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【有識者に聞く】気候変動と人権問題の関連性とは?
「公正な移行」の重要性(1/2)

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普及啓発

気候変動は、地球規模での環境問題として広く認識されていますが、その影響は単に気温の上昇や自然災害の増加にとどまりません。現実問題として、気候変動は私たちの人権にも深刻な影響を与えています。また、国や企業として脱炭素化を進める上でも人権への影響が想定されます。このような社会課題を踏まえ、「公正な移行(Just Transition)」つまり、誰一人取り残さないかたちでの脱炭素社会への移行を推進する必要があります。

今回は、気候変動と人権問題の関係性や、国内外の動向について、ことのは総合法律事務所の佐藤暁子氏に解説していただきました。

気候変動が人権に与える影響とは?

気候変動問題と人権問題とでは関連性についてあまりなじみがありませんが、どのように関係しているのでしょうか?

佐藤

例えば、世界では干ばつによる水不足等により多くの人々が影響を受けています。日本でも、熱中症の増加や農作物の不作など、気候変動はさまざまなかたちでその地域に暮らす人びとの生活に影響を及ぼしています。

さらに、こうした気候変動の影響は、子ども、女性、移住労働者、障害者といった特に社会において脆弱な立場の人びとがより深刻な影響を受けやすい傾向にあります。これは気候変動に限らず、さまざまな人権問題に共通している課題です。

気候変動の影響は、社会的な格差だけでなく、グローバルノース(高所得国等)、グローバルサウス(新興国・低中所得国等)と呼ばれる国のあいだでの格差にも関連します。例えば、島しょ国の中には、自分たちの経済活動とは関連のない気候変動の影響に起因する海面上昇により国土そのものが喪失の危機にさらされています。これはまさに人権そのものに関わる問題といえます。

こうした背景を踏まえ、近年、国際的には、気候変動問題と人権問題を結び付けて考えることの重要性がより一層強調されています。

気候変動がもたらす人権への影響の一例として、気温上昇による熱中症、豪雨・台風等による家・施設の損壊、干ばつによる山火事発生に伴う居住地・コミュニティの消失、などが挙げられます。
気候変動がもたらす人権への影響(一例)

脱炭素化が人権に与える影響とは?

人権への影響、また気候変動による影響を緩和するために脱炭素化が推進されています。一方で、脱炭素化の過程でも、人権への影響に配慮が必要であると伺いました。具体的にはどういったことなのでしょうか?

佐藤

よく指摘されるのは労働者や地域コミュニティへの影響です。脱炭素化の推進は、石油や石炭といったCO2排出量が多いことから脱炭素社会に向けて事業の移行が必要となる産業の労働者やコミュニティ、また受益者である市民が大きな影響を受けることが予測されます。これは、国際労働機関(ILO)も強調している問題であり、例えば、フランスのイエローベスト運動(※)でもみられた課題です。

(※)2018年11月、フランスにおいて燃料税引上げに関する政府決定を契機に「黄色いベスト運動」と呼ばれる大規模なデモが発生し、格差是正を訴えるデモとしてフランス全土に広がり、一部過激な暴動も発生した。

さらに、先住民族に対する深刻な負の影響も指摘されています。例えば、再生可能エネルギー事業やカーボンクレジットの発行は、脱炭素化を進める上で重要な施策ではありますが、その事業が先住民族の土地で行われる場合、その土地を奪ったりしてしまうことがないように取組を進める配慮が必要です。

脱炭素化を進めることが気候変動に対する取組として必要不可欠である一方で、コミュニティや労働者への負の影響がある場合には、それを無視してはいけません。国際的には、脱炭素化の取組を行う際に、コミュニティや労働者といった影響を受ける人々の人権に配慮することが必要だと強調されています。これを「公正な移行(Just Transition)」と呼びます。
気候変動対策は地球規模の課題として取り組んでいく必要があります。このとき、その対策自体による人権への負の影響も考慮したうえで適切な対応になっているか、という視点も重要なのです。

脱炭素化に伴い懸念される人権問題の一例と公正な移行の重要性