「日本の気候変動2025」と地域防災を考えるシンポジウム ~アーカイブ配信を開始しました~
地球温暖化の進行に伴い、これまで想定していなかった頻度や規模で水災害が発生するリスクが高まっています。気候変動に関する最新の観測結果と将来予測をまとめた「日本の気候変動2025」(文部科学省・気象庁)に基づき降水の変化を把握するとともに、各地における対応事例を知ることで、気候変動を踏まえた今後の防災を考えるきっかけとなるよう、気象庁では2025年12月18日に「『日本の気候変動2025』と地域防災を考えるシンポジウム」を開催しました。
本シンポジウムでは、気象庁から地球温暖化に伴う降水の変化と新たな防災気象情報の紹介、九州地方整備局や静岡県、倉敷市からは流域治水と地域防災の取組について、また新聞社からは取材を通じて得られた防災意識に関する講演が質疑を交えて行われました。
本記事では、そのシンポジウムの概要をご紹介します。
当日は多くの皆さまにご参加いただき、内容についても大変ご好評をいただきました。ぜひアーカイブ動画で当日の様子をご覧ください。
地球温暖化に伴う降水の変化
日本の年平均気温は、下記のグラフが示すとおり、1989年~2024年の期間で100年当たり1.40℃の割合で上昇しており、この気温の上昇に伴って、雨の降り方にも変化が現れています。気温が高いほど大気中に含まれる水蒸気量が増加し、雨となった時の強さが増加し、その結果、短時間に集中的に降る極端な大雨の発生頻度や強度が増加しています。
その一方で、雨の降る日自体は減少することもわかってきました。
気象庁の全国51観測地点で1901年から2024年に観測された降水量のデータによると、
日降水量 100 mm以上の年間日数は増加しており、最近30年間(1995~2024年)の平均年間日数(約1.18日)は、統計期間の最初の30年間(1901~1930年)の平均年間日数(約0.84日)の約 1.4 倍に相当します。
これに対して、日降水量 1.0 mm以上の年間日数は減少しており、最近30年間(1995~2024年)の平均年間日数(約117日)は、統計期間の最初の30年間(1901~1930年)の平均年間日数(約125日)の約 0.9 倍となっています。
折れ線(黒)は国内15観測地点における年平均気温の基準値からの偏差を平均した値を示す。
折れ線(青)は偏差の5年移動平均値、直線(赤)は長期変化傾向(この期間の平均的な変化傾向)を示す。
基準値は1991~2020年の30年平均値。
出典:文部科学省及び気象庁「日本の気候変動2025」本編 - 4.気温 - 図4-1.2
右図:日降水量 1.0mm以上の年間日数の経年変化(1901~2024年)
棒グラフ(緑)は各年の年間日数を示す(全国51地点における平均で1地点あたりの値)。
折れ線(青)は5年移動平均値、直線(赤)は長期変化傾向(この期間の平均的な変化傾向)を示す。
出典:気象庁「気候変動監視レポート」(2025年3月閲覧)
今後、地球温暖化が進行すると、1時間降水量50 mm以上の年間発生回数や、日降水量100 mm以上の年間日数などは増加し、極端な大雨の発生頻度は増加する(全国平均)と予測されています。
極端な大雨の「まれさ」や「異常さ」を表現する方法として、「数十年に一度」や「数百年に一度」といった確率的な表現を用いることがあります。
「日本の気候変動2025」における解析結果からは、工業化以前の気候において100年あたり一回の発生頻度であったような極端な大雨の発生頻度は、地球温暖化の進行に伴い、20世紀末の気候では約1.5倍(全国平均)に増加したと考えられています。さらに、世界平均気温が工業化以前よりも2℃上昇した気候では、この発生頻度は約2.8倍になること、また2℃上昇した気候における「100年に一回の極端な大雨」の日降水量は、工業化以前の「100年に一回の大雨」と比べて約17%増加することも予測されています。
これまでにご紹介した気温や降水に関する観測結果や将来予測は、「日本の気候変動2025」にまとめています。この資料は、国や地方公共団体、事業者等に気候変動対策を効果的に推進していただくための基礎資料として作成したものです。報告書の概要をまとめたプレゼン形式の資料やその解説動画、都道府県別リーフレットなども用意していますので、ぜひ一度ご覧ください。
新たな防災気象情報について
地球温暖化の影響で極端な大雨の増加が予測される中、その被害を最小限に抑えていくための対策がますます必要になっています。ここでは、その一助となる新たな防災気象情報について紹介します。
近年、集中豪雨等による自然災害が頻発化・激甚化しており、住民の避難行動につなげるため、より明確で、きめ細やかな情報提供が求められています。また、観測や予測技術の進展を活かして、大雨などの災害による被害の軽減を図ることが重要です。こうした背景を踏まえて、令和6年6月に取りまとめられた「防災気象情報に関する検討会」の提言をもとに、令和8年5月下旬から新たな防災気象情報の運用を開始する予定です。
新たな防災気象情報では、現行の大雨警報・注意報など、気象庁が発表する防災気象情報が大きく変わります。名称をわかりやすくするとともに、警戒レベル4相当となる危険警報を新設するなど、住民の避難行動に対応した5段階の警戒レベルに整合させ、災害発生の危険度の高まりに応じて各情報を発表します。詳しくは特設ページをご覧ください。
