グリーン製品の需要創出等によるバリューチェーン全体の脱炭素化に向けた検討会について
2050年ネット・ゼロ 及び GX(グリーントランスフォーメーション)の実現に向けて、中堅・中小企業を含めたサプライサイドでの脱炭素に資する投資や調達先の選択を推進するとともに、そうした企業活動により生み出されるグリーン製品・サービスの消費者による選択を促進し、需要を創出していくことが必要です。
こうした観点から必要な施策を検討するため、環境省は、これらの分野に知見を有する有識者で構成する、「グリーン製品の需要創出等によるバリューチェーン全体の脱炭素化に向けた検討会」を2025年5月から7月にかけて開催し、9月に「中間とりまとめ」を公表しました。本記事では、この中間とりまとめの内容について紹介します。
1.検討の背景
2050年ネット・ゼロの実現に向けては、政府全体として、これまで「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づく制度や各種補助金等の政策により、事業者の事業活動に伴う排出であるScope1,2に焦点を当てた温室効果ガスの排出削減を促進してきたところです。また、GXの実現に向けて、GX経済移行債を活用した先行投資支援などにより、生産段階でのGX投資が進みつつあります。
今後は、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」の一部改正により、2026年度から排出量取引制度が導入されることとなり、バリューチェーンの上流に位置する素材産業をはじめとする直接排出量(いわゆるScope1)が大きい事業者による脱炭素投資がさらに進められていくことが想定されます。
一方で、先行して排出削減に取り組んできたバリューチェーンの中下流の事業者においては、財務情報開示における要請の高まりもあり、Scope1,2に焦点を当てた自社での取組に加えて、例えば、脱炭素型の素材・中間財への変更、サプライヤー・エンゲージメントによる上流側の取組支援等のScope3に焦点を当てた新たなフェーズの排出削減に取り組みつつあります。
こうしたバリューチェーンにおける製品・サービスの供給側での脱炭素投資・取組を長期的・継続的なものとして定着させていくためには、その結果として生み出された脱炭素に資するグリーン製品・サービスの価値が評価され、需要側で支える市場を創っていくことが必要不可欠です。
しかし、脱炭素製品の中には、使用段階でエネルギーコストが削減されるなど、消費者に便益をもたらすものもある一方で、生産工程での排出削減に寄与するものの、機能としては従来品と同じで、場合によっては、対策技術のコストが現状では高いため、相対的に価格が高くなり、消費者が便益を見出しにくいものも多くあります。そうした製品も含めて、需要側である消費者・企業・政府がその価値を理解して購買・消費することが予見でき、供給側における各企業の積極的・継続的な脱炭素投資が行われるような市場の創出を目指すことが必要です。
このため、供給側における脱炭素に資する投資や調達先選択を中堅・中小企業含めたバリューチェーン全体に浸透させることと、その結果生み出されるグリーン製品・サービスの需要を顕在化させることを両輪で進められるよう、政府が一体となって必要な施策を講じていく必要があります。
2.現状と課題
中間とりまとめにおいては、図1のように、各企業の取組を踏まえた市場のパターンとそれぞれの市場パターンが置かれている現状について3つに整理した上で、現状における主な課題を整理しています。この項目では、その具体的な内容について紹介します。
(1)3つの市場パターン
(2)主な課題
3.施策の方向性
ここまでに示した課題を踏まえ、中間とりまとめにおいては、政府は、官民のステークホルダーと連携し、A)政府・企業・消費者におけるグリーン製品・サービス需要の喚起、B)バリューチェーン内企業間の連携推進、C-1)代表企業起点のサプライヤー・エンゲージメントの推進、C-2)地域単位での中堅・中小企業の脱炭素支援を推進するため、既存施策の一段の強化と新たな施策の展開を図るべきであるとされました。この項目では、その具体的な内容について紹介します。
(A)政府・企業・消費者におけるグリーン製品・サービス需要の喚起
政府におけるグリーン購入に加え、企業におけるGX率先実行宣言等も契機に、国内において、グリーン製品・サービスへの需要が一部で立ち上がる兆しがあるものの、これらの施策はBtoG/BtoBが中心です。
