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CCS実用化へ動き出す日本
法制度の整備と新技術が切り開く脱炭素社会への道筋

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普及啓発
CCS実用化へ動き出す日本 法制度の整備と新技術が切り開く脱炭素社会への道筋

2050年ネット・ゼロの実現に向け、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を削減しようと、日本では再生可能エネルギーの導入拡大や省エネルギーの推進が進められています。しかし、それだけでは削減しきれません。例えば、鉄鋼や化学、セメントなどの製造工程そのものから排出されます。こうした「削減しきれないCO2」への対応策として期待されているのが、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留)です。工場や発電所などから排出されたCO2を回収し、地下深くの地層へ貯留する技術で、日本の脱炭素社会を支える重要な選択肢の一つとされています。

CCSを巡る動きは、2030年代初頭の社会実装に向けて加速しています。2024年に成立したCCS事業法は、CO2の輸送や貯留のルールを定める法律です。段階的に施行が進められ、2026年5月には全面施行されました。また環境省では、新たな選択肢として期待されている「浮体式洋上圧入CCS」の技術検討・実証を進めています。2021年度~2025年度の5か年で実施した事業では、分離・回収後に圧縮・液化した二酸化炭素の船舶輸送、海底下への貯留やモニタリングに関する技術検討・実証を行いました。本記事では、制度整備はどこまで進んだのか、そして新たな技術にはどのような可能性があるのか、CCSの最新動向を紹介します。

CCSのイメージ画像
工場や発電所などで発生したCO2を回収し、
輸送した上で地下深くの地層に貯留するCCSの基本的な仕組み

CCSとは? なぜ今必要なのか

脱炭素社会の実現に向けた取組としては、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーや、排出ガスを出さない電気自動車などを思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、脱炭素社会はこれらだけでは実現できません。

例えば鉄鋼産業では、「鉄鉱石から鋼を作る工程」でCO2が発生します。高炉を改良するといった省エネルギー化や再生可能エネルギーの活用といった技術開発が進められていますが、CO2の排出量を完全にゼロにすることはできません。また、削減しきれない排出量を相殺するカーボンクレジットの活用も選択肢の一つですが、将来的にすべての排出量をクレジットだけで賄うことは現実的ではないと考えられています。こうした事情を踏まえたうえで、脱炭素化を進める手段として期待されているのがCCSです。製鉄所や工場などから排出されたCO2を回収し、地下深くに貯留することで、大気中へ放出されるCO2の削減につなげます。

2012年より北海道苫小牧沖において、日本初の大規模なCCS実証試験が行われ、2016年から2019年にかけて、約30万トンのCO2が海底下の地層へ圧入されました。その後も継続的なモニタリングが行われており、安全性などに関する技術的な知見が蓄積されています。

社会実装に向けて進む法制度の整備

CCSを実際の事業として普及させるためには、技術面や安全性をクリアするだけでなく、事業者向けの制度整備も欠かせません。その基盤となるのが、2024年に成立した二酸化炭素の貯留事業に関する法律(CCS事業法)です。

CCS事業法は、CCSを安全かつ円滑に進めるため、探査から貯留、その後の管理までを制度化した法律です。まず有望な地層を調査する「探査」、続いて地下を掘削して地層の状態を確認する「試掘」、そして実際にCO2を貯留する「貯留事業」という一連の流れについて定めています。成立後、探査や試掘に関する規定が順次施行され、2026年5月には貯留事業や導管輸送事業に関する規定を含めて全面施行となりました。日本でも本格的な事業の普及に向けて、制度的な土台が整ったことになります。

CCS事業法の施行時期のイメージ
探査、試掘、貯留事業という段階ごとに制度が整備されている

水・大気環境局海洋環境課の担当者は「CCSの社会実装には、環境保全と事業推進の両立が重要です。制度面でモニタリングについてルールを定めるなど、安全性を確保しながら事業を進められるよう整備を進めています」と説明します。