また、これまで「気象情報」として発表していた様々な情報を、大きく2つに分類します。
線状降水帯による大雨発生など極端な現象を速報的に伝える情報は「気象防災速報」、気象状況等を網羅的に解説する情報は「気象解説情報」として発表します。詳しくはこちらの資料「気象情報(解説情報)の改善 ~気象防災速報・気象解説情報への整理~」をご覧ください。
本シンポジウムでは、この他にも線状降水帯の予測精度向上に向けた取組や、防災気象情報コンテンツの充実に向けた今後の予定が紹介されました。ぜひアーカイブ動画をご覧ください。
流域治水と地域防災の取組について
地球温暖化の進行に伴い雨の降り方が変化する中、水防災の分野では、気候変動による降水量の増加を踏まえた治水計画を策定するなど、洪水の流量や発生頻度の増加への対応が進められています。
本シンポジウムでは、九州地方整備局河川部河川計画課 嶋田課長、静岡県交通基盤部河川砂防局河川企画課 長谷川課長、倉敷市防災危機管理室危機管理課 三好課長、毎日新聞社くらし環境部 田中記者の4名の方にご講演いただきました。
九州地方整備局の嶋田課長からは、「気候変動を踏まえた治水計画への見直しと九州地方における流域治水の取組」と題して、国土交通省が進める気候変動に伴い激甚化・頻発化する水害に対応するための治水計画の見直しや、河川管理者が主体となって取り組む治水対策に加え、その河川流域全体のあらゆる関係者が協働して水害を軽減させる治水対策「流域治水」の九州地方での取組について紹介いただきました。
多くの取組の中で特に注目されるのが、2025年度のグッドデザイン賞を受賞した、小学生を対象とした防災教育教材集「川内川水防災河川学習プログラム」です。このプログラムは、九州地方整備局川内川河川事務所及び鹿児島大学教育学部、薩摩川内市内の教育機関が連携し、地域の防災力の核となる人材育成を目的として開発した体系的かつ横断的な防災教育学習プログラムです。
審査委員からは、10年前から水害に対する防災対策の重要さを見据えたこと、学習進度に合わせて生活に役立つプログラムを横断的かつ多面的に構築したこと等が高く評価されました。
静岡県の長谷川課長からは、「新たなステージに入った水災害に対する静岡県の取組について」と題して、令和4年台風第15号等による大規模な被害を踏まえた検討結果と、今後さらに激甚化・頻発化が想定される水災害に対して、静岡県が関係者と共に進める「流域治水」の取組について紹介がありました。
「流域治水」の取組として、昭和49年7月の七夕豪雨の被害を契機として進められた総合治水対策特定河川事業では、平成21年に巴川が特定都市河川に指定され、放水路や遊水地・雨水排水施設等に加え、流域における雨水貯留施設等の整備が進められました。
こうした取組の効果は、七夕豪雨に匹敵する豪雨となった令和4年台風第15号の際に明確に表れ、浸水面積が減少し、浸水家屋数も七夕豪雨時の2割以下に抑えられたことが紹介されました。
倉敷市の三好課長からは、「気象災害対応と防災の取組について」と題して、平成30年7月豪雨災害を経て同市が推進してきた「流域治水」や倉敷市災害に強い地域を作る検討会の取組を紹介いただきました。
多くの取組の中でも特に注目されるのが、住宅の防音性・気密性の向上により、風雨が強い状況において、屋内では屋外拡声塔による音声が聞き取りづらいという問題があること等を踏まえて、300を超える屋外拡声塔を令和8年度末で廃止し、その代わりとして、スマートフォンを利用した「くらしき緊急告知アプリ」と、スマートフォンを持っていない方向けの「緊急告知FMラジオ」を導入する点です。
これらの仕組みは、緊急放送時に自動で起動して音声が流れるほか、アプリに登録していれば遠方に住む家族にも情報が届き、その家族から避難を促すことも可能になります。こうした新たな伝達手段により、より確実な情報伝達と避難行動につながることが期待されています。
毎日新聞社の田中記者からは、「頻発化・激甚化する災害に備えるための防災意識について」と題して、気候変動や気象災害の取材経験や、世論調査の結果をもとに考察する防災意識についてお話をいただきました。
自然災害に対する意識調査では、災害への不安や危機意識を感じる人の割合は高いが、一方で「今、最も不安に思うことは何か」という質問に対し、災害に対する不安が、必ずしも全体の中で高い割合にはならないというお話がありました。こうした点から、生活の中で防災行動に移すことが容易ではないということが述べられました。
また、取材して発信する立場として、どのような情報を発信していくべきか、記者としての視点や考え方についても語られていますので、ぜひアーカイブ動画をご覧ください。
アーカイブ配信について
本シンポジウムの全体は、気象庁のYouTubeアカウントでアーカイブ配信しています。これまでにご紹介した各講演の内容を、いつでもご覧いただけます。
また、過去に開催した「教育現場における気候変動の啓発を考える」をテーマとしたディスカッションや気候講演会のアーカイブも公開していますので、併せてぜひご視聴ください。
脱炭素ポータルでは、今後も気象庁など関係組織とも連携し、より効果的な情報発信に取り組んでいきます。