今後は、BtoG/BtoB市場での需要創出を続けることと併せ、BtoC市場においても、"届ける"(環境価値の評価・伝達、グリーン製品・サービスの提供)・"選ぶ"(環境価値の理解・様々な付加価値と組み合わせた購買行動の喚起)を通じて市場をより直接的・積極的に創出するための施策を、政府としても拡充すべきであり、例えば次のような施策を講じる必要があります。
(B)バリューチェーン内企業間の連携推進
今後、Scope3排出量の削減に向けては、バリューチェーン内企業間の連携を一層高めていく必要がありますが、特に、「川上先行型」でGX投資を進めている産業には、2026年から施行される排出量取引制度の対象事業者が多く存在していることから、同制度の下で、継続的な投資により排出削減が進められるよう、こうした取り組みが自社のScope3削減につながるという観点から、バリューチェーン内の企業間の連携により、GX投資により生産された中間製品の中下流の企業による購買を後押しする必要があります。
また、これまでScope3の算定は、主として対象活動に係る一定の係数に活動量を掛けて算定する、いわゆる2次データに基づく算定が行われていますが、今後、 Scope3の削減努力を適切に排出量に反映するためには、できる限り実測値に近い、いわゆる1次データを収集して算定することが必要です。他方、1次データの集計には多大なコストを要することも勘案し、削減努力の定性的な発信による補完や、バリューチェーン内企業間でのデータの連携・データベースの構築を推進する施策を講ずるべきです。
(C-1)代表企業起点のサプライヤー・エンゲージメントの推進
「川中先行型」の業界を中心に、バリューチェーン上の代表企業においては、中堅・中小企業への、主として"知る"・"測る"に関するサプライヤー・エンゲージメントが進みつつあり、環境省においてもガイドの策定やモデル事業を通じて支援策を講じてきたところです。今後は、 "減らす" の具体的な実現に向けた施策を推進する必要があります。
(C-2)地域単位での中堅・中小企業の脱炭素支援
環境省においては、地域金融機関・商工会議所等の経済団体や地方公共団体等の支援機関が連携して能動的に働きかける「プッシュ型アプローチ」で、中堅・中小企業の脱炭素経営普及を目指す、「地域ぐるみ」での支援体制構築を支援してきました。地域内の産業構成等の条件に応じて、“知る”・“測る” 段階から取り組む地域もあれば、“減らす” を軸としたより高度・先進的な取組に挑む地域もあることから、今後は、“知る”・“測る” を中心とした取組地域の裾野拡大(量の拡大)と、過年度支援地域における自走化や、"減らす" を中心とした取組の試行(質の向上)を同時に進める必要があります。
中間とりまとめにおいては、ここまでに紹介した施策を含め、図2の「バリューチェーン全体の脱炭素化に向けた施策パッケージ」のとおり、必要な施策についてまとめています。
4.おわりに ~今後の検討・実施に当たって~
中間とりまとめにおいては、今後講じていくべき各施策のうち、とりわけ施策A「政府・企業・消費者における最終需要の喚起」は、どの市場パターンにおいても不可欠であり、需要喚起に成功すれば、その需要獲得を目指して、サプライサイドも自ずと経済合理的にバリューチェーンでの連携や中堅・中小企業の脱炭素経営も進展していくことが想定されるため、政府は、施策Aに最優先で取り組むべきであることとされました。
また、グリーン製品・サービスに対する政府・企業・消費者による最終需要が一定程度顕在化され、それに伴って十分にグリーン製品・サービスが供給されるような市場を創造するには、予算措置、モデル事業等の短期的施策だけでは十分ではなく、また消費者の意識変革のみに頼るには限界があることから、市場の中で優れた排出削減価値を有する製品が高く評価され、調達、購入されるような制度的措置を導入し、社会に定着させることが必要であることとされました。
さらに、各種施策の展開において、日本ブランドのグリーン素材・製品の国際競争力を如何に高めるか、海外における需要を如何に取り込むかという観点や、日本企業のバリューチェーンが海外にも拡がる現状に鑑み、データ連携など国境を越えた取組の実効性を如何に高めていくかという観点について、留意が必要であるとされました。
環境省としては、中間とりまとめを踏まえ、国際情勢も含めて経済・社会環境が刻々と変わっていく中で、時機を得た施策を柔軟に展開できるよう、関係省庁・関係企業等と連携しながら、バリューチェーン全体の脱炭素化に向けて取り組んでまいります。