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【有識者に聞く】気候変動対策を推し進めるグリーンファイナンス(2/2)

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普及啓発

2024年11月11日~22日にアゼルバイジャン共和国・バクーで開催される国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)は「ファイナンスのCOP」とも呼ばれ、気候変動対策を支援するための資金拠出が最重要課題とされています。このように、世界的にグリーンファイナンスへの注目は高まっており、その取組は拡大しています。
今回は、このような動きを受け、グリーンファイナンスの概要や国内外の取組、今後の方向性について、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの吉高まり氏に解説していただきました。

世界ではどのような取組がなされているのか?

世界ではグリーンファイナンスについてどのような動きが見られるのでしょうか。

吉高

2015年のパリ協定・SDGsの採択、G20財務相会合を受け、欧州ではグリーンファイナンスを含むサステナブルファイナンスの必要性が謳われるようになりました。2018年にサステナブルファイナンスアクションプランが策定され、ESG関連情報の開示やタクソノミーなどESG投資のための制度整備が進みました。

その後、コロナ禍もあり短期的に業績が見通せない中で、グリーンなど使途を絞って資金調達をすることが透明性につながるということで、ESG投資家の需要が高まり、グリーンボンド等の発行額が増えた要因となりました。

なぜなら、責任投資原則(PRI: Principles for Responsible Investment)に署名をした金融機関は、その後にどれだけESGに取り組んでいるかについて報告をする必要があります。資金使途がはっきりしたものにESGを意識して投資したということもグリーンファイナンス増加の背景にあります。

グリーンファイナンスの発行額が増えていく一方で、グリーンウォッシュ(見せかけのグリーンファイナンス)の批判もあります。ESG投資が拡大する中、欧州では、グリーンウォッシュ防止の観点から、サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)による規制の厳格化等が進んでいます。

そもそも、日本に比べて欧米では個人や企業が株式・債券を買う直接金融が盛んということもあり、お金を出す投資家に対する情報開示が積極的に進められてきました。このような情報開示はグリーンファイナンスをすすめる上でのポイントとなります。

国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)ではどのような議論が予想されますでしょうか。

吉高

今年のCOP29は「ファイナンスのCOP」とも呼ばれ、途上国の温室効果ガス削減(緩和)と気候変動の影響への対処(適応)を支援するためのファイナンスである「気候資金」が重要な議題とされています。気候資金に関する新たな目標である、「新規合同数値目標(NCQG: New Collective Quantified Goal)」に関する資金提供者(民間資金を含むか否か)等や、数値目標について合意ができるかどうかに注目が集まっています。

また、今年もファイナンスデーでは、GFANZ(グラスゴー金融同盟)の会合も開かれる予定であり、依然としてトランジションのためのファイナンスについての交渉がされると思われます。

国内ではどのような取組がなされているのか?

世界の動向を受けて、国内に目を向けるとどのような取組が進められているのでしょうか。

吉高

国内でも同様に、グリーンファイナンスは拡大しています。一方で、実際にグリーンファイナンスに取組む際の課題として、具体的にどのような取組がグリーンといえるのかは判断が難しいというものがあります。

このような悩みに対し、環境省はグリーンな資金使途について一定の目線を与えるため、明確な環境改善効果をもたらすグリーンプロジェクトの判断指針や細かなガイドラインを策定しています。何がサステナビリティ/グリーンなのか、またグリーンといっても環境改善効果をどう測るべきなのかという内容が示されたリストを策定するなど、事例も含めて公開しています。

地域も巻き込んだグリーンファイナンス

地域の脱炭素化を進めるためにもグリーンファイナンスは重要だと思いますが、地域ではどのような動きがあるのでしょうか。

吉高

政府が地域特性に応じて脱炭素を進めていく脱炭素先行地域の取組では、地域の金融機関が共同参画している事例が多くあります。そこでは、再エネや省エネ機器の導入費用の融資など、グリーンファイナンスの活用が見られます。目標とする「脱炭素ドミノ」のドミノ倒しを起こすためには、補助金頼みではなく、グリーンファイナンスも活用しながら持続できるビジネスモデルをつくることが重要となっています。


また、脱炭素に貢献する多様な事業への投融資を行う官民ファンドである「株式会社脱炭素化支援機構」は、地域の企業やベンチャーのCO2削減に効果のある新たなビジネス等に対して資金を出し、地域金融機関も含めてお金を出しやすいような仕組みを作っています。


他にも大きな取組として、国として 20 兆円規模の大胆な先行投資支援を実行するGX経済移行債の発行が挙げられます。クライメート・トランジション・ボンド・フレームワークのもと資金使途を明確化していますが、CO2排出量の削減を前提としたサーキュラーエコノミーやネイチャーポジティブといった隣接する分野も適格事業として分類されています。

今後はどのような取組が求められるの?

国の取組

更なるグリーンファイナンスの拡大に向け、国としてより注力していくべきことを教えてください。

吉高

今回紹介したように、国からグリーンファイナンスに関する様々な政策パッケージなどが出されているのですが、まだ十分に知られていないのが実情です。これらの積極的な活用に向け、まずは発信を通して知ってもらうことが第一歩です。

また、金融機関が資金を供与する際には予見性が重要です。すなわち、グリーンファイナンスのメリットが明確でなければ金融機関・企業側としても活用することができないため、排出権取引を含むカーボンプライシングなど、明確なコストとしての提示が重要です。

加えて、環境配慮のコストを製品価格に織り込み、市場に入れるための施策が必要です。どうしても身近なリスクは認識しやすいのですが、環境に関するリスクなどのいわゆる「遠くのリスク」は過少に評価されがちなので、政策でサポートしていく必要があります。

企業・自治体の取組

最後に、企業や自治体のみなさんについてはいかがでしょうか。

吉高

今後、全上場企業がサステナビリティに関する開示規制の対象になることが見込まれており、情報開示をしなければ外部から評価されないため、まずはこのような動きに対応することが求められます。 また、GXのメリットの面では、グリーンな取組を進める上で、エネルギーコストの削減効果を実感する企業もあります。同時に、金融機関がグリーンファイナンスの重要性を認識しはじめており、様々な手法・商品が生み出されているため、資金調達の幅が広がっています。

また、企業がグリーンであることを当たり前のこととして考え行動することで、環境意識の高い次世代の採用力向上につながったり、CSR(企業の社会的責任)ではなく本業としてグリーンに取り組むことで、有利な資金調達ができたり、それらが企業価値の多様化につながったりと多岐にわたるメリットがあるので、ぜひ活用してほしいと思います。

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