CCSが安全かつ社会に受け入れられて実施されるために

CCSについて説明すると、「地下に埋めたCO2が漏れ出すおそれはないか」と不安に感じる人もいるかもしれません。しかし、CO2を地中へ送り込む以前に、まずは長期間安定して閉じ込められる地層を選ぶことを重要視しており、貯留先として利用される地層の上には、CO2の移動を抑える遮へい層が必ず存在しています。こうした地質構造を事前に確認したうえで圧入されます。さらに、圧入中~圧入後も継続的なモニタリングを通じて、安定して閉じ込められているか状況をチェックします。

環境省が行なったモニタリングの様子
環境省が行ったモニタリング調査の様子

海洋環境課の担当者は「地層からCO2が漏れ出さないことを技術的に証明できなければCCSは実施できません。その上で、CO2が安全に貯留されており、海水の化学的性状や生態系などにも影響がないことを確認するためにモニタリングを行います」と言います。

モニタリングにあたっても、海水中のCO2濃度を測定するセンサーや海洋生物を調査する水中ドローン、電磁探査システムなど、環境負荷が少なく正確にデータを測定できる機器や技術の開発が進められています。こうした取り組みによって、海洋環境への影響を効率的に把握しながら、安全性を確保することが期待されています。

モニタリングの様子の図
様々な手法のモニタリングを組み合わせて安全であることを監視している

船で運び、海から圧入する「浮体式洋上圧入CCS」

CCSの社会実装に向けて、環境省が技術検討・実証を進めているのが「浮体式洋上圧入CCS」です。回収したCO2を船舶で輸送し、洋上に設置した「浮体式圧入設備」から海底下の地層へ圧入・貯留する方式です。

パイプラインCCSと浮体式洋上圧入CCSのイメージ
「浮体式洋上圧入CCS」は、輸送船で運んだCO2を洋上の浮体式圧入設備から海底下へ圧入する

日本では、CO2を多く排出する工業地帯と、CO2を貯留できる地層が必ずしも近くにあるわけではありません。そのため、回収したCO2をどのように輸送し、貯留地点まで届けるかが重要な課題になります。

浮体式洋上圧入CCSでは、回収したCO2を液化して船舶で輸送し、洋上に設置した浮体式圧入設備から海底下へ圧入します。地球環境局地球温暖化対策事業室の担当者は「浮体式洋上圧入CCSの特徴は柔軟性です。注入場所の移動も可能ですし、パイプライン方式では対応が難しい海域でも活用できる可能性があります」と説明します。

離岸距離が長い海域や水深の深い海域にも適用しやすく、環境省の検討では国内の貯留可能量のうち約8割に適用できる可能性が示されています。

実証から社会実装へ

今回完了した令和7年度環境配慮型CCUS実証拠点・サプライチェーン構築事業 では、CO2の船舶輸送、洋上からの圧入、地下や海洋でのモニタリングなど、浮体式洋上圧入CCSのサプライチェーン全体を対象に技術検討・実証が行われました。

例えば船舶輸送に関しては、液化したCO2をタンクで安全に貯蔵できるよう、CO2と鋼材の腐食に関する試験が行われ、タンクに用いる鋼材の仕様の検討が進められました。また、CO2輸送船と浮体式圧入設備をつなぐ移送ラインに関しては、洋上での揺れの影響を確認する試験を実施し、設計手法の整理が進められました。

地球温暖化対策事業室の担当者は「今回の令和7年度環境配慮型CCUS実証拠点・サプライチェーン構築事業 では、船舶輸送や圧入設備、モニタリングなど、実用化に必要な要素技術の検討を進めてきました。実用化に向けて解決すべき課題は残っていますが、社会実装に向けた基盤づくりは着実に進んでいます」とします。

おわりに

こうした新しい技術の本格導入には、今後も実証や制度整備を重ねていく必要があります。一方で、今回完了した事業により、浮体式洋上圧入CCSの実現に向けた技術的な道筋がより明確になりました。2050年カーボンニュートラルの実現に向け、日本のCCSは実証から社会実装へ向かう新たな段階に入りつつあります。

この記事に関してのお問い合わせ先

  • 環境省 水・大気環境局 海洋環境課
  • 環境省 地球環境局 地球温暖化対策事業室