特徴です。上述したように偏西風が平年よりかなり北側を流れたことは活発なアジアモンスーンの影響ですが、この中緯度帯の高い海面水温も、大気との相互作用を通じて、偏西風が北側を流れる状態を維持する効果をもたらしたと考えられます。
最後に、ここで述べた熱帯や中緯度の海面水温分布の特徴は、北太平洋での海面水温の分布が十年規模で変動する大規模な現象とよく一致しています。この現象は、太平洋十年規模振動(PDO : Pacific Decadal Oscillation)と呼ばれているもので、2025年の夏の天候をもたらした背景要因の1つと考えられます。
出典: 令和7年夏の記録的な高温と7月の少雨の特徴とその要因及び8月前半の大雨をもたらした大規模な大気の流れの特徴について(気象庁)
要因分析結果④:地球温暖化の影響
現象の発生確率や強度を推定するイベント・アトリビューションという手法を用いて、文部科学省気候変動予測先端研究プログラムと気象庁気象研究所の合同研究チームが、2025年夏の日本の天候に対する地球温暖化の影響について調べました。その評価結果は以下の通りとなっています。
- 2025年の夏に観測された記録的な日本域の高温は、地球温暖化がなかったと仮定すると、ほぼ発生し得ない。
- 一方で、すでに地球温暖化が進行している2025年現在においても、数十年に一度の稀な現象だった。
- また、8月10日~11日にかけての熊本県を中心とした大雨については、地球温暖化がなかったと仮定した場合に比べて、降水量が増加することが明確に示された。
推定の対象期間 2025年に観測された気温を超えるのは 7月 夏(6~8月) 工業化以前 ほぼ実現しない ほぼ実現しない 平年値期間(1991~2020年) 約420年に一度 約500年に一度 すでに温暖化が進行している
2025年現在(括弧内は誤差幅)約70年に一度
(約30~100年に一度)約60年に一度
(約30~180年に一度)イベント・アトリビューションによる2025年に観測された気温の発生頻度
出典: 令和7年夏の記録的な高温と7月の少雨の特徴とその要因及び8月前半の大雨をもたらした大規模な大気の流れの特徴について(気象庁)
イベント・アトリビューションによる、気温や降水量への地球温暖化の影響評価
イベント・アトリビューションは、実際に発生した極端な現象に対して、地球温暖化がどの程度影響を与えていたかを定量的に示すために考案された手法です。気候モデルを用いて、地球温暖化が進行しつつある現実の条件と人間活動による地球温暖化が発生しなかった場合の仮想の条件の下で数値シミュレーションを実施し、現象の発生頻度に対する地球温暖化の影響を定量的に評価します。
2025年夏のような極端な現象は、地球温暖化の影響だけでなく、自然の極端なゆらぎも影響していることから、その発生頻度を見積もるためには、気候モデルを用いた大量の実験を行って、無数に起こりうる自然の変動幅を実現する必要があります。そして、その大量の実験結果によって推定された気温の分布と今年の気温の値を比較することによって、現象の発生頻度を見積もります。
下図の赤線は2025年夏の気温の推定で、黒点線で示された実際に観測された気温を上回る頻度から、2025年の現象の稀さを見積もるとともに、工業化以前の条件で計算された推定(青)との比較で地球温暖化の影響を評価します。
出典: 令和7年夏の記録的な高温と7月の少雨の特徴とその要因及び8月前半の大雨をもたらした大規模な大気の流れの特徴について(気象庁)
一方、大雨の強度を対象とする場合は、高解像度のモデルを使って、現象の発生を正確に再現することから始め、その上で、モデルに与える海面水温といった境界条件等から温暖化トレンド成分のみを取り除いて実験し、両者を比較することで強度の変化を評価します。
8月10日15時から11日18時までの27時間積算降水量、左:実況、中:実際の(温暖化がある)2025年の気候条件下で計算した降水量、右:温暖化が無かったと仮定して計算した降水量
出典: 令和7年夏の記録的な高温と7月の少雨の特徴とその要因及び8月前半の大雨をもたらした大規模な大気の流れの特徴について(気象庁)(気象庁)
本検討会では、地球温暖化を背景として上昇してきた気温の上昇率が近年増加してきていることも報告されました。世界の年平均気温の長期変化傾向は、10年あたり0.08℃の上昇でしたが、1995~2024年の直近30年間の変化傾向は、10年あたり0.21℃の上昇で、これは長期変化傾向よりも約2.6倍大きな値となっています。また、日本の夏平均気温も同様で、直近30年間の変化傾向は10年あたり0.50℃の上昇と、長期変化傾向(10年あたり0.13℃の上昇)の約3.8倍となっています。さらに、日本の夏平均気温は、2023年、2024年、2025年の3年連続で過去最も高くなり、これらの値は直近30年の変化傾向による推定値をも大きく上回りました。
このような気温の上昇率の近年の増加には、まだ統一的な見解は出されていませんが、十年規模のゆっくりとした大気・海洋の変動や大気汚染の改善などが影響しているのではないかという研究成果がここ数年で相次いで報告されています。
灰色:各年の値、青:1891年~2024年(世界)、1898年~2024年(日本)の長期変化傾向、紫:直近30年である1995年~2024年の変化傾向。
出典: 令和7年夏の記録的な高温と7月の少雨の特徴とその要因及び8月前半の大雨をもたらした大規模な大気の流れの特徴について(気象庁)
「異常気象分析検討会」とは
平成18年豪雪をきっかけとして、異常気象の発生要因等を分析することによって、社会経済の損失を軽減することを目指して、異常気象分析検討会を平成19年度に立ち上げました。現在は、東京大学先端科学技術研究センターの中村尚シニアリサーチフェローを会長とする12名の気候や気象、海洋の専門家が委員として参画しています。立ち上げ以来、年に1~2回程度、主に長期間にわたる異常気象が発生した際に速やかに開催し、その要因についての見解を発表しています。
出典: 異常気象分析検討会の概要と活動内容について(気象庁)
おわりに
この夏の記録的猛暑は、熱中症で多くの方が搬送されるなど社会的影響が大きく、国民の皆様にとっても強く記憶に残る夏だったと思います。気象庁が公表しているさまざまな統計資料や将来予測資料を活用して、地球温暖化について改めて考える契機にしていただければ幸いです。
脱炭素ポータルでは、今後も環境省内だけでなく、気象庁など関係組織とも連携し、より効果的な情報発信に取り組んでいきます。