日本の新たな温室効果ガス削減目標(NDC)とGX推進政策について(2/2)

2025年2月18日、地球温暖化対策計画が閣議決定され、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局へ、日本の次期NDC(温室効果ガス削減目標)が提出されました。本目標の達成のためには、脱炭素、経済成長、エネルギー安定供給の同時実現をめざすGX(Green Transformation)の推進が不可欠です。
この記事では、日本の次期NDCの内容に加えて、日本でのGX推進政策の取組について、環境省の取組を中心にご紹介します。
GX実現に向けて国はどんなことに取り組んでいるの?
GXの取組は、過去30年間続いた日本の停滞を打破する大きなチャンスといえます。GX分野に投資することで、次のような成果が期待できます。
しかしながら、日本にはイノベーションの担い手や技術があるものの、それを迅速に商業化し、大規模に展開することが十分にできていません。また、市場の力だけではGX分野の需要が明確になりにくく、不確実性も高いという課題があります。
そこで、GX産業構造を実現するため、市場創造を含めて次のような取組を進めています。
GX製品・サービスの需要創出(くらしGX)
企業がGXにもっと投資しやすくするために、省エネ技術や新しい技術の導入をサポートします。また、GXの価値をわかりやすく示したり、国民全体で取り組む「デコ活」を展開したり、公共部門が環境に優しい製品を優先的に採用するようにします。これらの取組を通じて、私たちのくらしの中でGX製品やサービスの需要を増やしていきます。
このようなGX製品を始めとする脱炭素型の製品・サービスは、光熱費削減、生活の快適性や生産性の向上、エネルギーの自立化によるレジリエンス向上にも貢献します。
政策支援
循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行
これまでの大量生産、大量消費、大量廃棄型の経済・社会様式につながる一方通行型の線形経済から、持続可能な形で資源を効率的・循環的に有効利用する「循環経済」への移行も推進しています。
具体的には補助事業による先進的な資源循環設備の導入促進や再資源化事業等高度化法に基づく認定制度、使用済太陽光パネルのリサイクル等を通じて、循環経済への移行と脱炭素化を共に進め、産業のGX実現をめざします。
循環経済への移行と脱炭素化を同時に進めることで、地方創成や産業競争力の強化、経済安全保障にも貢献していきます。
政策支援
- 補助事業による先進的な資源循環設備の導入促進
- CO2排出削減が困難な産業の排出削減に大きく貢献する資源循環設備の導入支援
- 希少金属の確保に資する革新的GX製品向け高品質再生品を供給
- 再資源化事業等高度化法に基づく認定制度
- 再資源化事業等の高度化に係る事業について、生活環境の保全に支障がないよう措置を講じさせた上で、国が一括して認定を行い、廃棄物処理法の廃棄物処分業の許可等の特例制度を創設
- 使用済太陽光パネルのリサイクル
使用済太陽光パネルの義務的リサイクル制度の活用を含め、引取り及び引渡しが確実に実施されるための新たな制度の構築に向けて検討
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太陽光パネルのリサイクル設備
中堅・中小企業のGX(バリューチェーン・地域ぐるみでの脱炭素経営の推進)
脱炭素化及び経済成長の実現のためには、中堅・中小企業の脱炭素経営の取組は極めて重要ですが、多くの中堅・中小企業において、取組の優先順位が上がっていないのが現状です。
そこで、中小企業を含めたバリューチェーン全体での企業の脱炭素経営(気候変動対策の観点を織り込んだ企業経営)の普及・高度化による、企業の取引先を含めた脱炭素化と競争力強化を支援しています。
普段から中小企業との接点を持つ地域金融機関・商工会議所等の経済団体等と地方公共団体等の支援機関が連携し、脱炭素経営普及をめざす、地域ぐるみでの支援体制構築に向けたモデル事業を実施しています。
政策支援
- バリューチェーン全体での脱炭素化の推進
- Scope3排出量(※)の算定方法の検討・整理や、中小企業を含むバリューチェーン全体の排出削減計画の策定支援
※Scope3排出量・・・自社事業の活動に関連する他社の排出量(Scope1、Scope2以外の間接排出)![]()
- 地域ぐるみでの脱炭素経営支援体制構築事業
- 令和5年度、6年度合わせて全国で26件のモデル地域を採択し、各地域特性を活かして支援体制構築に向けた取組を推進
地域裨益型・地域共生型で地方創生に資する地域脱炭素の推進(地域GX)
例えば、豊富な日照がある地域は太陽光発電に適しているなど、クリーンエネルギーの供給は地域の偏りがあることから、エネルギー供給に合わせて需要を集めていくという発想が必要です。
GX2040ビジョンでは、GX産業への転換が求められるタイミングで、効率的・効果的にスピード感をもって、「新たな産業用地の整備」と「脱炭素電源の整備」を進め、今後の地方創生と経済成長につなげていくことをめざしています。
このような考えのもと、環境省では脱炭素と地域課題解決の同時実現のモデルとなる脱炭素先行地域を、2025年度までに少なくとも100か所選び、2030年度までに実現することをめざしています。これまでに全国38道府県の107市町村(38道府県、66市、32町、9村)から81の提案を選定しました。

また、全国で重点的に進める屋根置き型太陽光発電やZEB・ZEH(ネットゼロ・エネルギー・ビル、ネットゼロ・エネルギー・ハウス)の導入を図るため、重点対策加速化事業を進めており、これまでに全国149自治体で実施されています。
さらに、GX経済移行債を活用して、地域の産業育成や需要の創出をめざします。地域マイクログリッドや熱導管の導入を支援し、新しい脱炭素技術や製品の初期需要を作り出すため、これらの技術を地域で導入する新しいモデルを構築しています。
AZEC等を通じたアジア諸国等のルール形成・脱炭素化への貢献
日本は2050年ネット・ゼロの実現に向けて、世界各国と協力して取組を進めています。
しかし、グローバル化が進み、生産拠点の海外移転が簡単になった現代では、他国とのエネルギー価格の差が国内産業の維持・発展にとって非常に重要な課題となっています。このため、投資を促進する際には、現実的な移行(トランジション)を追求し、世界の状況を冷静に見極めることが必要です。この現実的な移行は、日本と同じように脱炭素化をめざすアジアの国々にとっても重要です。
このような課題感を踏まえ、環境省は次のような取組を通じ、アジアをはじめとする世界の排出削減と持続可能な発展、新たな成長に貢献し、地方公共団体や地域の企業の「環境」で稼ぐ力を強化します。
- 二国間クレジット制度(JCM)を活用し、質の高い炭素市場を広げる
- クリーンで脱炭素型の廃棄物処理を実現するために、廃棄物発電プロジェクトを進める
- 各国の民間企業向けの温室効果ガスの排出量算定・報告制度構築を支援する
- 地方自治体や地域の企業が積み上げてきた脱炭素都市づくりの経験やノウハウを、海外の都市に伝える
本記事では、環境省の取組を中心にNDCとその達成に向けたGXの取組を紹介してきました。
今後も政府、企業、そして国民が一体となってGXを推進し、NDCの達成、ひいては持続可能な社会の実現に向けた取組を着実に続けていくことが重要です。